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のたり
2024-02-23 16:37:19
3557文字
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hrsz
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監禁してみる話
「遥ちゃん」
その笑顔はふわりと綻ぶ花のようで。
「これから私、遥ちゃんを監禁するわね」
「ーーえ?」
だから一瞬雫の言っていることの意味がわからなかった。
「え?」
「右手と左手、どちらがいいかしら」
雫の手には手錠が握られていた。
「し、雫、それ、どこから
……
」
「小道具さんに貰ったの」
「えっ」
「遥ちゃん、右利きだから右にしましょうね」
雫が私の右手首を掴んだ。
「ちょっと雫、待っ
……
」
混乱しているうちにカチンと明らかな金属音が鳴って、私の手首に手錠がはめられた。
「
……
」
手錠の輪っかはひとつ。チェーンはベッドの方へと伸びている。視線だけでチェーンを辿れば、片割れの輪っかはベッドの足にはめられていた。
右手を動かすと、チャリ、と確かな金属音がした。
「
……
雫、いったいどういうつもり?」
「遥ちゃん、私、怒ってるの」
「え?」
眉を顰めて、雫は少し唇を尖らせた。雰囲気的には怒ってる、というより、拗ねている感じがするけれど。
「
……
あの
……
」
雫が近付いてくる。けおされて私も後ろへ後ずさる。そうはいっても数歩でベッドに足がぶつかって、そのまま押された私はベッドの上に座る形になった。雫は腰を曲げると、私のシャツのボタンを外し始める。
「ちょっ
……
、ストップ! ストップ、雫!」
慌ててシャツの前を押さえる。雫にされたことがないわけじゃないけれど、さすがにこの状況はちょっと。
脱がせてベッドに縛り付けたりするつもりなんだろうか。いや、まさかね。チェーンはそんなに太くない。千切るのはともかく歪めて外すくらいはできそうだけど。
「じゃあ、遥ちゃん、自分で着替えられる?」
「え?」
雫が差し出したのは、ホテルに備え付けのガウンタイプのパジャマだった。
「
……
手錠、外してくれないと」
「じゃあ私が」
雫はまたボタンに手を伸ばそうとしたから、そうじゃなくて、と止めた。
「手錠したままだと袖が抜けないでしょ」
「あ、そう言えばそうね」
雫はパジャマを端によけて、両手で私の肩を押してきた。
「し、雫?」
「遥ちゃん、寝て」
これはもう雫の気が済むまでは止まってくれないな、と思って、諦めてそのまま後ろへ身体を倒した。ホテルの上質なスプリングが軽く揺れて、私を受け止める。そこでやっと雫は微笑んだ。
雫がベッドに上がって、今度は上へ引っ張り始めた。
「遥ちゃん、ちゃんと寝っ転がって」
「わかった、わかったから、雫」
少なくとも雫がちゃんとベッドに横になれと言っているのはわかったから、ズルズルと背中をつけたまま移動した。
枕を頭に乗せてベッドにまっすぐ横になって、ようやく雫は満足そうな顔をした。やっとわかってきた。きっと昨日のこと、雫にバレたんだ。
「遥ちゃん、私ね、みのりちゃんに聞いたの」
ーーほら、やっぱり。
「昨日、徹夜したんですって?」
「あー
……
」
今朝、ロケバスの中でみのりに「眠そうだね」って言われて、つい「徹夜しちゃったんだよね」と口を滑らせた。愛莉はいたけど雫はいなかったから、大丈夫かと思っていたのに。
正直、怒ってるって言った顔より、今の笑顔の方が怖いよ、雫。
「昨日だけじゃなくて、今週ずっと、仮眠くらいしか取ってないでしょう? 昨日はちゃんと寝るって約束したわよね?」
「
……
うん、ごめん」
「私、怒ってるのよ、遥ちゃん」
「うん」
「なので今日と明日はお仕事禁止」
「えっ」
「監禁するって私言ったでしょう?」
「言ってたね
……
」
雫がピンと張られたシーツを引っ張り上げて私にかけた。
朝バレて、今夜のホテル取ったなんて、雫にしては段取りが良過ぎじゃないかな、と思ったけれど、私達には雫贔屓のマネージャーさんがついていることを思い出した。
「遥ちゃん」
「なに?」
「何かして欲しいことない?」
まるで小さな子を寝かしつけるように、シーツの上から雫は軽くポンポンと胸の辺りを叩いた。
「
……
なんでもいいの?」
「ええ、任せて!」
「じゃあ、手錠外して」
「えっ」
「手錠」
「そ、それは
……
」
「なんでもいいって言わなかった? 雫」
「
……
言ったけれど
……
、ダメよ、遥ちゃん」
雫は、む、と拗ねたような顔をした。逃げたりなんかしないのに。
監禁すると言われて怯んだけれど、考えてみれば、雫とふたり、ホテルでゆっくり過ごせるってことだし。
「
……
本当にダメ?」
雫をまっすぐに見上げてもう一度お願いしてみたら、雫は一瞬息を詰まらせた。もうひと押しかな。
「ちゃんと雫の言うこときくから」
「そんなこと言って、遥ちゃん、約束破って徹夜したじゃない」
しまった、逆効果だった。諦めのため息をつく。
「わかった、雫。じゃあ違うお願いきいて」
「ええ!」
ぱぁっと雫は表情を明るくした。
「なぁに?」
「
……
」
ほわほわな可愛い笑顔に私も表情が緩む。
「頭、撫でて」
「こう?」
雫が優しく私の頭を撫でる。気持ちいい。目を閉じてしばらくその感覚を味わってから目を開けた。
「このまま眠ってよかったのに」
「もっとお願いあるから」
「あら。遥ちゃん、もっとお願いして? あ、お腹減ってない?」
嬉しそうに早口で言ってくる雫に、ついクスと笑った。
「大丈夫。ここに連れて来られる前に一緒に食べたでしょ、雫」
「あ、そうだったわね。じゃあなぁに?」
「隣に来て」
「隣?」
「添い寝して、私が眠るまで抱きしめてて」
「
……
」
雫は少し意外だったような顔をしていたけれど、ふわりと笑って頷いた。
「じゃあシャワー浴びて着替えてくるから待っててね」
「うん、わかった」
いそいそとパジャマを持って雫はバスルームに向かった。
「あ、お水はあとで飲ませてあげるわね!」
「
……
あ、うん。ありがとう」
もしかして、そういうのしたいのかな、雫。
雫の姿が見えなくなってから、目を閉じた。身体の力を抜いたら寝落ちてしまいそうだったけど、雫が戻ってくるまでは起きていたい。寝返りを打とうとしたら、チェーンがボタンに引っかかって引っ張られた。
「
……
っと」
ボタンから外して邪魔にならないようにチェーンを向こうへ避けた。
シャワーの音がする。早く戻ってこないかな、雫。身体が重い。睡眠だけじゃなくて、雫不足になってたみたいだ。
ふわふわする。いい香りもする。すり、と頬を寄せる。ぼんやりしたまま目を開けたら、視界が白かった。夢かな、と思ったら、ふふっと雫の笑い声がした。
「
……
ごめん、私、寝ちゃってる?」
「え?」
いいか、夢でも現実でも。
「
……
雫」
雫がいてくれたら、それで。
腕を回して雫を抱きしめる。チャリ、と、金属音がした。夢の中でも私は手錠をしてるみたいだ。
「
……
いいよ、好きなだけ繋いでていいよ、雫
……
」
雫がこうしてそばにいてくれるなら。
目が覚めた時、ちゃんと雫は隣にいてくれた。
頭はすっきりしているけれど、状況に頭を悩ませた。
私が着ていた服は、半分はベッドの下に落ちていて、あと半分はチェーンに巻き付いていて、すやすやとまだ眠っている雫は何も着ていなくて、首元のかなり目立つ場所にキスマークがついていた。全然覚えていないけれど、付けたのは間違いなく私だ。
「
……
やっちゃった
……
」
こんなところに付けちゃうなんて。
その前にしたの、ちゃんと同意の上だったかな。やろうと思えば力尽くで雫のこと押さえつけられちゃうから。
少し心配になって、そっと雫の腕や手首を持ち上げて確認してみる。二の腕にキスマークがあったけれど、どこにも痣とかついていなくてとりあえずほっとした。いや、ほっとしてる場合じゃない。二の腕なんて絶対目立つ。
ため息混じりで雫の腕をシーツの中へ戻そうとしたとき、雫が目を覚ました。
「
……
遥ちゃん、おはよう
……
?」
「あっ、お、おはよう、雫」
「
……
私の手が、どうかした?」
「ごめん、雫」
「え?」
どのことから謝ったらいいのか迷っていたら、雫はふふっと笑った。
「ねぇ、遥ちゃん」
雫が私の手を取って、雫の背中の方へと動かす。
「もう少し、こうしていましょう?」
雫に促されるまま、雫の胸に抱かれた。
「
……
」
ふわふわして、いい香りがする。昨日と同じ。
「
……
うん」
雫の身体を抱きしめたら、チャリ、と、金属音が鳴った。
次の日、愛莉達に怒られたのは私より雫の方だった。私の右手首に、くっきりと痣が残ってしまったから。今日の衣装はバングルで隠れるから大丈夫だよ、と言ったら、ほんの少しほっとしたように雫は笑った。
「金属じゃなくて布製だったら大丈夫かしら」
私のバングルを見ながらそう呟いたのを愛莉に聞かれて、また怒られてしまったけれど。
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