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のたり
2024-01-22 07:58:22
2650文字
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hrsz
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関係に名前をつけるとすれば
大学1年と高校3年くらいで、雫さんが一人暮らし設定。
ふわりと漂うのはラベンダーと少しのベルガモット。
匂いの元は私が昔プレゼントしたシマエナガのアロマディフューザーだ。
「遥ちゃん」
おいで、と先にベッドに横になった雫が私に向かって腕を広げる。
少しお昼寝しない? と雫が言ったのは、今度のイベント企画を考えようと思ってタブレットを手にした時だった。ふわりと笑った雫に、私はまた無理しかけてたんだなとわかった。
ベッドに入ると雫の匂いがした。ラベンダーやベルガモットより落ちつく香りに目を閉じる。髪を撫でてくれる手が気持ちよくて、いつしか眠りに落ちていた。
目を覚ました時も雫は起きていた。ぼんやりとした視界がゆっくりクリアになってすぐ雫と目が合った。
「おはよう、遥ちゃん」
雫がふわりと笑う。その笑顔に胸があたたかくなる反面、眠った時には私は雫の肩口に頭を乗せて、抱きしめられていたはずなのに、顔が見える距離になってしまっていたことが寂しかった。
「
……
おはよう、雫」
「よく眠れた?」
「うん。ありがとう」
雫はふふっと満足そうに微笑んで、私の頬を撫でた。その手に頬を擦り寄せる。こっそり掌にキスをした。雫が偶然だと思える範囲を越えないように。
「そろそろセカイに行く準備しましょうか」
「うん」
今夜はセカイで打ち合わせをする約束だ。先に身体を起こした雫が軽く自分の髪を掻き上げた。
私達の関係には名前がない。誰も私達の関係を聞いたりなんかしないし。もし聞かれたとしても「大事な仲間」だと答えるだろう。それは嘘じゃないけれど本当でもない。それを意識するようになったのは、ほんの些細な出来事だった。
「みのり寝ちゃった?」
「うん」
車での移動中、私の肩を枕にしてみのりは眠っていた。
「疲れてるんでしょうね。最近忙しかっただろうし」
「そうだね」
最近はみのりだけの仕事も増えた。私も負けていられないなと思うのと同時にどこか誇らしくもある。きっと助手席に座っている愛莉も同じ気持ちだろう。3つのスマホが同時に鳴った。グループチャットの着信だろう。愛莉がスマホを操作する。
「あ、雫、今現場着いたって」
「そっか。よかった」
予想通り、雫からだったみたいだ。朝から他の仕事が入っていた雫とは現場で合流する予定だった。前の仕事が押すことを少し心配していたけれど大丈夫だったらしい。
返信をしながら、愛莉がそういえば、と、話し始めた。
「こないだは雫が膝枕してたのよね。みのりったら起こしても全然起きなくて、どうしようかと思ったわ」
「そんなことあったんだ」
愛莉だって笑っていたから私も笑ってみせた。
それは微笑ましい場面のはずだった。きっと雫にとってみのりに膝を貸すことくらい別にたいしたことじゃなくて、私だって実際にしたことはないけれどみのりに膝を貸すことに抵抗なんてないのに、膝枕をしてもらっている時に見える雫の優しい笑顔を私以外の誰かが知ってるということが嫌だな、と思ってしまった。雫と同じベッドで、雫の腕の中に誰かがいることを想像してしまったら鳥肌が立ちそうになって慌てて思考を止めた。でも私には雫に嫌だなんて言う資格はない。
だってそうじゃない?
雫は頑張り過ぎてしまう私を心配して膝を貸してくれて、雫の腕の中で眠ることだってそれの延長線にあっただけ。
雫の膝に頭を乗せて、軽く自分のお腹の上に手を重ねた。
「今日は膝枕でいいの?」
「うん、膝枕がいい」
疲れてるわけでも眠いわけでもないし。
ふふっと雫は笑った。
「今日は甘えてくれるのね、遥ちゃん」
なんだ、そんなことまでお見通しなんだ。
「
……
雫」
「なぁに?」
「私が、雫のベッドに他の誰も入れないでって言ったら、そうしてくれる?」
くす、と雫は笑った。
「他の誰かを入れたことなんてないわ」
「私だけ?」
「ええ。遥ちゃんだけ」
その言葉に嘘はないと思えるのに、どうして私はこんなに落ち着けないんだろう。
「
……
どうして、私だけなの?」
「遥ちゃんはどうしてだと思うの?」
仲間だから? 私がすぐ頑張り過ぎちゃうから? そんなの、全然答えになっていない。
「雫が、私を好きだから
……
?」
そうだったら、いいのに。
雫は少し困ったように眉を下げて、それから私の頭を撫でた。その心地良さに反射的に目を閉じてしまった時、雫の手が私の両目を覆った。
「遥ちゃん、本当にそう思ってる?」
「
……
ごめん、違う。思ってない」
首を横に振りながらそう言った。
「わからない、だって雫、みんなに優しいから」
わからないから安心できないんだよ。八つ当たりみたいな重くて濁った感情が湧き上がる。
雫がみんなに優しいのはずっと前から変わっていなくて、私は雫のそんなところも好きなのに。名前はなくても私達の関係は、心地良いものとしてちゃんと存在していたはずなのに。
微かに雫のため息が聞こえた。
「
……
おやすみなさい、遥ちゃん」
いつもと変わらない雫の優しい声。けれど私は眠れるわけもなくて、ソファーに手をついて勢いよく身体を起こした。素直に驚いた顔をしてからすぐに表情を緩めた雫と、まっすぐに目を合わせる。
「どうしたの、遥ちゃん」
「
……
キスしていい?」
「それはだめ」
雫はあまり動じた様子もなくそう言った。あきらかな拒絶の言葉を口にしたのに、雫はまるで誘うような目で私の頬を優しく撫でた。
「
……
本当にだめ?」
「だって私は遥ちゃんの恋人じゃないもの」
「そうだね。どうしたら雫の恋人になれる?」
「遥ちゃんは私の恋人になりたいの?」
質問は疑問で返ってきた。
私達の関係に名前をつけたいわけじゃないと思う。ただ安心していたいんだ。私だけだって。雫はずっと私のだっていつでも感じていたい。
「
……
なりたい」
友達や仲間じゃ、「私だけ」になれないから。
大事な仲間というだけじゃ足りなくなったみたいに、いつかまた恋人というだけじゃ足りなくなる日が来るような気がする。でも今は。
「
……
雫の恋人になりたいよ。雫が好きだから」
雫は驚くでもなくふわりと笑った。
「遥ちゃん」
雫の指がそっと私の唇を撫でる。その指を咥えたくなる衝動を抑えた。
「私、遥ちゃんにキスしてもいいかしら」
「
……
うん」
顔を近付けて目を閉じて、もしかしたら雫には私の気持ちなんてお見通しだったのかもしれない、と頭の片隅でぼんやり思った。
唇が触れた瞬間、そんなことを考えている余裕なんてなくなってしまったけど。
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