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のたり
2023-04-09 12:48:04
3225文字
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hrsz
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Ω遥 β雫
桐谷さんのヒートの話
遥ちゃんのフェモロンは、甘く優しく、ふわりと香る。
その香りに私は少しそわそわしてうずうずして、くすぐったくなる。
私の肩にもたれる遥ちゃんのいつもより暖かい手を握って、話をしたりタブレットで映画なんか見ながら、時々思い出したようにキスをした。
いつもより甘えん坊な遥ちゃんといつもより近い距離でふたりきりの時間を過ごす。私は遥ちゃんのヒート期間が大好きだった。
***
それは多分、ちょっとした好奇心。
「遥ちゃんって、ヒートの期間はいつも抑制剤を飲んでいるのよね?」
「うん、飲んでるよ」
「そうよね」
「うん。それがどうかした?」
「遥ちゃんはヒートの時、どんな感じなのかしら、って思ったの」
個人差は大きいけれど、抑制剤がないとヒートは大変だとか、そのフェモロンにあてられたαも理性が効かなくなるなんて話は聞いたことがある。けれどβの私は深く知ることなく今まで過ごしてきた。遥ちゃんと会ってから、本を読んだりはしたけれど、私が知りたいのは一般的な話じゃなくて、遥ちゃんがどうなのかということだけだから。
「見たいの? 雫」
「
……
えっと、
……
そうね、遥ちゃんがよければ
……
」
「いいよ」
「え」
「どうして雫がそんな顔するの」
私が驚いたことに遥ちゃんは小さく笑った。
「大丈夫だよ、多分。私、そんなにヒートは激しい方じゃないし、雫も暴走したりしないでしょ?」
「
……
」
遥ちゃんに言われて、やっと気付いた。私はβだから、遥ちゃんのフェロモンに反応しない。時々反応するβもいるらしいけれど、αのようにラットを起こして身体が変わるわけじゃない。それは遥ちゃんの相手にはなれないということだ。
「もうすぐ薬が切れてくる頃だから、飲まないでおくよ」
遥ちゃんのフェロモンはいつも通り優しくて甘いのに、胸が痛くなった。
一応テーブルの上に抑制剤の準備をしてから、約束をしていた映画をタブレットで観た。私の膝の上に乗せたタブレットを、私の肩にもたれた遥ちゃんが覗き込む。いつもより遥ちゃんの身体が熱い気がする、と思ったのは、映画の中盤だった。
遥ちゃんが私の肩から頭を上げて、自分の立てた膝に額をつけた。
「
……
遥ちゃん
……
?」
「
……
大丈夫
……
」
絞り出すような声も苦しそうな表情も全然大丈夫には見えない。遥ちゃんの額から首筋へ汗が流れ落ちた。
「遥ちゃん、やっぱりお薬飲んで」
「
……
大丈夫だよ、雫」
遥ちゃんは息を吐いて、それから自分の身体を抱きしめるように蹲った。
「ダメよ、全然大丈夫そうじゃないもの」
薬袋から錠剤を取り出す。指先が白くなるほどきつく握られた手は震えていた。肩に手を置いたら、遥ちゃんはびくりと震えた。少し顔を上げて私の方を向いた遥ちゃんの目は熱を帯びて、涙で潤んでいた。
「
……
雫
……
」
はぁ、と熱い息を吐く。ぞくりとした。いつのまにか遥ちゃんの甘い匂いが強くなっていて、頭の奥が痺れた。
「
……
あ、お水
……
」
「
……
いい、そのまま
……
、飲
……
」
開かれた口に錠剤を入れる。指先が遥ちゃんの熱い舌に触れた時、思わず唾を飲んだ。お腹の奥がぎゅっと締めつけられるような感じがした。
「
……
ん」
遥ちゃんは目と口を閉じて、ごくんと薬を飲み込む。は、と、どこかほっとしたように息をついて、遥ちゃんはまた自分の膝に顔を埋めた。
「
……
遥ちゃん
……
」
心配になってそっと頭を撫でたら、遥ちゃんは私の腕をそっと押した。
「
……
ごめん、雫、ちゃんと薬が効くまで、あまり触らないで
……
」
「
……
どのくらいで効くの?」
「
……
15分くらい
……
」
「
……
15分
……
」
一度離れた手を伸ばして、今度は遥ちゃんに抱きつく。
「
……
っ」
腕の中で遥ちゃんの匂いがまた強くなった気がした。
「
……
雫、待っ
……
」
頭がくらくらして、遥ちゃんのフェモロンにあてられているんだとわかった。でも私はどこかで正気を保っている。遥ちゃんのフェモロンでおかしくなっちゃって、遥ちゃんを番いにできたらいいのに。でも私じゃ無理なんだと思ったら涙が溢れてきた。
「
……
やだ
……
」
「
……
え、
……
し、雫
……
?」
「遥ちゃんのこと、誰にも触らせたくない
……
」
「え、雫、何言って
……
っ
……
」
遥ちゃんのフェロモンに他の誰が惹きつけられても、誰にも見つからないように隠しておきたい。私が遥ちゃんの相手に相応しくなくても、私だけの遥ちゃんでいてくれるように。そんな独占欲が溢れ出す。
「しず
……
、雫
……
?」
「
……
遥ちゃん
……
っ
……
」
力いっぱい遥ちゃんを抱きしめる。私の腕の中じゃ隠しきれないけれど、せめて。
目を閉じて、遥ちゃんの肩に顔を埋める。遥ちゃんの香りに包まれていると、どこかそわそわしてうずうずしてくすぐったくて、遥ちゃんが抑制剤を飲んでいた今までだって、私は遥ちゃんのフェロモンに反応していたんだと知った。
「
……
雫
……
」
遥ちゃんが私の背中に腕を回して抱きしめ返してくれて、ほんの少しだけだけど、安心できた。
背中に触れる遥ちゃんの手が、違う場所や直接肌に触れることを想像して身体が熱くなった。それとも私が遥ちゃんに。ゆっくり背中を撫でたら、遥ちゃんは身体を震わせた。
「
……
ごめん、雫、動かないで
……
」
そう言って、遥ちゃんは私の腕を掴んだ。
「
……
ごめんなさい。じっとしているわ」
「
……
うん。ありがとう
……
」
ほっとしたように遥ちゃんは息を吐く。そのまま抱きしめ合ってじっとしていた。抑制剤が効き始めて、遥ちゃんの熱が治まるまで。
「
……
雫。もう大丈夫だよ」
しばらくして、ポンポンと遥ちゃんが私の背中をそっと叩く。その時には私の頭もちゃんと冷えていた。そっと腕を解く。座って向かい合う形になった遥ちゃんはいつもと変わらない顔をしていた。
「
……
ごめんなさい」
「え?」
「抑制剤飲まないで、なんて、気軽に言って
……
」
「いいよ、って言ったのは私だよ、雫。それに私も試したかったんだ」
「
……
え?」
「雫が私のフェロモンに反応してくれるかどうか」
「
……
」
「だから嬉しかった。雫は私のフェモロンに反応してくれるって、わかったから」
「
……
それは
……
」
顔がかあっと熱くなる。にこ、と遥ちゃんが笑った。
「雫」
私の名を呼んで、そっと頬に触れる。私の知っている暖かい手。交わしたキスはいつも通り優しくて、甘く優しく香るフェロモンは心地良かった。
「雫」
「なぁに?」
「
……
よかったら、雫としたいんだけど、いいかな」
「えっ」
驚いた私に、遥ちゃんは苦笑いした。遥ちゃんが冗談でそんなことを言うとは思っていないけど、さっきは止めたのに。
「
……
」
胸がドキドキした。
「いい? 雫」
少し照れ臭そうにもう一度聞いてきた遥ちゃんにはきっともうお見通しなんだろうけど、ちゃんと頷いて、言葉にして返した。
「
……
私も、遥ちゃんとしたいわ」
言ってからとても恥ずかしくなったけれど、遥ちゃんは嬉しそうに笑ってくれたから、良かったと思った。
手を伸ばして、そっと遥ちゃんの髪を撫でたら甘い香りがした。お腹の奥が熱く疼く。遥ちゃんの指が頬に触れて、その後初めて大人のキスをした。初めて舌で触れた遥ちゃんの舌は暖かくて頭が少しくらくらして、息がうまくできなくて、でも遥ちゃんの唇が離れそうになると、もっと、と、ねだった。
「
……
遥ちゃん、ひとつ聞いてもいい?」
「うん、なに?」
「どうしてさっき止めたの? だから私、遥ちゃんは私とするの、嫌なのかと思って
……
」
遥ちゃんは少し困ったように笑った。
「怖かったんだ」
「
……
怖い?」
「私の欲をそのまま全部雫にぶつけちゃいそうで怖かったんだ。それにそんなことしちゃうのは嫌だったから」
腰と肩に腕を回して、遥ちゃんが私を押し倒す。
「
……
でも、覚悟してね、雫」
自分の上唇を舐めた遥ちゃんの表情にぞくりとした。
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