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のたり
2024-02-23 11:59:24
2356文字
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hrsz
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雨音と思い出
驚きの築年数のサイストネタ。
読んでなくてもわかるかと。
「
……
なにやってんの」
バイトから帰ってきたばかりの日野森さんが呆れたようにそう言った。
雫がいつものようにとびきりの笑顔で迎える。
「おかえりなさい、しぃちゃん! しぃちゃんも一緒にどう?」
「
……
いや、だから、なにやってんの?」
「雨の音を聞こうと思って」
雫の代わりに答えたら、日野森さんは雫が縁側に準備していた空き缶やお椀を見て「あぁ
……
」と理解したように声を漏らした。
「実はね、この間内見に行ったお家のひとつがとっても古いお家で」
「
……
桐谷さんがドアノブ壊しちゃったとこ?」
「えっ?」
「みのりに聞いた」
「そうだったのね。雨漏りの話は聞いた?」
「雨漏りしてそうな家だったっていうのは聞いたよ」
「そうなの! それで、小さい頃、軒下で雨の音聞いて遊んだことを思い出して、遥ちゃんとやってみようって話になったの。ねぇ、しぃちゃんもーー」
「やらない」
言葉を遮るように断られて、雫がわかりやすくしょぼんとした。
「
……
昔はあんなに喜んでくれたのに
……
」
「昔の話でしょ
……
。桐谷さんも無理してお姉ちゃんに付き合わなくていいんだよ」
「私は好きでやってることだから気にしないで」
「ならいいけど
……
」
肩にかけたリュックを背負い直して、日野森さんは小さく息をついた。
「どっちにしても私、このまますぐ出掛けるから」
「そうなの?」
「うん。バイト中に連絡があってさ、みんなで練習することになったんだ」
「そっか。頑張ってね、日野森さん」
「うん、ありがとう。寒いから風邪引かないようにね。
……
お姉ちゃんも」
「しぃちゃん
……
!」
じゃ、と雫を振り切るように、日野森さんは2階に上がって行った。日野森さんと一緒にいられないのは寂しいけれど、多分それ以上にレオニのみんなと頑張っているの姿を見るのは嬉しい、そんな顔で雫は日野森さんを見送る。
それから、ふ、と息をついて、私の方を向いた。
「遥ちゃん、おまたせ。始めましょうか」
「うん」
軒からポタポタと滴が落ちてくる場所へ空き缶を置いたら、カンと思ったより大きな音がした。思わずびくっとしたら、雫はふふっと笑った。
「私は湯呑みが一番好きだったわ。子どもの時にやった時にはなかなかうまく置けなくて」
缶の代わりに雫が湯呑みを置いた。雨の音に混じるように、チン、と、小さく音が響いた。
「
……
うん。私も好きだな」
ふふっとまた雫は笑った。
「しぃちゃんは木のお椀が気に入っていたみたい」
「これ?」
「ええ」
木のお椀を取って、今度は私が交換した。陶器の湯呑みより重く響く音がした。重なるようにトントントンと階段を降りてくる音がして、雫が振り返る。
「しぃちゃん」
「
……
ほんとにやってるし
……
」
「しぃちゃん、もう出かけるの?」
「うん。いってきます」
「いってらっしゃい。帰り、気を付けてね。もしかしたら雪になるかもしれないって天気予報で言ってたから」
「うん」
頷いた日野森さんが私の方を向いた。
「桐谷さんも気を付けてね」
「うん、ありがとう」
日野森さんが行ってしまうと、なぜか静かになったような気がした。まるで、世界に私達しかいないようで、少し寂しくて、どこか心地良い。
「湯呑みに変えていい?」
「え? ーーええ、もちろん」
木のお椀と湯呑みを交換する。
チン、と耳を澄まさないと聴き逃してしまいそうなほど小さな音のに、雨の音に混じって優しく響く。
きっと雫と日野森さんはもっとはしゃいでいたんだろうな。
前に見せてもらったアルバムの中の幼い雫は、無邪気に大きな口を開けて笑っていた。出会ったばかりの頃は静かに微笑んでいる印象だったけれど、最近見せてくれる笑顔は時折アルバムの中の雫と重なる。
不意に雫がふふっと少し照れくさそうに微笑んだ。
「ーー雫?」
「
……
嬉しくなったの」
「え?」
「ねぇ、遥ちゃん。みんなで雪うさぎを作ったこと、覚えている?」
「うん、覚えてるよ。それがどうかした?」
「私、あの時までは、雪うさぎはしぃちゃんと作ったことを思い出していたけれど、あれから朝比奈さんと作ったことやみんなで作ったことも思い出すようになったのよ。だからきっと、これから私は雨漏りの話をするたび今日のことも思い出すのね」
雫はまるでもう思い出になってしまったかように少し遠い目をして幸せそうに笑った。
「
……
雫」
身体を寄せて手を重ねる。少し驚いたように私の方を向いた雫にそっと触れるだけのキスをした。
「
……
」
「
……
これからは、私とのキスも思い出して、雫」
頬に手を添えて、今度はもっと長いキスをした。雫の手がぴくりと小さく跳ねて、私の手の下からゆっくりと抜かれる。指先が離れたら捕まえようと思っていたら、その前に雫は指を絡めてきた。軽く握り返して、キスを深くした。
包み込まれるような雨のノイズの中に響く、メトロノームのような音。水面に落ちて弧を描く水滴が頭に浮かぶ。触れた時には少し冷たかった指先や頬は、唇を離した後にはもう暖かくなっていた。
「
……
遥ちゃんにしか言えない思い出がまた増えちゃうわ」
雫は頬をほんのりと赤く染めて、ふふっと笑った。胸が掴まれたようにぎゅっとして、熱くなる。
「ねぇ、遥ちゃん」
小さな声で雫が囁く。
「よかったら、今日泊まっていかない? 雪が降って、危ないかもしれないしーー」
「大丈夫だよ」
「
……
そう?」
「うん。降ってもそんなに積もらないだろうし」
「そうね」
少し眉を下げた雫の頬をそっと撫でる。
「でも、泊まっていくね」
少しだけ目を見開いた後、ふわりと笑ってくれた雫に笑い返す。
「ーーもっとたくさん思い出作ろうね、雫」
みんなとの思い出も、ふたりきり、誰にも言えない思い出も。
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