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のたり
2024-10-27 09:22:07
5258文字
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はるしず幼少期ifのつづきのつづき
放課後、いつものように帰ろうと昇降口から校門に向かって歩いていると、ちょっとしたざわめきが起きていた。
誰?といった純粋な疑問から、声かけてみろよ、なんて下世話な声も混じっていた。なんとなくデジャヴを感じたけれど、まさかね、と思いながら歩いていく。
「遥ちゃん!」
ざわっとざわめきが大きくなった。
「し
……
」
雫、と言いかけて、みんなに名前を教えてしまうことになるのが嫌で口を閉じた。
校門のすぐそばに立っていた雫に駆け寄る。
「よかった、会えて。もしかしたら裏門から帰っちゃうかもしれないって思っていたの」
「あぁ、うん、大丈夫だよ、私はいつも正門から帰るから。それより
……
」
どうしたの? と聞きかけてまた口を閉じる。みんなの視線を背中にビシバシ感じた。気持ちはわかる。知らない人が校門に立っているだけで多少はざわつくけれど、雫はそのへんの芸能人より目を引いてしまうから。
「ここだと目立っちゃうから行こう」
雫の肘あたりを掴んで、そのまま歩き出した。
驚いた。別に約束してたわけじゃないし、どうしたんだろう。そんなことを考えながら角をふたつ曲がった後、もういいかな、と思って足を止めた。雫の方を向いたら、申し訳なさそうに眉を下げた雫と目が合った。
「ご、ごめんなさい、遥ちゃん。迷惑だったかしら」
「そんなことないよ」
「
……
そう?」
「うん。会いにきてくれて嬉しい」
そこで雫はほっとしたように表情を緩めた。
「でも驚いたよ。いきなりどうしたの」
「近くまできたから、遥ちゃんに会いたくなって」
「え?」
「ちらほら神高生の子達が帰っていくのが見えたから、校門で待っていたら遥ちゃんに会えるかもしれないと思ったの」
「
……
それなら連絡くれればよかったのに
……
」
そうしたら、もっと急いで帰る支度したのに。
「連絡しようとも思ったんだけど、スマホの充電が切れてしまっていたの。よかったわ、会えて」
雫はふわりと笑う。
「
……
うん、そうだね」
うん、よかった。ちゃんと会えて。
「遥ちゃんって人気者なのね」
「え?」
「校門で声をかけてくれた人、みんな遥ちゃんのこと知っていたもの」
「
……
え? 待って、声かけられてたの? 雫」
「ええ。どうしたんですか、って。誰かを待っているなら呼んできますよって言ってくれる子もいて。神高の子ってみんな優しいのね」
「
……
いや、それは
……
」
雫は本気でそう思っているみたいだけど、ちょっと無防備すぎないかな。雫には高校生なんて子どもに見えるのかもしれないけど、下心があったっておかしくないのに。
「ーー雫」
「なぁに?」
「迷惑じゃないんだけど、もう校門で待ったりしないでほしいな」
「あら、どうして?」
「だって雫のこと、好きになっちゃう子だっているかもしれないし
……
」
きょとんとした後、雫は少し可笑しそうに笑った。
「遥ちゃん、もしかして心配してくれてるの?」
「心配してるってわけじゃないけど
……
。でも、連絡くれたらすぐ行くから。駅でも雫の家でもどこでも」
「まるで私の騎士みたいね、遥ちゃん」
ーーそれは、できることならなりたいけどね。
「ねぇ、遥ちゃん。さっそくだけど、今日、家に遊びに来ない?」
「え?」
「今日はしぃちゃんとふたりだけなの。しぃちゃんも遥ちゃんに会いたがっていたし、よかったらお夕飯、食べていって」
「
……
あ、うん。ありがとう」
久しぶりだな、雫の家。幼稚園のとき、何度かお邪魔していたしご飯を食べさせてもらったことがあるけど。志歩ちゃんに会えるのも嬉しい。雫と再会してから、よく話は聞くし写真も見せて貰ったけど、まだ直接会ってないから。
「遥ちゃん、今日はハンバーグの予定なの。ハンバーグは好き?」
「うん、好きだよ」
「じゃあ頑張って作るわね!」
あ、そうか。志歩ちゃんとふたりって言ってたから、雫が作ってくれるんだ。雫に会えて、雫と手料理が食べられるなんて思ってもみなかった。こんなサプライズあるんだな。
「
……
楽しみだな。私も手伝うね」
「ええ、ありがとう、遥ちゃん」
雫は笑いながら、私の腕を掴んだ。
「私、意外とハンバーグは上手なのよ。しぃちゃんが好きだからよく作るの」
そんなことを話しながら歩きだす。
雫はずっと腕を組んだままで、服越しに伝わる雫の手の感触やいつもより近い距離にドキドキして、それを悟られないように平静を装った。
ーーそれなりに好かれてはいると思う。こうやって会いにきてくれたり、家に招いてくれるんだし。雫にとって私は幼馴染で、妹みたいなものなんだろうけど、いつかきっと雫の恋人になりたい。
家に着いて、雫の部屋に通された。
「何か飲み物とってくるから、好きに寛いでいて」
「うん」
頷いたものの、やっぱり少し緊張した。昔遊びにきた時はいつも居間だったし、ここも雫のおばあちゃんの部屋だった気がする。部屋の外の縁側ではよく遊んでいたからそっちの方が馴染みがある。
シンプルなナチュラルウッドでまとめられた部屋は、綺麗に片付いている。ベッドはないから昔と同じように布団で寝てるんだろうな。
小さめの本棚に並ぶのは小説本がほとんどみたいだ。読書が好きだって言ってたっけ。
「おまたせ、遥ちゃん」
雫がコップとお茶のポットを持って戻ってきた。
「あのね、遥ちゃん。さっきスマホの電源を入れたら、しぃちゃんからメールが来ていたの。バイト先でお休みする子がいるから、今日は遅くなるって」
ーーえ。
「残念だわ。遥ちゃんにしぃちゃんを会わせてあげたかったのだけど
……
」
「そっか。うん。残念だけど、また今度だね」
「そうね」
お茶を淹れて、どうぞ、と雫は私に差し出した。
「遥ちゃん、お夕飯、7時くらいでいい?」
「あ、うん」
雫がふと、くすりと笑った。
「遥ちゃん、緊張してる? 私しかいないし、よかったらもっとリラックスして?」
どっちかというと、緊張してるのは雫とふたりきりだからなんだけどな。
「もしよければ縁側にいかない? 昔よく縁側で遊んだでしょう?」
「うん」
お茶を持って、縁側に移動する。
中庭の景色は記憶と変わっていない。雫が生まれた日、雨上がりのこの庭を見て、雫のお母さんが名前を決めたと聞いてから、私の中では特別な景色だ。
雫と話しているうちにリラックスできた。雫の隣は空気が温かくて穏やかになる。時々不意に近付く距離にドキドキしたりはするけど。
一緒にハンバーグを作って、一緒に食べた。それから今度の土曜日にはペンぴょんの期間限定ショップにいく約束をした。
家まで送ると言ってくれた雫に、大丈夫だよと返事をしながら玄関へと向かった。
「今度は土曜日ね」
「うん」
ふふっと雫が笑った。
「まるでデートみたいね。楽しみだわ」
「
……
うん。私も楽しみだな」
雫に他意はないんだろうけど、デートという響きがくすぐったくて、同時に少し切なかった。
「
……
でも、『デート』なんて言い方したら、ダメかしら」
「え?」
「遥ちゃんのこと好きな子達に悪いかと思って。
……
遥ちゃん、人気者みたいだし、きっとモテるんでしょう?」
「そんなことないよ」
何回か告白されたことはあるけど、もっとモテる子はいるし。それにどれだけモテたって関係ない。
「そう? 遥ちゃん、とてもかっこよくて素敵だから」
「
……
本当にそう思う?」
「ええ」
「ーー私、期待しちゃうよ、雫」
「え?」
こんな感じだとは思っていなかったな。雫に告白するときはもっとドキドキして緊張して、ちゃんとうまく言えるかわからないと思っていたのに、私は随分落ち着いていた。
「雫は、私のこと好き?」
「え? ええ、もちろん」
「雫は私を妹とか幼馴染として好きだって言ってくれてると思うけど私は雫のこと、恋愛対象として好きだよ」
きょとんとした雫が、私の言葉を遅れて理解したのか、かあっと頬を赤く染めた。少しは脈があると思ってもいいのかな。なんとなく満足して、小さく息を吐く。
「じゃあ帰るね」
「あっ
……
、待って、遥ちゃん! えっと
……
、あの、プリンがあるの!」
「
……
え?」
どうして、今、プリン?
「お母さんがお弟子さんから貰った抹茶プリンなんだけど、とっても美味しいの、だから食べていかない?」
胸の前でぎゅっと握りしめた手が少し震えていた。だからわかった。プリンなんて本当はどうでもよくて、雫が雫なりに、私を引き留めたかっただけだってこと。
「
……
ありがとう。でも今日はこのまま帰るよ」
「あ
……
」
「返事は急がないから、考えてみて」
もし断られても、諦められるとは思っていない。そうしたらもっと素敵な人になって、きっといつか好きになってもらうんだ。
座って靴を履く。立ちあがろうとした時、押さえつけるように雫が後ろから抱きついてきた。
「
……
わっ
……
」
そのまま尻餅をつく。
「
……
し、雫?」
「
……
私も」
「え?」
「
……
私も遥ちゃんが好き」
ぎゅっと私に抱きつく腕の力が強くなる。
「好きだから会いたくなるし、もっと一緒にいたいし、ヤキモチだって妬くわ」
雫、ヤキモチなんて妬いてた? というより、ヤキモチ妬く要素がどこかにあった?
「遥ちゃんが人気者なのは嬉しいし、素敵だからモテるのもわかるけれど、でも誰にも渡したくないの。帰り道で腕組んだのも、後ろに遥ちゃんのこと見てる神高の子達がいたから」
「え?」
そんなの全然気が付かなかったけど。それ、雫のことを見てたんじゃないの?
「
……
」
雫の腕をほどきながら振り返る。雫は耳まで真っ赤になっていて、今にも泣き出しそうになっていた。つい頬が緩んだ。
「
……
なんて顔してるの、雫」
本当に私のこと、好きでいてくれてるんだ。
「
……
ご、ごめんなさい、私、遥ちゃんよりおねえさんなのに、全然余裕なくて
……
」
「そんなことないよ」
玄関の上がり框に膝立ちして、膝をついている雫の頬に両手を当てた。上目遣いの雫はいつもより可愛く見える。雫より身長が高くならないかな。
「
……
キスしてもいい?」
「え、遥ちゃんから?」
「うん。ーーあ、雫からしたい?」
「ええ」
冗談半分だったのに真面目に頷かれてちょっと戸惑った。そして、最初は私からしたい、とはっきり思った。
「
……
私からがいい」
「でも、私の方が年上なのに」
「関係ないと思うよ」
困ったような顔をしていたけれど、顔を近付けたら、雫はきゅっと私の袖を掴んで、目を閉じてくれた。
ドキドキする。さっきまで返事は急がないって本気で思っていたのに、今込み上げてくるのは愛しさと欲。顔を近付けて、もう少し、と思って、私も目を閉じたとき、不意にチャイムが鳴った。
「ただいま」
外から聞こえた声に、慌てて離た。雫が「は、はあい!」とどこかぎこちない返事をして、外履きサンダルを引っかけて鍵を開ける。
「うわっ」
すぐ鍵が開いたことに志歩ちゃんは驚いたらしい。
「おかえりなさい、しぃちゃん。早かったのね」
「そう? 予定通りの時間だと思うけど」
上がり框に腰掛けていた私に気付いて、志歩ちゃんが雫の後ろから顔を出した。
「
……
もしかして、遥?」
「うん。お久しぶり」
志歩ちゃんが、ふ、と表情を緩めて微笑む。
「お久しぶり。懐かしいな。ごめんね、いきなりバイト入っちゃって」
「ううん。よかったらまた今度ゆっくり話したいな」
「うん」
「あ、よかったら遥ちゃん、もう少し
……
」
「おねえちゃん、明日も学校だよ? あんまり遅くなったら迷惑じゃない?」
「
……
私はいいけど
……
」
「ほら、遥ちゃんもそう言ってるし!」
もう、と呆れたように志歩ちゃんは眉を八の字にする。
幼稚園の頃はおねえちゃんにくっついて離れないような感じだったのに、小学校に入ってからしぃちゃんがそっけなくなった、と雫が言っていたけれど、その通りだ、と少し笑いそうになった。
靴を脱いで、また家に上がる。
「私、荷物置いてくるから」
そう言って、志歩ちゃんが階段を上がっていく。それを見送りながら、雫が頬に手を当てて呟く。
「しぃちゃん、ハンバーグ食べるかしら」
「どうかな」
一応、志歩ちゃんの分も作って冷蔵庫に入れてある。バイトが忙しい日だと食べずに帰ってくることもあるから、と雫は言っていた。
ふと雫と視線が重なった。まっすぐに見つめてきた雫に、どうしたの、と聞こうとした時、雫の顔が近付いてきて、ちゅっと唇が触れて、すぐに離れた。
「
……
」
キスされたんだということが一瞬わからなくて、でもわかった瞬間、かあっと顔が熱くなった。
雫はふふっとどこか照れくさそうに微笑んだけれど、私にそんな余裕は全然なくて。
「これからは恋人としてよろしくね、遥ちゃん」
「えっ
……
、あ、こちらこそ
……
」
一瞬だったけれど、雫の唇の感触が残っている感じがして、ドキドキが収まらなかった。
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