倉庫でポータブルスピーカーを探していた時、フッと電気が消えて暗闇に包まれた。明かりとりの窓も段ボールで塞がれていて、目が慣れるのには少し時間がかかりそうだ。
「遥ちゃん」
雫の声がした方を向く。うっすらと雫の影が見えて、向こうから見えるはずもないのに、つい微笑んだ。
「停電かしら」
「そうみたいだね」
雫の声も落ち着いていた。
「これじゃ探し物は出来ないわね。電気が点くまで待ちましょうか」
「うん。見つかったとしても運び出すのは危ないしね」
ポケットからスマホを出してライトを点ける。その光を頼りに座れそうなところを探す。少し奥の畳まれたマットの上に雫と並んで座ってからライトを消した。スマホの画面の光はわりと眩しく私達を照らした。
「そういえば、前にも雫といた時に停電したことがあったね」
「ええ、覚えているわ。遥ちゃんも覚えていたのね」
「勿論。あれはFテレビだったよね」
「ええ」
「あの時は驚いたな。窓もなかったから真っ暗だったし」
「でも、遥ちゃんと一緒だったから心強かったわ」
それは私の方だ。衣装のままだったからスマホも持っていなくて、閉じ込められたわけでもないのに焦りを感じていた私の手を、雫はそっと握った。「停電が長引くようなら予備電源に切り替わるだろうし、いつだって外に出られるわ」と、いつもと同じ穏やかな声で言われて、雫の言う通りだとほっとした。そして私達はそのままいつものように話し始めた。この間の収録の話や遠征の時にあったこと。互いの顔は見えなくても声や空気で雫がどんな顔をしているのかわかるような気がして、真っ暗闇の中でも何も怖くなかった。むしろいつもより近い距離で2人きりで過ごした時間は、どこか秘密めいたものに感じられて楽しかった。
「……」
雫がいてくれたら何も怖くなかった。雫がなんとかしてくれると思っていたわけじゃないのに、一緒だったらなんとかできるんじゃないかといつだって思えた。なのに、私は自分が一番辛かったとき、雫を巻き込みたくなくて、雫にがっかりさせたくなくて、雫から離れたんだ。
今でも身体がすくむ時がある。今なら震える足を思い切って踏み出して、私は大丈夫だと顔を上げることができるけれど、あの時の傷は私の中でまだ乾き切っていないんだと思う。
「もし……」
「え?」
「もし、もっと早く、雫に上手に甘えられていたら、今とは違ったかな」
ASRUNのみんなにもファンの子達にも両親にも迷惑をかけることなく、私は今でもステージの上で笑っていたかもしれない。でもそんなのは所詮「たられば」だ。わかっているのにどうして、私はこんなこと言い出してしまったんだろう。暗闇で少し不安になったのか、それとも素直になり過ぎたのか。どちらにしても情け無いなと思って、自嘲した。
「ごめん、こんなこと言い出して」
俯いた私の頭を、雫はそっと撫でた。
「私に何ができたのかはわからないけど、遥ちゃんの為にできることが少しでもあったなら、なんでもしたかったって思ってるわ」
「……うん」
「でも、あの頃私が遥ちゃんのことをちゃんと支えられていたら、こうして同じ学校に通って、約束しなくても毎日会えるようなことはなかったと思うの」
「……体育祭や文化祭をしたり、屋上で一緒に練習したり?」
ふふっと雫は笑った。
「そう。一緒にお弁当食べたり、学校帰りに寄り道したり」
小さく息をついて、雫は頭を撫でていた手を下ろして、私の手をそっと握った。
「……きっと、そんなことはできなかったと思うの」
「……うん。私もそう思うよ、雫」
「だから、遥ちゃんさえよければ、あの頃の分まで甘えて欲しいわ」
「うん。ありがとう、雫」
少し照れくさかったけれど、思い切って雫の肩に頭を乗せて、手を握り返した。雫はふふっと笑って、私の頭に頬を寄せた。
「不思議ね」
「え?」
「私、遥ちゃんと一緒なら何も怖くないの」
私もだよ。心の中で呟いて、そっと目を閉じた。
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