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ichib29
2025-02-12 07:28:05
1722文字
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《 文章 》
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旧友〈後編〉
「絆叶」
突然、背後から名前を呼ばれ息が止まった。振り返るべきか、振り返らずにそのまま進むか、逡巡してしまい動けなくなってしまった。背後から足音がし、ひょいと身軽に目の前に現れたのは、数年ぶりの彼だった。
「やっぱりそうだ。久しぶり、元気だった?」
最後に会った時と同じように、彼は言う。少し低くなったように感じる声、明るくなった髪色、目線の差は縮まったようだ。それでも彼は変わっていないと感じた。
「髪色、暗くしちゃったの?俺、その色いいなーって思ってたんだよね。言ったことあったっけ?なかったっけ?」
言葉に詰まっていると、彼は「最初の頃みたい」と小さくふふっと笑った。そしてすぐに何か気になったように、やや顔を近づけてまじまじとこちらを見た。
「ん!なんか変だと思ったらそばかすが無くなっちゃった?目の色は違うなってすぐにわかったんだけど。ね、あったよね、そばかす」
彼はこちらの反応を少しうかがうように間を開けて、沈黙を同意だと判断したように「ね」と相槌を打った。
「でもこんなところで会うとは思わなかった。ん、でも会う可能性はあるのか
……
絆叶ってさ、今“オニ”やってるよね?」
”オニ“という言葉に反射的に後退り、彼と距離をとった。その反応に彼は驚いた顔をした。
「あっ、ごめんごめん。安心してよ、俺友達を売ったりしないよ。たまたま自警団の人たちが写ってる写真で絆叶のこと見つけてさ。でもそっかぁ
……
じゃあ俺とはもうあんまり話したりできないね、たぶん」
思考が追いつかず、握った手に冷や汗が滲むのを感じる。彼としていた会話のほとんどは、相槌だった。自由に話す彼の話を聞いていただけだった時間は同じはずなのに、今ほど息苦しかったことはなかった。
彼は「絆叶と話すの好きだったんだけどなぁ」と独りごちる。
ここは“S都市”で、彼がここにいるということは不法滞在の犯罪者で、ならば自警団員である自分は、彼を捕縛しなければならない。
「一緒に
……
」
絞り出した声が掠れる。昔何度も聞いた、彼の「一緒に帰ろう」の声が脳裏を過る。
「一緒に、帰ろう
……
」
あまりにも頼りない声だ。それに、言葉選びが違ったかもしれない。彼は一瞬不思議そうな顔をしたあと、あぁと合点がいったように笑みを浮かべた。
「俺はここにいるよ」
「
……
でも」
「たぶんさ、違うんだよ。絆叶が“オニ”なら、もう、方向が」
ここで彼に会ってしまったことの意味を、改めて理解した。実感したとも言える。
相変わらず何も言えない自分をよそに、彼はまた笑みを浮かべた。
「じゃあ
……
俺行くよ。もし絆叶が俺を捕まえに来たら、また会お。じゃあな!」
あの頃の別れ際みたいに、彼は手を振って行ってしまった。自分はただ、黙ってそれを見送ってしまった。
彼はあの頃と変わらない。変わらないことがおかしいのに。
周囲に人の気配はない。ようやく息をして、踵を返した。彼が去ったのと、反対の方向に。
とある飲食店に入る。「いらっしゃい」と声をかける店員から、目を反らしぼそりと注文をし、空いた隅の席に座った。すぐに拠点の住宅に帰ればよかったのだが、どうにも遠回りしてしまった。
ちょうど店もすいている時間帯だ。程無くして注文した料理が届く。小さく店員に頭を下げ、黙々とそれを口に運ぶ。何度も食べたことのあるその味は、思っていた以上に心を落ち着かせた。
こんなところにでも、彼がいてくれれば良いのにと、思っていた。その意味を、わかっていたつもりだった。
それに、彼の言葉から感じる違和感。嫌な予感のようなそれが、じわじわと腹の奥に深く溜まっていくのを感じていた。”犯罪者である自覚“を強く纏わりつかせた彼にとっての、”自由“がここにあるというのなら。
食べ終わると、代金を卓に置き、席を立つ。店員と、奥の厨房の店主がこちらを振り返った気配を感じながら、小さく「ご馳走様」と伝えて早々に店を出た。
深く息をつく。それでも、「君にまた会えて良かった」と伝えられれば良かったのかもしれない。
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