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のたり
2024-10-29 19:24:02
2884文字
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hrsz
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パジャマデート
つきあってるはるしずがパジャマデートする話
パジャマデート
遥ちゃんから電話がかかってきたのは、夜10時を回った頃だった。
『ごめん、雫。もう寝るところだった?』
「大丈夫よ。遥ちゃん、どうかした?」
『どうかしたってほどじゃないんだけど、雫、デートしよう』
「え? これから?」
自分で口にしてから、そんなわけがないわよね、と思ったのに、遥ちゃんは『うん』と答えた。
『これからデートしよう、雫』
時計を確認してみたけれど、やっぱり夜十時を回ったところで、私はもうパジャマを着ていて、でも遥ちゃんがそんな冗談を言うようには思えない。なにかあったのかとちょっとした不安が胸を掠めたけれど、それにしては遥ちゃんの声は楽しそう。
「じゃあすぐ着替えるわね」
『雫、パジャマ?』
「ええ」
『いいよ、そのままで。パジャマデートしよう』
「え?」
『セカイで待ってるね』
ーーあぁ、そういうことなのね。
「ええ、すぐ行くわね」
『うん、待ってるね』
遥ちゃんからの電話を切って、すぐUntitledを再生した。
「ーー雫!」
パジャマデートというだけあって、ちゃんと遥ちゃんもパジャマを着ていた。
「遥ちゃん、とても素敵ね、そのパジャマ」
「そう?」
「ええ」
遥ちゃんが着ていたのはペンギン柄のブルーのパジャマ。でも色味なのか柄の入り具合なのか、子どもっぽさはなくてシックで素敵。
「ありがとう。お気に入りなんだ。雫も可愛いね」
「そう?」
「うん」
私はいつも着慣れている水色の無地のパジャマにカーディガンを羽織っていただったけれど、遥ちゃんは目を細めて、はにかんだ笑顔を見せてくれた。
「雫、ちゃんとスマホの充電してきた?」
「ええ、大丈夫。ちゃんと充電コードに繋いできたわ。ところでどうしたの? いきなりデートだなんて」
学校で一緒に昼食をとった時も、モアモアハウスでの練習中にもそんなこと、一言も言わなかったのに。
「そうだよね、ごめん。でも私もさっきミクに教えてもらったんだ」
「え?」
「ーー雫と見たくて」
何かは秘密、と言うみたいに遥ちゃんは自分の口の前に人差し指を立てた。
遥ちゃんの斜め後ろを着いて歩いていく。ステージからだいぶ遠くなったところで、遥ちゃんが私に手を差し出した。
「足元、少し危ないから気をつけて」
「ええ」
遥ちゃんの手を取る。今まで歩いてきた道から外れた細い山道のような道を歩き出す。
向かおうとする方向に先に小さな湖が見えた。もしかしてあそこに何かあるのかしら。
私の予想は当たっていたけれど、遥ちゃんが取った行動は予想外だった。湖のほとりで足を止めて、遥ちゃんはエスコートするみたいに下から重ねていた手の向きを変えて、私の手を強く握った。
「はぐれないでね、雫」
「ええ」
よくわからないまま頷いて、遥ちゃんの手を握り返す。遥ちゃんはにこっとどこかいたずらっ子ぽい笑顔を見せた。
「じゃあ、行くよ」
「え?」
いきなり湖に飛び込んだ遥ちゃんに引っ張られるように、心の準備もないまま私も湖に飛び込んだ。
驚いて目を閉じて息を止める。泳げないわけじゃないけどーー
「
……
」
なんだか私の知っている水の中とは違うようで、恐る恐る目を開けたら、私より少し先に沈んでいた遥ちゃんと目が合った。
「大丈夫だよ、雫」
遥ちゃんの声はいつもよりエコーがかっているようだったけれど、水の中とは思えないくらいクリアに聞こえた。
「
……
遥ちゃん」
私の声もちゃんと聞こえた。息もできる。
そう言えば、このセカイの湖は触っても濡れなかったんだわ。普通の水とはやっぱり違うみたい。
上を見上げれば、ゆらゆらと揺らぐ水面がキラキラ光って見えた。前に遥ちゃんと行った水族館の大きな水槽の中にいるみたい。
もしかして遥ちゃんが見せたかった景色はこれかしら、と思ったけれど、それだけじゃないみたい。
「雫、もう少し向こうだよ」
そう言って遥ちゃんは笑った。
それでも地上と同じようにはうまく動けなくて、遥ちゃんとはぐれないよう、ぎゅっと手を握りしめた。足で水をゆるりと漕ぐ。すうっと身体が移動する。遥ちゃんの動きを真似る。移動するスピードが少し上がって、遥ちゃんは笑った。
もう少し沈んだところに、何か影が見えた。波と言っていいのかわからないけれど、地上からの光を受けて、水の動きに合わせてキラキラと光っている。
「あれだよ」
「
……
花畑
……
?」
「そう、あたり!」
「こんなところに咲くのね」
淡いブルーの花。デルフィニウムかと思ったけれど水の中で咲くなんて聞いたことがないし、セカイにしかない花なのかしら。
ゆらゆらと揺れるブルーは、ともすれば見失ってしまいそうなほど水に溶け込んでいた。
「
……
もう少しかな」
遥ちゃんがそう呟いたすぐ後、ブルーの花がひとつ、ふわりと浮き始めた。それをきっかけにまたひとつ、またひとつと花が浮きだして、本当に水に溶けていった。
「
……
」
その光景に思わず息をのんでいた。眩しくて柔らかな光に囲まれているみたい。
……
まるで、遥ちゃんみたい。
そう思って遥ちゃんを見たら目が合って、遥ちゃんは嬉しそうに笑った。
湖から上がっても全然濡れていなくて、やっぱり不思議だと思った。まるで夢だったみたい。
「時々あんなふうに花が湖に溶けていくんだって。ミクから話を聞いたとき、きっと今夜あたりだよってカイトさんが教えてくれたんだ」
「それで遥ちゃんは私に教えてくれたのね」
「うん。湖に何度か入ってみたけど大丈夫そうだったし」
あ、ちゃんとメイコやカイトに付き添ってもらったよ、と私を安心させるように遥ちゃんは付け加える。
「水の中であの花を見て、ミク達から話を聞いて、雫と見たいって思って、それから、あの花の中にいる雫を見たいって思ったんだ」
遥ちゃんはどこか照れくさそうに笑った。その笑顔を見て、私もあの花の中にいた遥ちゃんを思い出した。
「
……
ありがとう、遥ちゃん」
「今度はみんなで見に行こうよ。みのりや愛莉も誘ってさ」
「ええ、そうね! きっとふたりとも喜んでくれるわ」
「じゃあ、そろそろ戻ろうか」
「そうね。明日もお仕事だし
……
」
でも少し寂しい、そう思ったけれど、遥ちゃんは私の手を取って笑った。
「パジャマデートだって言ったでしょ?」
「え? ええ、遥ちゃん、そう言ってたけど
……
」
「あの湖だけじゃなくて、MV撮影できそうなスタジオも見つけたんだ。そこに大きなベッドもあったから」
「ーーそこで眠るの?」
「うん、どう?」
私が頷く前に顔に出てしまったのか、遥ちゃんは嬉しそうに笑った。
「お姫様抱っこで連れて行こうか?」
「遥ちゃん、さすがにここからじゃ大変よ」
ふたりで顔を近付けて、くすくす笑いながら来た道を戻った。
誰かに聞いたのか、戻ったらリンちゃん達もいて、その日の夜はリンちゃんとミクちゃん、4人でベッドに入った。
修学旅行みたいで楽しいねと、遥ちゃんは笑った。修学旅行って、ちゃんとひとりずつ布団があるわよ、と言いながら私も笑った。
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