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のたり
2023-09-28 07:10:36
1528文字
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hrsz
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夏の終わり
はるしず in 縁側
チリンと風鈴の音がした。
その音につられるように道路から垣根の向こうの雫の家を覗く。縁側に下げられた風鈴が見える。その下は垣根に遮られて見えない。けれど簡単に思い描ける。
恋人として雫と過ごした、はじめての夏。
部屋のほうがエアコンが効いていて涼しいけれど、縁側で雫と並んで過ごす時間がとても好きだった。
足を縁側の外に投げ出していろんな話をした。昔のこと、今のこと、そして少し未来のこと。結露で水滴がついたグラスで飲んだ冷たい緑茶。一緒に食べたスイカやところてん。暑いな、って思いながら、見上げた突き抜けるような青い空と真っ白な入道雲。
急かされるように足早になった。ここまで来たらそんなに変わらないことはわかっているけれど、一秒でも早く雫に会いたかった。
雫の家沿いの道を駆け抜ける。あの角を曲がれば玄関だ。もう少し。
角を曲がって、もう何度も来た玄関の前に立って、チャイムを押そうとした時、先に引き戸が開いた。
「
……
っ」
姿をあらわしたのは、雫だった。
「遥ちゃん」
ふわりといつものように笑う。そのタイミングに驚いた私に、雫は少し悪戯っぽく笑った。
「縁側から遥ちゃんが見えたから」
「
……
あ、そうなんだ」
見えるはずのない縁側を覗こうとしていたことや駆け出したことを見られていたと思うとなんだか恥ずかしかった。
「いらっしゃい。遥ちゃん、早く入って」
そう言って雫は、目を細めて私の手を取った。
***
縁側に腰掛けて、雫が用意してくれた冷たい緑茶を飲む。
「随分涼しくなったわね」
「うん」
雫の言うとおり、静かに流れるように吹く風はほんの少し冷たさを帯びはじめている。
スカートの裾を整えてから雫が私の隣に腰を下ろした。私はその仕草がとても好きだった。それこそつい見惚れてしまうくらいに。
20センチくらい空いた私と雫の距離。その隙間を埋めるように手を着いた。雫も同じように手を着く。小指同士が触れて、微かに心臓が音を立てた。
ーーキスしたいな。
その衝動のまま、雫の手を上から包むように握った。目が合って、雫の表情にほんの少し緊張の色が滲む。雫がゆっくり目を伏せる。私も同じ速度で目を閉じる。互いに引き寄せられるようにして触れた唇は優しくて、甘い。
チリンと風鈴が鳴る。
ここで何度もキスをした。いつでも雫とのキスは胸が締め付けられる。それからゆっくりそれが解けて、潤って、満たされる。雫はキスの後、よく胸に手を当てて深呼吸した。落ち着きたいときの雫の癖だ。「そのうち慣れるかしら」なんて、頬を赤く染めたまま言っていた。キスすることには慣れた気がする。雫の唇の柔らかさを味わうような余裕もできてきたし、唇同士をただ触れ合わせるだけじゃなくて、もっと深いキスもできるようになった。でも身体が痺れるようなドキドキにはいつまで経っても慣れない。それは慣れなくてもいいと思ってるし、雫にも慣れて欲しくなかった。
「
……
」
キスの後、雫が息をついた。熱い息を逃すようなため息だった。なんとなく雫から離れたくなくて、前髪が触れるほどの距離のまま雫を見つめた。ブルーグレーの目にどこか熱を感じて、雫も同じように私から離れたくないと思ってくれているといいなと思った。
手をあげて、雫の頬にそっと触れる。そのまま髪を梳くように撫でたら、指先が耳に触れた時、雫の身体が震えた。
「
……
あ
……
」
雫自身も驚いたような顔をした。それから戸惑ったように瞳が揺れた。それはまるで蜃気楼のようで。
「
……
」
心音が速くなる。まるで初めてキスしようとした時みたいだ。それとも雫に好きだと告白する直前の時みたいに。
チリンと風鈴が鳴った。
もうすぐ、夏が終わる。
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