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のたり
2024-03-14 08:07:30
3119文字
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hrsz
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花束をきみに 前編
お試し期間
「友達としてもメンバーとしても好きだけど、恋愛的な意味で雫のことが好きなんだ」
遥ちゃんにそう言われたのは、バレンタインデーの朝だった。
「
……
本気だから」
遥ちゃんが冗談でそんなことを言うなんて元々思っていないけれど、今まで私が見たことがないほど緊張した顔をしていた。
「ホワイトデーにもう一度告白するから、それまでお試し期間として私と付き合ってくれない? 雫」
「ーーえ?」
お試し?
「まずは今度の日曜、デートに誘いたいんだけどいいかな」
「
……
え、ええ」
私がそう返事したら、遥ちゃんはどこかほっとしたように、嬉しそうに笑った。
「よかった」
遥ちゃんの声に被るように予鈴のチャイムが鳴った。
「あ、もう授業始まっちゃうね。後でメッセージ送るよ」
「ええ」
屋上から2年と3年の教室棟の分かれ道まで一緒に歩く。遥ちゃんはいつもと変わらなくて、遥ちゃんにつられていつものように笑っていたと気付いたのは、教室に入った後だった。
「あ、雫。どこ行ってたのよ。今日もしかして休みなんじゃないかって心配されてたわよ」
「え?」
愛莉ちゃんの言葉に一瞬どうしてなのかわからなかったけれど、すぐ気付いた。きっと私にチョコレートを渡しにきてくれた子達がいたんだろう。
「ごめんなさい、ちょっと屋上に行ってたの」
「屋上? 今日は練習休みにしたじゃない」
「そうなんだけど
……
」
「なに、誰かに呼び出されでもした?」
「あ
……
」
愛莉ちゃんは冗談で言っているのはわかったけれど、実際本当に呼び出されていて、それが遥ちゃんだということを言っていいのか、わからなくて口をつぐんでしまった私に、愛莉ちゃんは「ま、いいわ」と苦笑いした。
「お昼休みと放課後はちゃんと教室にいてあげなさいよ」
「うん、そうするね」
頷いたと同時に本鈴のチャイムが鳴った。
席に着いてノートを広げながら、遥ちゃんのことを思い出す。
私、遥ちゃんと付き合うことになったんだ。
うまく実感は湧かないけれど、胸の奥がくすぐったかった。今のところはホワイトデーまでの期間限定だけれど。
それから遥ちゃんからメッセージが前より届くようになった。よかったら一緒にお昼ご飯食べない? とか、今夜電話するね、なんて、友達同士でもするような約束や会話だったけれど、やっぱり少しそわそわする。けれどそうなっているのは私だけじゃないかと思うくらい、遥ちゃんはいつもと変わらなかった。
ホワイトデーにもう一度告白するって言ってくれたけれど、もしかしたらお試しされているのは私の方なんじゃないかしら。1ヶ月間付き合ってみて、思っていたのと違ったって言われて、そのまま振られてしまうのかも。
自分の考えに落ち込みそうになって、慌てて振り払った。
ちゃんと一緒にいる時間も増えた。みんなといる時でも心なしか傍にいてくれる気がする。この間内覧に行った時だって、と、思い出して、つい頬が緩む。遥ちゃんが部屋を開けようとしたらドアノブが取れちゃって、慌ててちゃう遥ちゃんは珍しくてとても可愛かった。「責任取って住まないと行けなくなったらどうしよう」なんて言い出すから、咄嗟に「落ち着いて、遥ちゃん。そのときは私も一緒よ」なんて言ってしまった。私達が騒ぐ声に駆けつけた愛莉ちゃんに「ちょっとふたりとも落ち着きなさい」って言われちゃったけれど。ちゃんと正式に遥ちゃんとお付き合いすることになったら、いつかそういう日がくるのかしら。
「
……
」
どうして、あの時、「ええ」なんて頷いてしまったんだろう。どうしてちゃんと、私も遥ちゃんが好き、って、言わなかったんだろう。そうしたら、もっと素直に喜べていたかもしれないのに。
***
雫はいつものようにふわふわと笑う。
私といることを嫌がってはいないと思う。きっと。多分。雫が優しくて気を遣ってしまう人だということを差し引いても。
ただそれが、私を恋人として見てくれているかどうかについては別問題だ。
ホワイトデーは平日だし、2人きりになれるチャンスがあるかどうか少し心配していたけれど、それは杞憂だった。
ふたりでこはねの誕生日のプレゼントを買いに行った後、休憩を兼ねてお茶をしていた時に、「しぃちゃんがね」と雫は話し始めた。
「お茶会に招待されたんですって」
「お茶会?」
「ええ。レオニのみんなと、あと他にも何人か」
「そうなんだ」
よかった。日野森さんが出かけるなら雫を誘いやすい。
「もしかしてみのりと愛莉が14日に予定があるって言ってたのも、それかな」
「そうかもしれないわね」
ふふっと雫が笑う。
「公園でお茶会なんて素敵ね」
「じゃあ私達もしようか」
「え?」
「公園だとさすがに目立っちゃうから無理だけど、よかったら私の家で」
「遥ちゃんのお家で?」
「うん。その日はお父さんもお母さんも仕事で誰もいないし」
提案してから、誰もいない家に呼ばれるのには抵抗あるかな、と、思ったけれど、雫はいつものようにふわりと笑ってくれた。
「ご迷惑じゃなければ是非」
「うん。ちょっと待っててね」
鞄から手帳に挟んでいたペンを取り出して、紙のコースターを裏返す。お茶会なら招待状を渡さないと。
「なぁに?」
雫が覗き込んできたけれど、とりあえず気にしない。書き終えて雫にそのまま渡す。
「はい」
「お茶会の招待状?」
「うん。即席だけど」
ふふっと雫は嬉しそうに笑った。
「『日野森雫様』って書いてある」
「だって招待状だから」
「ありがとう。嬉しいわ」
そう言って雫は嬉しそうにコースターを胸に抱いた。そんな些細な仕草がなんだかとても嬉しくてくすぐったい。
とりあえずちゃんと一緒に過ごす約束ができた、と、一安心した時に、私のスマホが鳴った。
「お仕事の連絡?」
「ううん、
……
一歌からだ」
「一歌ちゃんから?」
「うん」
メッセージに添付がついている。なんだろうと思って開いたら、お茶会の招待状だった。
「あら。遥ちゃんにも届いたのね」
「そうみたい。ちょっと先に返事しておくね」
一歌には悪いけど、辞退する返事を書き始めたら、雫が「遥ちゃん」と声をかけてきた。
「遥ちゃん、お断りしちゃうの?」
「え?」
素直にきょとんとした雫に少し驚いた。
「だって、雫との約束の方が先だし」
「でも遥ちゃん、行きたいんじゃない?」
行きたいとか行きたくないとか、そういう問題じゃないんだけど、雫はわかって言ってるんだろうか。お試し期間の最終日だってこと、さすがに忘れていないよね。
「
……
」
黙ってしまった私に、雫は軽く咳払いをしてから、テーブルに両肘をついて身を乗り出してきた。不意に近くなった距離に一瞬ドキリとする。
「遥ちゃん。私との約束は、1日早くするというのはどうかしら」
「え?」
「13日にお茶会をして、14日の朝まで一緒にいるの」
「ーーえ?」
「遥ちゃんのお家でお泊まりが難しいなら、家に来てもらってもいいし。14日は午前中お仕事だけど、荷物を先に準備していたら問題ないでしょう?」
「
……
それは、」
たしかにそうだけど。
「
……
雫がいいなら
……
」
いいのかな。そう思ったけれど、ぱぁっと雫は嬉しそうに笑った。
「じゃあ決まりね」
そう言って雫は即席のコースターの招待状をテーブルの上に置いた。
「遥ちゃん、ペン借りていい?」
「うん」
雫はペンを受け取ると、私が書いた日付の上に「13〜」と書き足した。そして満足そうに小さく頷いた。
「楽しみにしてるわね」
雫があまりに無邪気に笑うから、もしかして本当に忘れてるのかな、と、正直少し心配になった。
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