のたり
2024-10-18 19:03:46
1699文字
Public hrsz
 

手紙

ちょっと感謝祭ネタ。

今夜の予定数の30通目を書き終わったところで一息つく。
お世話になっている先輩やファンのみんなに手紙を書くことになった。さすがにファンのみんなに送るのは一言二言のメッセージだけれど、枚数を考えるとなかなか時間がかかる。仕事のちょっとした合間も使ってようやく残りわずかになってきた。
みのりは全然終わらないと言っていた。ひとりひとりに長文を書いていたのを見て、たしかにあれじゃまだしばらく終わらないだろうなと思うのと同時にみのりらしいな、とも思った。愛莉や雫はどうだろう。話題にならないということは、予定通りのペースで進めているんだろうけど。
水を一口飲んで伸びをしてから、書き終わった手紙を揃えて仕舞う。
……
だいぶ減ったレターセットの束の中、ひとつだけ未開封のレターセットがある。なんとなくきまぐれにそれを手にした。
たまたま買っている時に会った杏にペンギン狂と言われたくらいペンギンばかりの中で、ひとつだけ買ったシマエナガのレターセット。見た瞬間買うことを決めたペンギンのレターセットの隣に置いてあった同じシリーズのシマエナガはとても可愛くて、少し迷ったけれど一緒に買い物カゴに入れた。結局使わずに今に至る。
せっかくだし、雫にも書こうかな。
愛莉やみのりにも。後で猫のレターセットも買ってこなきゃ。みのりは……ペンギンでいいかな。
少し浮かれた気持ちでシマエナガのレターセットを開封する。
便箋を置いて、ペンを取って、一行目は「to 雫」。
……
そこでペンは止まってしまった。

***

「あ、遥!」
お昼休み、廊下で愛莉に声をかけられて振り返った。軽快な足音でこっちに向かってくる。
「どうしたの、愛莉」
「あんた達の教室に行こうとしてたのよ。これ預かって欲しくて」
そう言って紙袋を差し出してきた。
「あ、手紙?」
「そう。今日郵便局持ってってもらう予定でしょ?」
「うん。でも、雫は?」
愛莉はこれから仕事だから、入れ違いで学校にくる雫に預ける予定だったはず。
「雫、打ち合わせが延びてるみたいでまだ来てないのよ。午後からの授業には間に合いそうって連絡が来てたわ」
「そっか」
それなら予定通り一緒に郵便局に行けそうだ。
「みのりは? 書き上げられたの?」
「ううん、今も書いてるよ。まだ少しかかりそうだから、放課後も書くって言ってた」
「そ」
みのりが書き終わるまでは雫とふたりで、次の配信の準備か自主練かな。
「じゃあ私、そろそろ行くわ」
「あ、愛莉」
「なに?」
「これ」
今日愛莉に会ったら渡そうと持ち歩いていた手紙を差し出す。それを見て愛莉は腰に手を当てて、どこか照れくさそうに笑うと軽くため息をついた。
「なによ、あんたも?」
「『も』?」
「雫があんた達にも書くって言うから、私も書いたのよ。後で渡すつもりだったけどーー」
「後でいいよ」
そうするわ、と言いながら、愛莉は私からの手紙を受け取った。
「ありがと。じゃあまた後でね」
「うん」
愛莉を見送って、教室に向かって歩き出す。みのりへの手紙は教室に置いてあるから、みのりがみんなへの手紙を書き終えてから渡すつもりだ。郵便局に行ってからになりそうだけど。
いつもありがとう。頼りにしてる。いつも元気をもらってるよ。これからもよろしくね。そんなふうに、筆が乗る、なんて言葉がちょうど当てはまるみたいに、みのりにも愛莉にも感謝の言葉は澱みなく出てきた。
雫にだって同じような気持ちを持っているのに、筆は止まった。私はその原因をちゃんとわかってる。
ずっと傍にいてほしい。モモジャンが解散して、私や雫がアイドルじゃなくなっても。目が合って、それだけで私の言いたいことがわかる気がするって言ってくれた、そのままの雫でいて。
そんなふうに、感謝の気持ちと同じくらい、雫には我儘な気持ちがたくさん出てきちゃうんだ。
雫を好きになるまで、そんな気持ちは知らなかった。私はまたそんなエゴをうまく扱えずにいる。
雫に書いた手紙は、ファンのみんなに宛てた手紙より短い。
いつもありがとう。言葉にできないくらい好きだよ。