コタジ
2025-02-12 00:22:40
1322文字
Public
 

酔狂なもの

雑渡さん+伊作先輩

 怒号や悲鳴が勝鬨を上げる声に変わる時分。勝敗の行方は目に見えていた。
(本当の意味で戦が終わるかどうかは別だがな
 仕える主の満足そうな背を後目に、男は合戦の場から離れた。
 
 呻き声や咳き込む音が所々から上がっている。
 見慣れている光景といえばそうだが、そこは些か違っていた。
 無造作に転がっているのは事切れた死体ではなく、ある程度手当てがされた雑兵達だった。苦し気な声はあるが、痛みに耐えるようなものであって、死の歩みに恐怖するような悲痛なものではない。
 地に転がってはいるが一定の間隔で寝かされ、左右に分けられている。流石に敵同士を並ばせる訳にはいかないという考えだろうか。妙な所で間の抜けた配慮を感じた。
なんだ此処は)
 そもそもが何故敵同士が分け隔てなく治療されているのか。
 答えは一番奥にあった。
 白を纏った男が丁度布を裂いているのが見えた。手持ちの包帯が尽きたのだろう。それくらい人を手当てしたのだ、この山伏を装う者は。
……酔狂なことだ)
 胸中で呟きながらも、男はその酔狂な者の手を借りることにした。ふらと吸い寄せられるように足を向ける。オオマガドキの兵がひとり、こちらに気付いたようだが何も言わないでいる。そんな気力もないのだろう。
 それは男も同様であった。普段の男を知っている配下の者が見れば上へ下への大騒ぎになるに違いない。それくらい滅多にないことだった。息を切らせ、足を縺れさせる己にやれやれと面倒になりながらも、男は声をかけた。
 分け隔てなく治療に当たるこの者ならば、自分の手当ても。いや、包帯か薬だけでも分けて貰えるのではと思ったのだ。
 なんとまぁ甘い考えだろうか。
 平常時ならばしないような思考に、男は自身に呆れた。
「その包帯、少し貰えないか」
 振り返った人は思ったよりも歳若かった。
 此方の有様を見るなり直ぐ様「こちらへ、傷の具合を診ましょう」と躊躇いもなく言われる。有難いが同時に理解が出来なかった。笑みを浮かべると男は更に幼く見えた。
(いや、これは、子供だろう
 まだ十四、五の歳だろうか。
 ここは戦場だ。十を幾らか超えた歳の子供が混じることはある。しかしそれは銭や何某かの理由があって致し方なく行うことだ。
 味方ならまだしも明らかに部外の子供が両軍を手当てしている。異様だった。
 手当てに使われているのはオオマガドキの旗だろうか。添え木に使うのだろう手頃な枝もある。どれもそこらから拾って来たとわかる物だ。
 今も包帯を作ろうとせっせと布を口に咥え裂いている。
 忍の癖に、何故こんなことをしている。
 男は疑問が口から出そうになったが留めた。
 折角の治療出来る機会を無駄には出来ない。
(毒を塗られることにさえ気をつければいいか)
 この子供が何故こんなことをしているのかは関係ない。生きる伸びる為には理由など大して意味はないのだから。
「この人が終わり次第、直ぐ取り掛かりますから」
……
 座ってお待ちくださいと、戦場では場違いな程柔らかな声音に男は気が抜けた。
 腕だけは確かなようだし、一先ずこの困惑は横へ置いておくことにした。