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いちよん
2023-08-05 23:09:22
4865文字
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いきる
おはなしの時間から続いた
・兄妹年齢逆転
・ウォールードに連れてかれたクライヴ♀十五歳
あれから五年の月日が経ち。
ウォールード王国の王との約束は、叶いそうであった。
第二次性徴による身体の変化と根をあげそうになる日々の鍛錬を耐え抜いて遂にやってきた騎士の称号を授かった日。
私は手紙を書いた。
失礼のないように何度も見直しながら、考えながら、かの国の王へと向けた一枚の手紙。
ウォールード国王、バルナバス・ザルム様
私、クライヴ・ロズフィールドはこの度ようやくフェニックスの騎士の称号を授かりました。その名に恥じぬ手合わせをどうぞ、よろしくお願い致します。
クライヴ・ロズフィールド
幼い頃から信頼出来る一人の使用人に母上や父上、それと兄上にばれないように内密に送るように頼んだ。
次会えるのはいつだろうか?楽しみで胸が弾んでいた。
だが。その感情は灰となった。
ザンブレクの奇襲。
父、エルウィンの死。
兄、ジョシュアの死。
フェニックスゲートに現れた二体の火の召喚獣によって何もかもが燃え尽きていった。
死体として判断された私は、火葬されていく予定の炎の民達の死体の山の中で意識を取り戻してひっそりと抜け出し。母上がザンブレクと手を組んでいた「後始末」を隠れて見届けることしか出来ず。難を逃れられた私はフェニックスゲートを静かに離れた。
何処へ行くべきなのかもわからず。途方に暮れながら歩き続けた。
ただ唯一なのはザンブレク兵に見つかれば間違いなく殺されるということだけ。
ロザリス城の皆はどうなったのだろうか。
情報を得ようにも、街にそう易々と出てはいけない。今の私の味方は兄、ジョシュアのフェニックスの祝福だけ。
歩みを止めてそばにある木の幹へと腰を下ろして、考える。
……
父上。兄上。ジル。炎の民達。トルガル。アンブロシア。ロザリスの皆。
「会いたいな
…
」
私の呟きと共にポツ、と額に雫が落ちた。
……
雨。
ポタポタと音を立てて体はそれをひたすらに受け止め続ける。
ため息と共に襲いかかってくる疲労。
心身共に限界だったのだとようやく、理解しながら。体の力が抜けていく。
…
つかれた、な。
ゆっくりと瞬きをしていると、こちらへ向かってくる人影。山賊か、それとも追手の兵か。
ああ、もうどうでもいいか。どちらにしても戦えるような体でもない。
思考を放棄しながら意識を手放した。
降り始めた雨の中、木の幹で眠る全身が汚れた一人の少女。
「姐さん、恐らく王の言っていた子とは」
「ああ、こいつのことだろう」
フェニックスゲート襲撃事件から二日。ロザリス城に忍ばせておいた部隊の者からのクライヴ・ロズフィールドの書いた手紙を元に、フェニックスゲート周辺に何名かの監視を付けておいて正解だった。
「すぐさま王へと報告を。それと武器は奪って、丁重に連れて行け」
「はっ」
抱きかかえられた少女を連れ、部隊を引き上げる。
こんな少女一人に王は一体何をお考えになられておられるのか。
……
考えるだけ愚問だ。
これも王命の一つなのだから。私はそれに応えていく。ただそれだけのこと。
剣を持って静かに微笑みながら佇む、一人の男。
彼はとある国の、王様。
私はこの時をずっと楽しみにしていた。後ろからは兄上を初めとしたたくさんの声援。
私はそれに頷いて剣を力強く握る。
「────様、行きます!!」
彼は頷く。わたしは、笑みを浮かべてから走り出して彼へと剣を振るう──。
「
………
」
瞬きを何度かしながら、目を覚ます。
さっきのは。夢。
此処が、現実。
辺りを見渡して、自分は今何処にいるのだろう、と思う。
眠っていたと思わしきベッドから起き上がり、立ちあがろうとするが思うように足に力が入らず、体勢を崩す。
「っ
……
」
床にぶつかる、と目を瞑ったがその衝撃はやってこない。代わりに、一人の男の声がした。
「お気をつけて。貴方は五日も眠っていたのですよ」
銀髪の編み込みをした男に体を受け止められ、その言葉が何度も頭の中で繰り返される。五日
…
五日も?
「っ、ロザリアは!?一体どうなった!?」
無我夢中で男に掴み掛かるが最も容易く振り払われてまたベッドへと戻される。
「落ち着いたらどうです。我が身を案じなさい。状況に関しては我が王が話すとのことで。それよりも。まずは王との謁見にあたって身だしなみを整えていただきます」
「それよりもなんて
…
!」
反論しようとすれば男は凍てつくような視線、そして僅かながらの敵意を私へと向ける。
「ッ
……
」
圧倒的な「差」を感じとり思わず黙り込む。それを良しとしたのか、私へ手を差し伸べた。
「さあ、それでは行きましょうか。湯の準備はできております──ああ。言い忘れておりました。改めてようこそ。ウォールード王国へ」
ウォールード、王国?
混乱する頭で使用人達に体を洗われながら、此処へ至るまでの成り行きを大雑把に説明された。
自分の書いた手紙から情報を集め、フェニックスゲート襲撃から生き延びて途方もなく歩いて気絶した所をとある部隊が回収した、と。
本当に大雑把ではあったが、混乱している今では正直助かっている。
「お怪我にさわりますが、失礼致します」
「
……
ッ
…
!」
あたたかいお湯をゆっくりとかけられて傷に染み込むが。泡の立った布で優しく丁寧に体を洗われて、少しずつではあるが心身共に緊張がほぐれていく。
「お加減はいかがでしょうか?」
使用人の問いに頷く。
「丁度いいです、感謝します」
自分だけ、このような状況になっていて良かったのだろうか。
もっと早く、王に手紙を書いていたらこんなことには、ならなかったのかもしれない。
後悔に混じりながらも周囲に石鹸の香りが漂っていた。
湯浴みの後に用意されていたのは、黒色を主色としながら瑠璃紺色が混ざり、白い絹糸で所々に刺繍の施された、簡易的に見えて、美しく質の良いドレスであることが素人ながらにわかる一品。
使用人の一人は既にそれを手にしながら準備を進めており、どうやら私はこれを着なくてはいけないらしい。
ドレスなど、着るのはいつぶりだろうか。幼い頃に一度か、二度程度だったと思う。そんなことを考えながら、着慣れぬ衣は使用人たちの手によってあっという間に着終えた。だが、身だしなみはまだ続く。髪を整え、最低限の化粧を施され、履き慣れない黒のヒールがある靴を履くことになるとは。
ようやく身だしなみを終えて疲弊したが、己を鏡でふと見て、一瞬見間違えたかと思った。第二次性徴を迎えて女の身体となった自分。
肌が少しばかり出ており、胸元が、脚が、落ち着かない。この服によって「女」としての自覚をさせられたような気がしてならない。
そんなことを考えていたら、扉をノックされる。
「失礼します。バルナバス王がお呼びです。」
使用人の女性の呼びかけに深呼吸をする。
「直ちに、向かいます」
王の間へと通され、その場には私とバルナバス様の二人きりであった。
沈黙を先に破ったのは、私だ。
「
……
お久しぶりです。バルナバス王」
王は喋らない。
「フェニックスゲートにて、ザンブレクによる襲撃がありました。そのような中、私を助けていただき、感謝致します」
王は語らない。
「ロザリアは、どうなったのでしょうか」
王はようやく口を開いた。
「ロザリアは鉄王国の襲撃を受け、落とされた。今やザンブレクの領土と化している」
予想は出来ていたが、残酷な現実に身体が震える。ぐっと耐えて、答える。
「
…
やはり、そう
…
なのですね」
「大公エルウィンは死亡。ジョシュア・ロズフィールド、クライヴ・ロズフィールドも行方不明となっている」
次々と突きつけられていく現実。それに体は耐えきれず、目頭が熱くなり、激しい震えが込み上げてくる。
王の前であるのにも関わらず、口を押さえてその場に膝から崩れ落ちる。
駄目だ。耐えろ。王の御前だ。無礼だ。ロザリアの顔に泥を塗るわけには───
そのロザリアは、もう、無いのに?
ロザリアの地の風。朝日。民達の話し声。
父上に向かってフェニックスの騎士になる、と決意を表したあの日。
病弱ながらも、優しい兄に抱きかかえられた時間。
夜にジルを連れて出て、二人で怒られた日。
バイロン叔父さんと共にごっこ遊びをした日々。
トルガルと共に「クライヴ・ロズフィールド」ではいられなくいられるなんのしがらみのない唯一の時間。
すべて、すべて。失われたのだ。
「ロズフィールド卿」
声と共に我に帰り、気が付けば視界に一つの影がある。
「
…
も、もうし、わけ、ありま
…
」
乱れる呼吸を整えようとするが、上手くできない。それどころかどんどん悪化していく。
その時、腰へと腕が回された。
「
………
?」
顔の近くには黒と紺の服からはだけて見える胸元があり、倒れ込むような形ではあるが包み込まれるようにバルナバス様が私を支えてくれている。
ようやくその事態を飲み込めたが体が思うように動かず、そのまま時が過ぎていく。
無礼だろう。すぐに、すぐに離れなければ。
だが、体は動いてくれない。
「ロズフィールド
…
いいや、クライヴ。貴公は
…
ああ、今ではこう呼ぶべきか?」
「────。」
男として生きることを許されてきたわたしの、自分ですら忘れかけていた本当の名前を囁かれて、絶句する。
「どうして、その名を」
「仮にも一国の王だ。ある程度の事情は存じてある」
そこでだ。と彼は未だ呼吸の整うことのないわたしを寄せてより密着する形になる。
「今、クライヴ・ロズフィールドが行方不明ならば、『ミュトス』の名を持ってこの地で生きていくのはどうだ」
耳元で囁かれ、その提案に困惑をする。
「ミュトス
……
?」
「灰の大陸にてお前が生きているとは誰も思うまい。故に、何もかも失ってしまったお前へと新たな誕生として、この名を送りたい」
クライヴ・ロズフィールドを捨てて。
ミュトスという王による授かりし名を持って、この灰の大陸で新たに生きる?
その選択も、いいのかもしれない。
──クライヴ。
ふと、兄の優しく呼ぶ声が脳裏に過ぎる。
……
だめ、だ。
「バルナバス様。わたしと、約束しました、ね。覚えて、いますか?」
「無論だ、騎士となった暁には一戦交える約束だろう?」
「わたし、フェニックスの騎士になれました。けれど、けれど。兄上
…
ジョシュアを
…
守れませんでした」
王はわたしの話をひたすらに耳を傾けている。
「
…
だからこそ。こんな未熟なわたしだからこそ、あなたとの一戦のためにもまだ、『クライヴ・ロズフィールド』でありたいです。」
王からの新たな名を拒む。つまりは拒絶。
不敬であろうか。恐る恐る顔を上へと上げる。
王は決してその答えを良し、とする貌はしてはいなかった。最悪の事態をも考えるが、それでも目線は逸らしたくなかった。
「お前はまだ、『クライヴ・ロズフィールド』でありたいか」
「はい」
混沌とした眼に真っ直ぐと見つめ合い、この意思を伝わることを願う。
「
…
良いだろう。ただ、その名は外では語るな。ザンブレクに知られたら厄介だろうなまあ、知られた所で何も出来まい」
王は鼻で笑い、わたしの髪を撫でる。
「それと、この城内ではその姿でいろ。それも条件だ」
この姿?ようやく、気付く。
今、わたしはバルナバス王に対して、立場上ではロザリアの第一王女として接していたことに。
「それは」
「不服か?」
慌てて首を横に振り、否定する。
「い
…
いえ、男として生きてきた故に、慣れぬ面もあるかと思いますが、わかりました」
王はその答えに満足したのかわたしをゆっくりと立ち上がらせる。
「では、決まりだな。『クライヴ・ロズフィールド』。約束の一戦の為に日々、励むが良い」
「承知しました、バルナバス様
……
いいえ、バルナバス王」
わたしは此処で生きることが決まった。
生きて、生きて。
亡き兄の騎士として恥じぬ力を得て。
王との一戦を、交わすのだ。
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