Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
しゃどやま
2025-02-11 15:11:13
3610文字
Public
Clear cache
【宗戴】起点
アカデミー時代の叢戴が相部屋になる話
(モブにセクハラされる戴天の描写があります)
ひゅん、と戴天が槍を振る。先端が綿で保護された槍が、刃のように見える鋭さ。金の髪がふわりと空気を含んで揺れた。
向かいに立つのは、刃を潰した剣を持つ叢雲。細身の体だが、構えが揺れることはない。黒いアカデミーの制服とあいまって、軍人のようにも見えた。
「本家のあなたが相手とはいえ、負けませんよ」
戴天は柔和な口元を好戦的に持ち上げる。練習試合を申し出たのも戴天だった。従兄弟であり、同じ苗字を持つ二人はよく比較されるライバル関係だ。今も戴天の背後には戴天を支持する取り巻きが、拳を握って見守っている。
叢雲は息を吐く。長い尾のような黒髪が光った。
「
……
本家云々言うのはやめにしないか。この場で評価されるべきは実力だ」
親の都合で評価されたくない、と叢雲は常々言っていた。戴天の血が劣っているとも思えないし、血で決まるものでもないと信じている。
――
そして、本家の血と聞くと頭が微かに痛む。何かを、考えたくない気持ちになった。
叢雲の取り巻きたちも同意してそうだと声を上げる。一期の生徒たちはおおまかに二分されていた。叢雲派と戴天派に。
戴天は少し意表を突かれたように眉を持ち上げる。頷き、槍を構え直す。
「そうですね。では、対等に
……
同じ学年委員として」
一人の生徒が手を持ち上げて叫ぶ。
「はじめ!」
先に動いたのは叢雲だった。異種の武器での試合で、相手のほうがリーチが長いとなれば、距離を詰めなければ一方的な戦いになる。横殴りに動いた槍は、戴天の筋力と梃子の力が乗り重たい。肩を殴られながらも懐に飛び込むように走る。
「せいっ!」
戴天が腰を落とし槍を半回転させる。叢雲を近くに寄せないために短く持ちなおした。
「ふ
……
っ」
叢雲は体を屈め、勢いの付けられた槍を躱す。戴天の利き手は右だ。槍の重さに力を取られた瞬間に回り込み剣を突きの形に構える。あと二歩半の間合いまで近づけば、戴天に刃が届く。
見逃す戴天ではなかった。地面に槍を叩きつけ、反発で柄を叢雲の方へ突き出す。石突が叢雲の剣の先端を下段から絡め取り、勢いを殺した。
「お前たち! 何をやっている!」
ぴたりと、二人は動きを止める。
教官の声に生徒たちが短い悲鳴をあげた。訓練中に観客へ回っていた生徒たちは、慌てて練習試合を始める。
「はあ
……
っ興ざめですね」
戴天は構えを解き、額に浮かんだ汗を拭う。
「助かったな」
叢雲は軽口を叩きながら、戴天に向けて拳を突き出す。
「あなたの方こそ」
笑う戴天は、叢雲の拳に拳を打ち付ける。戴天の汗からは、爽やかな匂いがした。
相互監視の意味を込めて、アカデミーでは全ての生徒が相部屋になっている。戴天もまた、遠賀という男と同室になっていた。夜も更け、皆が眠りについた頃、遠賀は体を起こす。自分のベッドから出て、もう一つの、戴天のベッドへ近づいた。
「戴天さん
……
」
遠賀は囁く。戴天は動かない。規則正しい寝息を立てたまま、返事をしない。金の柔らかい髪が枕に押し付けられて少しクセがついていた。遠賀は戴天の寝起きが悪いことを知っている。寝ぼけている時のやりとりを覚えていなかったり、虚空を見つめたまま動かなかったりした朝のことを知っている。
つまり、寝起きの戴天が無防備であることを知っている。
手を伸ばす。よく訓練し日に焼けた指先が、戴天の白い首筋に触れた。寝間着に入り込んだ髪の毛を避けた。まだ、言い逃れができる動きだ。
遠賀は、戴天の首筋に顔を近づける。髪の付け根、うなじに鼻を埋め、すう、と吸い込んだ。
戴天の体臭がいい香りだと、一部の生徒の間で話題になっていた。同じボディソープを使っているはずなのに、花のような香りがすると。空手で締め上げられた生徒はしばらく夢見心地だった。
「はぁ
……
!」
遠賀の鼻腔を、戴天の香りが満たす。石鹸の香りに負けない、奥深い香り。頭皮に近い部分は特に匂いが強く、遠賀の興奮を唆る。果実のような酸味と、蜜のような甘さ。眠っている戴天の体は、香木のようだった。
戴天の肩に手を置き、仰向けにする。寝間着のシャツのボタンを、震える手で外した。一つ一つボタンを外すごとに、戴天の白い肌があらわになる。引き締まった筋肉の凹凸に、遠賀は体を折り曲げて鼻を寄せる。香りが濃厚になっても、男臭い匂いは一切ない。肌の白さと同じように汚れがなかった。
胸板を思わず撫でる。少し寝汗をかいていたのか、しっとりと絹のような手触りがした。
ぴく、と戴天の肌が震える。唇が動いた。
「んぁ
……
どう
……
しましたか?」
眠気には勝てないのか、戴天は目を開けない。ただ脱力した全身を、遠賀に晒している。遠賀は、押し殺した声で答えた。
「もう、我慢できません
……
」
「はぁ
……
?」
戴天の肌を撫で回し、臍にふれる。不快なのか、ぴく、ぴくと腹が痙攣する。
「まだ
……
きがえるじかんでは
……
」
戴天はいやいやと首を振る。目を閉じたまま嫌がるが、手は持ち上がらない。遠賀は臍を舐めるほど顔を近づけ、戴天の匂いを嗅ぐ。興奮した息が当たると、戴天はくすくすと笑った。
「ふふ、くすぐったい
……
」
遠賀は、寝間着のズボンに手をかけてずりおろした。同級生としてなんの変哲もない、支給品の下着が見える。遠賀は興奮した手つきで、戴天の太ももに触れる。内腿に、唇をつけた瞬間。
「っ! えっ?」
戴天は、目を開いた。同室の生徒が、ありえない近さにいることに気付く。同時に服を脱がされている辱めに、手が動いた。
「何をする!」
遠賀の襟首を戴天が掴む。渾身の力で、投げ飛ばした。
教官が廊下の電気を全て点ける。同時に警棒を持って現れた。
「なんの音だ!」
「先生! この部屋です!」
起き出した生徒が、戴天たちの部屋を指差す。優等生の部屋からした大きな音に、皆は疑問を持ちながら戸を開けた。
そこには、棚にめり込んだ遠賀と、半裸のまま呆然とする戴天が居た。視線に気付いた戴天は、もぞもぞとズボンを上げる。ボタンを止めることには手間取っていた。
「な、何の音ですか」
廊下の向こうから、叢雲が現れる。大きな音が夜中にしたことに驚き、眠っていられなくなった。そして、戴天の様子を見て眉をひそめる。まだ青い顔で、ボタンをかけられないシャツの前を合わせていた。
「何があった?」
教官の問いに、戴天は遠賀を指差す。のろのろと口を開いた。
「
……
肌を触られて、匂いを嗅がれて
……
」
「ね、寝ぼけた戴天さんが言ってるだけです!」
「いえ、確かに脱がされて
……
おそらく
……
」
戴天の間延びした声と、体を起こした遠賀の必死の形相。教官が腕を組んだ。
叢雲が手を上げて、教官に意見する。
「俺は
……
以前に聞いていました。こいつが戴天について下卑た話をするのを」
「叢雲さん!」
遠賀が驚いた声を上げる。叢雲が組手の途中で給水している時に、遠賀が友人と話していた覚えがある。「抱きしめたらいい香りがした」「もっと寝技をかけたかった」と。それだけで裁くことはできないと放置していたが、こんなことになるとは。叢雲は唇を噛む。
「実は僕も、前風呂場で
……
」
教官を起こした生徒も言う。戴天の服を盗もうとした話を聞いていた。
「どうやら、話は決まったようだな。これがお前の本能か」
教官は青ざめた遠賀に言う。本能という言葉が叢雲の耳に残った。
「罰則は後々考えるとして
……
部屋割りは変えるぞ」
「僕の部屋はどうですか?」
無邪気に提案した生徒に、教官は首をひねる。そして叢雲を見た。
「いや、叢雲がいいだろう。従兄弟なら間違いの起きようがない」
「わかりました」
叢雲は頷く。戴天だけが話を理解できずに、ぼんやりと目を擦っていた。
「間違い、か
……
」
叢雲は枕と着替え、歯ブラシだけを持ち戴天の部屋に入った。間違い、とはつまり、そういうことだろう。集団生活ではよくあることだと知っていても、実感が薄い。
戴天は流石に目が覚めたのか、叢雲に深々と頭を下げた。
「今日からよろしくおねがいします、叢雲さん」
ふう、と息を吐く戴天は、またベッドに戻っていく。無防備な後ろ姿に、叢雲は声をかけた。少しからかってやろう、という気持ちだ。
「俺が何かするとは思わないのか?」
笑いを含んだ声色に、戴天は平然と返す。
「あなたなら構いませんよ」
受け入れる言葉。絶句した叢雲に、戴天は続ける。
「別に、匂いを嗅がれるぐらい」
真っ直ぐな瞳だ。無警戒の、信頼の瞳。
戴天はまだ、自分がなぜ襲われたかわかっていないようだった。
叢雲は深いため息を吐き、戴天に背を向ける。
「
……
早く寝ろ」
「自分から話しかけておいて
……
なんですか?」
戴天は唇を曲げた。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内