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桐子
2025-02-11 18:07:25
2398文字
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美しい傷14(父水♀️)
彼はちらりと水木の姿を見て眉をひそめた。そして、腕を撃たれた男に向かってもう一発撃った。
「ぎゃっ!」
腕を撃たれた男は、再び悲鳴を上げてうずくまる。水木はその様子を呆然と見ていた。
「なんで
……
アンタは、大阪の組に
……
」
怪我を負わされた男は呻くように言った。
「怪しげな者が屋敷のそばをうろうろしておると聞いてのう、勘が働いたのじゃ。夕方にはあちらを発って戻っておったのよ」
親分はそう言いながら、冷ややかに侵入者を見下ろした。
「誰に命じられた」
男はぐっと歯を食いしばった。言うつもりはないのだろう。
「なるほど」
親分は軽く頷いたかと思うと、背後にいた護衛たちに目で合図した。護衛たちはすぐに男を捕らえ、どこかへ連れ去った。
そして、親分は水木のそばにしゃがみこんだ。
「しっかりせい。今手当てをする」
そう言って、自身の羽織を水木の体の上にかけてくれた。だが、もう暑さも寒さも感じない。目の前がだんだん暗くなり、意識が飛びそうだ。
だが、これだけは伝えなければ。水木は喉の奥から声を絞り出した。
「きたろう、は
……
仏壇の中に
……
」
親分の目が見開かれる。早く迎えに行ってやれ、とても怖い思いをしているだろうから。水木はそう言おうとしたが、もう言葉を出すことはできなかった。
だが、これでもう安心だという圧倒的な安堵が胸を満たしていた。この親子は生きて会うことができた。水木は彼らを守ることができたのだ。自己満足だと笑ってくれてもいい。
「
……
水木」
親分の手が、そっと頰に触れる。その指先の冷たさに安堵して、水木の意識は闇へと沈んでいった。
◇
水木は、ゆっくりと目を開けた。
ぼんやりとした視界に、見覚えのない天井が映る。ここは天国だろうかと考えて、すぐにそんなはずはないと打ち消した。顔と腹と太股がひどく痛む。痛いというのは、まだ生きている証だ。
「おお、目を覚ましたか」
これは砂かけ婆の声だろうか。首を動かす気力もなく、水木は視線だけを動かした。
砂かけ婆は、水木の横たわる布団の横に座っていた。
「気分はどうじゃ?」
「
……
なんとか」
声を出そうとして、ひどくしゃがれているのに気がついた。鉄の味もする。殴られて口の中が切れたからだろう。水木が掠れた声で答えると、砂かけ婆は頷いた。
「撃たれた傷は、色ぼけ爺がキレイに縫ってくれたからの。あやつは腕はたしかなんじゃ。じゃが、傷口から菌が入って熱が出ておるそうじゃ」
そうか、また子泣き爺が助けてくれたのか。外科の手術ができるということは、彼はこの組のお抱えの闇医者なのだ。
「病院には連れていけんが、この婆が、きっちりお世話させていただくからのう。なんにも心配せず、眠っておれ」
砂かけ婆はそう言うと、水を飲ませたり、氷嚢を取り替えたりと、かいがいしく世話をしてくれた。小さい頃に熱を出したとき、母がよくこうして世話を焼いてくれたのを思い出した。
「親父さんも、あんたにお礼が言いたいと言っておった。熱が下がったら、会ってやったらどうじゃ」
水木は頷いた。そういえば、鬼太郎は無事だっただろうか。
「安心せい、鬼太郎は無事じゃ」
砂かけ婆は心の中を見透かしたように言った。水木はほっとした。親分と鬼太郎が無事ならそれでいい。もう自分の役目は終わったのだ。あとはこの組の者たちに任せておけばいい。
砂かけ婆は、水木の点滴の管が刺さっていない方の手を優しく握った。
「おぬしの行いは、ここにおる皆が知っておる。鬼太郎を守ってくれたこと、わしらは皆感謝しておるよ」
少しかさついた暖かい手が、水木の手を握った。彼女の言葉には、確かに深い感謝と慈しみがこめられている。水木の胸は、じんわりと暖かくなった。
「あり、がとう」
かすれた声で礼を言うと、砂かけ婆が微笑んだ気配がした。
熱が上がったり下がったりを繰り返し、水木は一日の大半を寝て過ごした。だが、次第に薬が効いてきたのか、痛みも熱も和らいできた。顔の腫れもひいてきて、柔らかく煮た味噌汁やスープ、粥などの固形物も食べられるようになってきた頃だ。
「親父さんが会いたいと言っておるが、どうする?」
ある日、砂かけ婆がそう言ってきた。自分の足で一人でトイレに行くことくらいはできるようになっていた。まだ本調子ではないが、砂かけ婆からは何度も「会いたがっておる」と聞いている。水木は頷いた。
「そうか、では食事がすんだら連れてくるからの」
砂かけ婆の言葉に頷きつつ、水木は考えていた。感謝していると言われても、今までの彼の振るまいからは今一つ信じられない。
まあ、彼も人の親である。よくやってくれた、ありがとう、くらいは言ってくれるのかもしれない。内心では龍賀の女に頭を下げるなんてと屈辱だろうに。
水木が食事を終えてしばらくしたころ、砂かけ婆は親分を連れて戻ってきた。
「入るぞ」
襖が開き、親分と砂かけ婆が入ってきた。彼は今まであまり見たことのない縹色の着流しに、白の羽織を肩にかけていた。黒ではない衣服を着ているのは初めて見た気がする。
「おばば、二人きりにしてくれんか」
男がそう言うと、砂かけ婆は心得たとばかりに頷いて部屋を出て行った。
「具合はどうじゃ」
男は布団の側に腰を下ろすと、こちらを覗き込んできた。
「よくなってきました」
かすれた声で答えると、男は「そうか」と頷いた。何を言われるのかと身構えていたが、男は黙ったままじっとこちらを見つめてくるだけだ。正直言って気まずい。水木がちらと見上げると、男は口を開いた。
「鬼太郎に聞いた。お主はあの時、倅を仏壇の中に隠して自ら囮になったのじゃと。あの子を置いて逃げようと思えばいくらでも逃げられたのに
……
」
そう言って、親分はくしゃりと顔を歪めた。そして、額を畳に擦り付けるようにして頭を下げた。
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