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のたり
2024-09-22 12:08:39
2097文字
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hrsz
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少女レイ 3
3
昨日の不安をよそに、雫は次の日も学校に現れた。
4時間目の授業中、教室を覗き込む雫を窓の外に見つけて一瞬息が止まった。「雫」と声を出しそうになって、慌てて口を閉じる。私に気付いた雫の顔がぱあっと笑顔になって、つられるように私も頬が緩んだ。
窓をすり抜けて、雫が私の机の横に立つ。どうしたの、とは聞かない。きっと雫は私を探していてくれたから。
私は周りにバレないよう前を向いたまま、ノートの隅にシャーペンを走らせる。まるで授業中にこっそり回す手紙みたいに。
“お昼休み、屋上で”
雫は私のノートを覗き込んで、それからふわりと笑った。
『じゃあまた後でね、遥ちゃん』
囁くようにそう言って、雫は教室を横切って廊下側の壁をすり抜けていった。
授業が終わって、すぐ屋上へ向かった。
待ちきれない気持ちで屋上への扉を開けたけれど、そこに雫の姿はなかった。塔屋の裏や上にもフェンスの外にも、屋上から見える校内にも見当たらなかった。
どこにいっちゃったのかな、と思いながら、フェンスを背にして段差に腰掛ける。
足元には私の短い影。
お弁当持ってくればよかったかな。別にお腹は空いていないけれど。
早く来ないかな、雫。
やけに蝉の声が響く気がした。
四角く縁取りされた空。
ーーそうか、ここは教室だ。誰もいない、夏休みの教室。
規則正しく並ぶ机のひとつに置かれた花瓶。
誰か、死んだんだっけ?
ゆっくりその机の方へ歩いていく。
机の前に立って、花瓶に挿された白い花を見つめた。
胸がざわめいた。
……
違う。これは亡くなった人への献花じゃない。
私は知っていた。この花瓶の意味を。この花瓶が置かれた席の人間が、ーー次の標的。
どくんと心臓が鳴った。背筋に冷たい汗が流れる。
「
……
っ
…
」
机を挟んだ向こう側に現れたもう1人の私に思わず後ずさった。
目の前の私は薄ら笑いを浮かべる。
ーー雫が悪いんだよ。私以外の人に笑いかけるから。私以外の人と楽しそうに話したりするから。私以外の人を大事にするから。だったら、雫が私以外を気にかけたりしないように。
ーー違う。違う。雫は悪くない。
雫は、なにも、
「
……
っ
…
!!!」
衝動的に思い切り腕を振り上げて、机の上の花瓶を払い落とした。
『遥ちゃん?』
雫の声にハッとして顔を上げる。
『
……
大丈夫? 顔色が悪いわ?』
「
……
あ、ごめん
……
、うとうとしてた
……
」
『そう?』
「うん
……
」
心臓が嫌な音を立てていた。指先が冷たい。思い出せないけれど、なんだか怖い夢を見ていたような気がする。
『具合が悪いわけじゃないならいいんだけど』
汗で頬に張り付いた私の前髪を、雫はそっと指で横に流した。
『さっきね、愛莉ちゃんとみのりちゃんが中庭にいたわ』
柔らかな微笑みと優しい指先に包まれていくような安心感を覚えながら、雫から出た他の人の名前に胸がざわざわした。
『みのりちゃんが遥ちゃんのことを話していたの。遥ちゃんにお祓いしてもらったことがあるって』
「
……
あぁ、あれはただの真似事で
……
」
『真似事?』
「私、巫女でお祓いができるって噂が立ったことがあって、みのりが突然お祓いして欲しいって言いにきたんだ。子どもの時から凄く運が悪いから、って。でも何にも憑いてないし、むしろ霊を寄せ付けない体質だし、話を聞いてたら、どっちかというとそれは単にドジなだけじゃないかなって思ったんだけど、あんまり熱心だったからお祓いの真似事したんだよね」
『あら』
「本当はよくないんだけど、何も憑いてないから逆にいいかな、って思って」
『効いた?』
「効いたみたいだよ。プラシーボ効果ってやつだね」
『そうなのね』
雫はふふっと笑った。
『私も愛莉ちゃんやみのりちゃんと普通にお話できたらいいんだけど
……
』
雫の言葉に胸に息が詰まった。
ーー雫は、私だけじゃだめなの?
雫は、私だけ見てればいいのに。
滲むように浮かんできた思いにぞくりとした。
その感情に覚えはあった。私は前も雫に同じことを思っていた。
私だけを見て。私だけに話して。私だけの手を掴んで。
それはたしかな独占欲だった。
そんな私の気持ちに気付いたのか気付いていないのかわからないけれど、雫はどこか切なげに微笑んだ。
『遥ちゃん』
「
……
なに?」
『海に行かない?』
「
……
え? これから?」
『ええ。今日の放課後。もちろん遥ちゃんがよければ、だけど』
「あ、うん
……
、いいよ」
雫は嬉しそうに笑った雫の手を掴む。
「今すぐ行こう」
『え?』
「いいよ、授業なんかサボっちゃおうよ」
きょとんとした雫の手を引くように立ち上がったら、雫は口元に手をあてて、少しおかしそうに笑った。
「もしかして、前にもこんなことあった?」
『ええ。プールの授業だったのに水着が見当たらなくて、遥ちゃんが今みたいに「いいよ、サボっちゃおうよ」って』
「そっか。その時はどこに行ったの? 私達」
雫はどこか懐かしそうに目を細めた。
『あの時も海に行ったわ』
「そっか」
私は昔の自分に少し嫉妬して、雫の手をぎゅっと握りしめた。
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