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のたり
2024-03-24 21:12:13
2664文字
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hrsz
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少女レイ 1
雫のビジュだけ百鬼夜行
眩しいほど白いセーラー服。
風になびく紺色のスカートを彼女はそっと押さえた。
水色のスカーフが髪と一緒に風に舞う。
色素の薄い髪は日に透けるとまるで木漏れ日のように眩しくて、私は目を細める。
「遥ちゃん」
柔らかく透き通った声が私を呼ぶ。
「見て、遥ちゃん」
そう言って砂浜から拾い上げたシーグラスを私に見せる。宝石のようなブルーのガラスを、綺麗ね、と彼女が言う。たしかにそれは綺麗だったけれど、それよりも私は彼女のほうがずっと綺麗だと思っていた。
目が覚める。
また夢だった、と、熱くなっていた胸がゆっくりと冷める。
薄水色の髪と白菫色の目。透き通るような白い肌。
物心ついた時からずっと私の夢に出てくる彼女の名前を私は知らない。感覚としては、知っているはずなのに思い出せない、と言った方が正しいかもしれない。
夢の中の私は16で、彼女は17。
同じ年だったらもっと一緒にいれたのに、と言った私に、同じ年じゃなくたって傍にいるわ、と彼女が笑って私の頭を撫でたのはいつのことだったのか。
私は今日、夢の中の私と同じ年になる。
***
渡り廊下を歩いている時、ふと気配を感じて立ち止まった。
「
……
」
なんだろう。懐かしいような、どこか胸が詰まるような。
「遥ちゃん?」
一緒に歩いていたみのりが数歩先で止まった私に気付いて立ち止まった。
「どうかした?」
「
……
うん
……
」
曖昧に返事をして振り返る。渡り廊下に面した中庭のある人物に目が止まった。
桃井愛莉、だ。
彼女の気配かと一瞬思ったけれど、違う。前から名前と存在は知っていたけれど、今と同じ気配を感じたことはなかった。
今日も相変わらず、霊に取り囲まれていて顔が視えない。弱い霊ばかりだけれど、どうしてあれで普通に生活できるのか不思議だ。もしかしたら目立たないけれど、あの中に護ってるのがいるのかもしれないとは思っていた。
もしかして、あの中に気配の持ち主がいるんだろうか。
「
……
みのり、ちょっといい?」
「え?」
「先輩のところに行くから着いてきて」
「先輩って、桃井先輩?」
「うん」
「え、遥ちゃん、桃井先輩と知り合いだったの?」
「ううん」
「え?」
疑問を素直に顔に出したままのみのりを連れて先輩の近くまで歩いていく。みのりのオーラにあてられた霊が散っていって、残ったのは肩に乗っていた猫だった。
「
……
」
猫が、にゃあ、と、鳴いた。この子か、桃井愛莉を護っていたのは。
けれど、私が感じた気配とは違う。もしかして散っていった霊の中にいたのかとも思ったけれど、この程度で消えるほど弱い霊の気配じゃなかった。
「
……
なにか用?」
桃井愛莉が少し警戒した顔つきでそう言った。
「
……
桃井先輩って、そんな顔してたんですね」
「は?」
「あ、すみません、つい」
「いや、なに? なんなの?」
気のせいだったのかな、と思った時、さっきよりずっと強く気配を感じた。はっとして横を見る。
少し離れた場所に、彼女がいた。
長かった髪はばっさりと切られていて、メガネもかけている。着ている黒の制服だって見たことがない。ーーでも、間違いなく彼女だ。
「
……
雫
……
?」
思い出せたことのなかった彼女の名前を、私は無意識のうちに口にしていた。
驚いたように目を丸くしていた彼女が、息を呑んで胸に当てていた手をぎゅっと握りしめた。
「
……
遥ちゃん
……
?」
どくんと心臓が鳴った。
頭がくらくらしてうまく息ができない。
どうして、雫がここに。
視界が霞む。心臓の音がまるで踏切の音のように耳の奥で響いて、それ以外の音が聞こえなくなる。身体が動かない。
ーーどうして。
気がついたら、私は保健室のベッドの上にいた。
にゃあ、と猫の鳴く声がした。
クリアに聞こえた鳴き声に目を開けて、明るさに段々慣れてきた目に、私の顔を覗き込んでいる雫が映った。
『大丈夫?』
「
……
うん」
何が大丈夫なのかよくわからないまま頷いた。
『中庭で倒れちゃったのよ。さっきまで愛莉ちゃん達もいたんだけど、授業が始まっちゃうからって、教室に戻っていったわ』
「
……
そっか
……
」
そこでようやく自分がベッドの上にいることを認識した。
ギ、と椅子が軋む音がして、その後、カツカツという足音がした。
「桐谷さん、気がついた?」
カーテンの向こうから聞こえたのは先生の声。
「開けるわよ」
「はい」
シャッとカーテンが開く。
「具合は?」
「大丈夫です」
「そう」
先生が私の顔を覗き込んで、小さく頷いた。
「大丈夫そうね。ま、もう少し寝てなさい。私、職員室にいるけど何かあったら呼んで」
「はい」
カーテンを閉めて、先生は部屋を出ていった。
「
……
まえにも、こんなことあった?」
くす、と雫は笑った。
『前は逆だったわね。私がベッドに寝ていて、遥ちゃんが付き添ってくれたことがあったわ』
「
……
そっか」
そんなこと、あったんだ。
『すごいのね、あの子』
「え?」
『みのりちゃん、だったかしら。あの子のオーラに当てられただけで愛莉ちゃんに憑いてた殆どの霊がいなくなっちゃったんだもの』
「
……
あぁ、うん。みのりは視えてないから、よくわかってないみたいだけど」
『そうなのね。そういえば私のことも視えてなかったみたいだったわね』
「桃井先輩は雫のこと視えてるの?」
『ええ。いつも憑いている霊やこの子のことは視えないみたいだけど、人の形を保てるくらいの霊だと視えるみたい」
雫はふふっと笑って、「この子」と言った猫の頭を撫でた。猫がにゃあ、と鳴く。さっき桃井先輩の肩に乗っていた猫だ。
猫の頭から手を離して、雫は私を見た。
『
……
本当に、遥ちゃんなの?』
微笑んでいたけれど、見ているこっちが苦しくなるくらい、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「
……
うん、多分」
『でも、私の知っている遥ちゃんがもし生きていたとしたら、とっくにおばあちゃんのはずなの。もしかしてあなたは遥ちゃんの生まれかわりなのかしら』
雫がどこまで本気で言ったのかはわからないけれど、それが一番合っている気がした。私が夢で見続けていたのが、前世のことだとしたら。
「
……
雫」
手を伸ばした。すり抜けるかと思ったけれど、私の手はたしかに雫の手を掴んだ。
『
……
』
身体中がざわざわと音を立てる。まるで風になびいて音を立てる木々のように。
「
……
会いたかった」
雫は俯いて、私の手の甲にそっと額をつけた。私もよ、と、掠れた声が聞こえた。
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