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のたり
2025-01-11 10:15:44
3095文字
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hrsz
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風邪を引いてしまった雫ちゃんを看病する遥ちゃん
玄関で靴を履いて、腕時計で時間を確認する。
待ち合わせ場所までは徒歩15分。道に迷っても時間通りにつけるよう余裕を持って家を出る。
今日は遥ちゃんとペンギンカフェに行く。先週から始まった新作のペンギンパフェが遥ちゃんのお目当て。その後は誰もいない私の家でお家デート。私達のプロデューサーも兼ねることになった遥ちゃんは、無理しないでと言ってもやっぱりどこか頑張り過ぎちゃうみたいで、今日が息抜きになるといいな。
あまり迷わずに済んで、10分前に待ち合わせ場所に着いたのに、遥ちゃんはもう来ていた。変装用のマスクとメガネとキャップ。いつもよりボーイッシュな雰囲気で今日も素敵。なんとなく身を正す気分で、私も変装用のマスクのゴムを少し直した。
遥ちゃんはすぐ私に気付いてくれて、ふっと目を細めた。私の胸がぎゅっとして息が詰まる。
「おはよう、雫」
「おはよう、遥ちゃん」
挨拶を交わした後、遥ちゃんは少し眉を下げて、私をじっと見た。
「
……
大丈夫?」
「え?」
「ちょっとごめんね」
そう言って私の額に手をあてる。遥ちゃんの手が冷たい。もしかしてずいぶん待たせてしまったのかしら。
「今日は予定変更だね」
遥ちゃんは苦笑いしてそう言った。
20分後、家の自分の部屋に私は寝かされていた。
ピピッと音がした体温計を、遥ちゃんが私の脇から取る。
「37.8」
「え」
思っていたより高い数値に素直に驚いた私に、遥ちゃんは苦笑いして小さく息をつく。
「寒気は?」
意識すると肩や背中が冷えている気がした。
「
……
少し
……
」
「これからもう少し上がるかもしれないね。本当は病院に連れて行きたいところだけど、今日日曜だし
……
」
「大丈夫よ、つらいわけじゃないから」
だって、遥ちゃんに言われるまで気付けなかったくらいだし。たしかにこうして横になってみると、身体が重くて少し節々に違和感があるけれど。
「雫のことは信じてるけど、今回ばかりはね」
そっと遥ちゃんが私の頭を優しく撫でてくれた。その優しさに申し訳なさが込み上げる。遥ちゃん、今日はせっかくのチートデーなのに。
「
……
ごめんなさい。今日、行けなくなってしまって
……
、遥ちゃん、楽しみにしていたのに
……
」
「気にしないで。期間限定じゃないし、また次の機会に一緒に行こう」
「ーーあ、そうだわ、今日、みのりちゃんも愛莉ちゃんも特に予定はないって言ってたし、もしかしたら、」
「ストップ、雫。雫が行けなくなったからって、他の人と行ってきてって言うならダメだよ」
「
……
いいアイデアだと思ったのだけれど」
「全然良くないよ。雫の代役は立てられないってこと、もっとちゃんと自覚してほしいな」
両頬に手を添えて、少し強めに挟まれた。
「
……
ごめんなさい」
「わかってくれたらいいよ」
遥ちゃんの手が離れる。なくなった手の感触に突然寂しくなった。
「
……
だめね、私
……
」
「え?」
「自分でみのりちゃん達と行ってきたらって提案したのに、遥ちゃんが本当に行ってしまったら、きっと寂しくてたまらなかったわ」
遥ちゃんがきょとんとして、それからふふっと笑った。そして嬉しそうに目を細めたまま、私の横髪を指先で弄る。
「そんなこと言われたら、どこにも行けないね」
「
……
ご、ごめんなさい、そんなつもりじゃ
……
」
「雫、違うよ」
「え
……
?」
「雫が言うべきなのは、『ごめんなさい』じゃなくて、『ありがとう』とかじゃない?」
「
……
そうなの?」
「『大好き』でもいいよ」
「
……
『大好き』
……
?」
それも唐突な気がするけれど。
ーーあぁ、でも、すぐ傍で優しく笑ってくれている遥ちゃんは、紛れもなく私の大好きな人。
「
……
ありがとう。大好きよ、遥ちゃん」
そう口にしてみたら、深呼吸したあとみたいに心が穏やかになった。遥ちゃんがマスク越しに見せてくれた照れ臭そうな笑顔に、胸が暖かくなる。
「私も大好きだよ、雫」
遥ちゃんがまたそっと私の頭を撫でる。呼吸が楽になる。私の身体はいつのまにこんなに弱っていたんだろう。ゆっくり息を吐いて、重くなっていた瞼に逆らわずに目を閉じる。きっと、このまま眠ってしまっても、遥ちゃんは私の傍にいてくれる。そう思ったらまるで水の中に沈むみたいに身体の力が抜けていった。すべてを委ねられるような、不思議な浮遊感。
「
……
おやすみ、雫」
心地良い囁き声が私を誘う。
ーーねぇ、遥ちゃん。私が起きるまでここにいてね。
できたらぎゅっとしていて欲しいけど、でも遥ちゃんに風邪が移っちゃうほうが嫌だから。
いつのまにか眠ってしまっていて、目を覚ましたとき身体が熱いと感じた。汗をかいているのがわかる。
「
……
」
少し視線を横に動かせば、そこに遥ちゃんの横顔が見えた。
布団のすぐ横に座って、本を読んでいる。伏せ目がちの目。長いまつ毛の影が落ちて綺麗、とぼんやり思っていたら、視線をずらした遥ちゃんと目が合った。
「雫?」
パタンと本を閉じて畳の上に置くと、遥ちゃんは私の顔を覗き込んだ。
「お水飲める? 汗かいてたから、できたら着替えたほうがいいと思うんだけど」
「
……
ええ
……
」
頭痛もしないし喉も乾いているけど痛くない。ただ身体全体がぼんやりとしている。遥ちゃんの手を借りてゆっくり上半身を起こした。布団からでた部分がひやりとした。遥ちゃんの言う通り、だいぶ汗をかいていたみたい。顔や首は幾分さっぱりしていたから、きっと遥ちゃんが拭いていてくれたんだろう。遥ちゃんからコップを受け取って水を飲む。穏やかな冷たさが心地良くてほっとした。
「着替えついでに身体も拭こうね」
「ええ」
私がパジャマのボタンを外していると、遥ちゃんがチャック付きのポリ袋からボディーシートを一枚取り出した。
私がパジャマのボタンを外し終えると、遥ちゃんがそのままパジャマを脱がそうとしてきたから思わず合わせを掴んで前を隠す。
「ま、待って、遥ちゃん」
「何?」
わかっているのかいないのか、まっすぐな真面目な目に少し気まずくなる。
「
……
自分でやるわ?」
遥ちゃんは表情を変えずに少しだけ首を傾げた。
「私は雫の身体のどこにほくろがあるかも、もう知ってるよ?」
「
……
っ」
熱とは別の意味で顔が熱くなった。そんな私に遥ちゃんは頬を上げて少し意地悪に微笑む。
「雫にも教えてあげようか? 脇腹の背中側とか、太腿の付け根の右の方とか
……
」
「は、遥ちゃん
……
!」
「はい」
冗談だったのか、ボディーシートを私に差し出して、ふふっと遥ちゃんが今度は優しく笑った。
「背中や足は私が拭くからね」
受け取ったボディーシートは温かかった。パジャマの上を脱がせて、私が自分で前を拭いているうちに、背中や腕をテキパキと拭いてくれる遥ちゃんに、つい意識してしまうのは私だけなのかしら、と少し恥ずかしくなった。
身体を拭いてもらって、新しいパジャマに着替えて、もう一度横になる。掛け布団を丁寧に直して、
「雫が眠ってもここにいるからね」
「
……
ありがとう、遥ちゃん」
「私もぎゅっとしたいから、風邪が治ったらいっぱいハグしようね」
「え」
それはまるで、私が眠る前に思っていたことへの返事みたいで。
もしかして私、口にしちゃっていたのかしら。それとも遥ちゃんにはお見通しなの?
「
……
遥ちゃん」
「何?」
優しい笑顔に私も自然に微笑み返す。
「ハグだけじゃなくて、たくさんキスもしてほしいわ」
「うん。たくさんしようね」
キスの代わりみたいに、遥ちゃんは私の頬をそっと撫でた。
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