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のたり
2024-10-22 05:08:40
4335文字
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hrsz
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高校生遥ちゃん×未来雫ちゃん
リクいただきました
ありがとうございます!
遥ちゃんはいつも私の少し先を歩いていた気がする。
前を向いて、背筋をぴんと伸ばして、私達より先の世界が見えているように見えた。
ともすれば私のことなんて視界に入っていないんじゃないかと、ふと寂しさを感じることもあったけれど、遥ちゃんはそんな私を見透かしたみたいに決まって「どうしたの、雫?」と振り向いて声をかけてくれた。
ーー大丈夫だよ。ここ危ないから気を付けて。雫にだってきっとできるよ。
遥ちゃんがかけてくれる言葉はいつも私を守ってくれた。
遥ちゃんはみんなに優しくて完璧なアイドルだから、その優しさが私だけに向けられる特別なものだと勘違いしないように気を付けていた。
でも、遥ちゃんの特別になりたいとずっと願っていた。その願いが本当はもう叶っていたと知ったのは、高校を卒業した後のこと。
昨日届いたメッセージをもう一度確認する。
『明日、待ってるね』
たった一言、でもその一言に胸があったかくなって顔が綻ぶ。
今日明日と遥ちゃんはオフで、私は今日の午前中にお仕事が入っていたけれど12時には終わる予定だったから、その後は明日の夜まで遥ちゃんの家で一緒にゆっくり過ごせる。
遥ちゃんの部屋があるマンションのインターフォンを鳴らしたら、プ、と小さく電子音が鳴って、すぐに繋がった。
『ーー雫?』
遥ちゃんの声。
「ええ、こんにちは、遥ちゃん」
『今開けるから待ってて』
カチンと音がして、エントランスの扉が開く。心持ち早足で遥ちゃんの部屋に向かう。エレベーターに乗っている間も少しそわそわしてしまう。メールや通話はしていたけれど遥ちゃんに会えるのは1か月振りだ。遥ちゃんの部屋の前に着いて、もう一度インターフォンを鳴らす。すぐに鍵が開く音がした。遥ちゃんがドアを開ける。いつものように笑顔で出迎えてくれるかと思ったのに、今日は違った。
「雫
……
、だよね?」
「
……
え、ええ
……
」
私が頷くと、何かあったのかと思わずにいられないほど強張った表情を、ほっとしたように少し緩めた。
「
……
遥ちゃん、その髪
……
」
「え?」
ウェーブがかったショートボブだった髪が切られて、ストレートに戻っている。
「
……
まるで高校生の遥ちゃんみたい」
とても可愛いしやっぱり似合ってるけれど、切るなんてひとことも言っていなかったのに、どうしたのかしら。
遥ちゃんは少し困ったように苦笑いした。
「
……
えっと、私、まだ高校生なんだけど
……
」
「ーーえ?」
「あ、とりあえず入って、雫」
「えっ
……
、あ、そ、そうね」
遥ちゃんに促されて部屋に入る。鍵をかけて靴を脱いで、リビングへ続く短い廊下を歩く遥ちゃんの後に続く。
まだ高校生だなんて、遥ちゃんの仕掛けたドッキリかしら。それとも記憶喪失? けれど心なしか身長も低くなっているような気がする。身長だけじゃない、歩き方やちょっとした仕草や雰囲気もいつもと少し違って、本当にまだ高校生だった時の遥ちゃんみたい。
「あ、お茶でいい?」
「ええ」
ソファーに荷物を置いて、キッチンに立った遥ちゃんの横に向かう。
袖を捲って、シンクで手を洗って、食器棚からマグカップをふたつ取り出す。
「
……
」
お揃いのペンギンのシルエットが入ったブルーとミントのマグカップでお茶を飲むのはいつものことのはずなのに、遥ちゃんは観察するみたいに私を見ていた。
「どうしたの? 遥ちゃん」
「
……
あ、うん
……
」
電気ケトルに水を入れていた遥ちゃんは、一度調理台に置いた。
「ーー雫、よくここに来てたりする?」
「え? ええ、そうね。わりと」
外で会ったり、遥ちゃんが私の家に来ることもあるけれど、遥ちゃんが一人暮らしを始めてから、遥ちゃんの部屋でお家デートすることが多くなった。お泊まりすることも多くて、遥ちゃんの部屋にはマグカップだけじゃなくて私用の歯ブラシや着替えも置いてある。
「
……
違ってたらごめん」
「え?」
「もしかして、私と雫
……
」
遥ちゃんが言い淀んで、視線を落とした。顔が赤くなっている横顔が、不意に昔見た遥ちゃんに重なって胸が鳴った。
私に好きだと言ってくれたときと同じ表情だと気付いて、頬が緩む。
よくわからないけれど、きっとここにいるのは本当に高校生で、私に片想いしてくれていたときの遥ちゃんなんだわ。
「ーー遥ちゃん」
遥ちゃんが顔を上げて私の方を向く。まっすぐで私の大好きな青い瞳は今も昔も変わらない。
「明日は記念日なの」
「え?」
「明日は、私達が付き合い始めてちょうど3年なのよ」
明日は遥ちゃんが私を好きだって言ってくれて、私も遥ちゃんのことが好きだと言えた日。
遥ちゃんはやっぱり少し驚いたように瞬きして、それから目を細めた。
「
……
そっか」
電気ケトルを手にして、もう一度、そっか、と、照れ隠しのように小さく呟いて、遥ちゃんはケトルをセットした。
昼食を食べながら、朝起きたらここにいたんだ、と遥ちゃんは言った。
「部屋を見てみたら寝室に私のペンギングッズもたくさんあったし、きっと私の部屋だとは思ったんだ」
「遥ちゃん、お家からたくさんペンギングッズ持ってきていたものね」
「知らないグッズもあったし、カレンダーの日付は5年後だし、もしかしたら私ここ5年の記憶だけ無くしたか、タイムスリップでもしたんじゃないかな、って考えてたんだ」
「そうね、どちらかしら」
「タイムスリップしたのかもしれない。貼ってあった写真の私、大人びて見えたから」
「写真?」
もしかしてリビングの壁に貼っていた写真のことかしら、と思ってそちらを見る。
モモジャンのみんなで撮ったものが2枚と小さな頃に憧れのお姉さんと撮ったと聞いたツーショット。けれど一緒に飾ってくれていた私と今の遥ちゃんの写真は無くなっていた。
「ーーごめん、雫がきたから咄嗟に隠しちゃった」
「え?」
バツが悪そうな顔をして、遥ちゃんは立ち上がると棚の上の本を手にして、そこに挟んであった写真を取った。
「雫に見つかったら、片想いしてるのがバレるかと思って
……
」
写真を貼り直す恥ずかしそうな横顔に、つい笑ってしまった。
「な、なんで笑うの、雫」
「だって、遥ちゃん可愛いんだもの」
「
……
もう」
今の雫から見たら私なんて子どもだろうけど、と少し拗ねたように言う遥ちゃんは、やっぱり可愛かった。
「
……
やけに青と緑のお揃いのものが多かったし、もしかして、って
……
」
「期待してくれた?」
少し戸惑ったような顔をしてから、遥ちゃんは頷いた。
「寝室はひとつでベッドはセミシングルだし、雫がインターフォン鳴らしたから一緒に暮らしてるまではいかなくても、付き合ってるかもしれないって期待しちゃった」
「期待に応えられて嬉しいわ」
私がそう言って笑ったら、遥ちゃんは眉を下げたまま、少し複雑そうに笑った。
「
……
雫」
「なぁに?」
「私、雫のこと、好きだよ」
「え?」
「5年前の雫は私のこと、恋愛対象として見てなかったと思うんだ。私達はチームメイトで、友達で
……
。でも、私、ずっと雫のこと好きだった」
どこか思い詰めたような顔で、遥ちゃんはゆっくり言葉を繋いだ。
遥ちゃんが好きだって言ってくれたあの時と同じように、胸が熱くなる。
「
……
知ってるわ」
「え?」
「だって、3年前に遥ちゃんが教えてくれたから」
「
……
そっか」
肩をすくめて笑った私に、遥ちゃんも笑った。
「でも嬉しいわ、ありがとう。遥ちゃんがよかったら、何度でも聞かせて?」
「それはちょっと
……
、恥ずかしいな」
「そう?」
遥ちゃんが席に戻って、昼食をまた食べ始める。
「私、今日は泊まっていくつもりなんだけれど」
「あぁ、うん」
「明日の朝は何が食べたい? 遥ちゃん」
「雫が作ってくれるの?」
「ええ」
「じゃあ、雫のおみそ汁が飲みたいな」
「わかったわ、楽しみにしていて」
「うん」
くしゃりと遥ちゃんが笑う。
少し不思議な感じがした。たしかに私の前にいるのは遥ちゃんで、でも、どこか違う気もする。昔よりどこか子どもっぽく見えるのは、私もちゃんと大人になったからかしら。
その日は随分と夜更かしをした。
一緒に近くのコンビニに行って、スイーツをたくさん買った。お酒じゃなくてお茶で乾杯して、並んでソファーにもたれて座って、映画や、ASRUNやCheerful*Daysのライブを観た。More More Jumpのブルーレイも棚に並んでいたけれど、それは観なかった。遥ちゃんがこれから立つステージのはずだから。
高校生の時、こんな夜を過ごしたことはなかった。私達は生活リズムや体調管理に気を使うことがあたりまえだった。
でも、今日くらいは。
その提案に遥ちゃんは乗ってくれた。
それでもいつもの習慣のせいか、13時を過ぎたくらいから遥ちゃんはうつらうつらとし始めた。
「遥ちゃん、このまま寝ちゃう?」
「
……
ん
……
」
ブランケットを用意して一緒に包まる。頭をそっと抱き寄せて、髪や耳を撫でていたら、遥ちゃんは私の肩に頭を埋めて、静かな寝息を立て始めた。
膝枕の方がいいかしら。でもこのままこうしていたい気もする。遥ちゃんの身体は暖かくて心地良かった。
ーーねぇ、遥ちゃん。2年後、まだあなたに片想いしてる私に両想いだったんだとちゃんと教えてあげてね。私も同じだとあなたにきっと伝えるから。
「ーーおはよう、雫」
「
……
遥ちゃん
……
?」
いつのまにか私も眠ってしまっていたらしい。
「うん」
ちゅっと頬にキスをしてきた遥ちゃんは、いつもの遥ちゃんだった。髪型も元に戻っている。
「
……
」
もしかして、高校生の遥ちゃんもまだいるんじゃないかと思って部屋を見渡したけれど、そんな気配はなかった。
「どうかした? 雫」
遥ちゃんがきょとんとする。
「
……
ごめんなさい、なんでもないの」
「そう?」
「ええ」
腕を伸ばして、遥ちゃんを抱き寄せる。ウェーブがかった髪先が少しくすぐったくて、知っている遥ちゃんの匂いに気持ちが安らいだ。
「
……
あ
……
」
「なに?」
「私、約束したんだったわ」
「え?」
おみそ汁を作ってあげるって、約束したのに。
腕を少し解いて、遥ちゃんと顔を見合わせる。
「遥ちゃん、おみそ汁作るから、飲まない?」
「え?
……
うん、雫が作ってくれるおみそ汁好きだし、もちろん飲むけど、いきなりどうしたの?」
「約束したの、5年前の遥ちゃんと」
「え?」
遥ちゃんは少し驚いたように瞬きして、それから目を細めた。
「
……
そっか」
その顔が昨日の遥ちゃんと少し重なって見えて、胸が熱くなった。
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