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toko-honey
2025-02-15 00:00:00
3863文字
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ドキドキ☆交換日記7【心機一転】
レオン×タクミ。交換日記で仲良くなっていくレオタクの最終話。
ラブラブハッピーエンド! 最後までお付き合いいただきありがとうございました。
Japanese Only
#leokumiweek2025
タクミは朝食と日記帳を持ってレオンの病室に入った。
「おはよう、具合はどう?」
「ああ、タクミ。いつもありがとう」
レオンは上半身を起き上がらせて本を読んでいた。初心者向けの将棋の本だ。ベッドサイドのテーブルには本が何冊も積まれており、タクミはその本を端に寄せてできたすき間に朝食の盆を置いた。日記帳は少し迷って本の山の一番上に置く。
「気分は悪くないよ。傷の違和感もあまりなくなってきた」
「目まいや頭痛もない?」
「ないよ。そろそろ動いてもよさそうだ」
「今日辺りサクラが許可を出してくれるかもね」
「そうだといいけれど。ああ、もう。寝ているのはいい加減飽きてきたよ。早く君みたいにここを出られたらいいのに」
レオンが本を置いて伸びをする。うんざりした顔を見て、タクミはくすくすと笑った。
レオンが目を覚ました日から一週間が過ぎていた。怪我の回復は順調だ。ここに運んでこられたときは真っ白だった顔色も、元の健康的な色に戻ってきている。タクミの方はレオンより軽傷だったので二日前に包帯が取れており、通常の生活に戻ってもよいとサクラから許可が出ていた。
通常の生活に戻っても、タクミは救護室に通ってレオンの身の回りの世話を続けていた。交換日記もだ。少しでも多く彼に関わって、彼の支えになりたかった。
自分が彼に向ける思いに気づいてからは、しばらく彼の目をまともに見られなくなっていた。それも今はもう克服している。敵の攻撃を受けて倒れ、大量に血を流す彼の姿を目の当たりにしたら考えが変わった。戦いは命がけだ。もしかしたら彼を失ってしまうかもしれない。現に、城の深部に近づくにつれ、敵はどんどん強くなっている。
万が一そうなったとき、彼と目を合わせなかったことを自分はきっと後悔すると思った。どうして彼の目を見なかったのかと一生悔やむことになるだろう。そんなことになるくらいならまっすぐ目を見たかった。目が合ったときに感じる自分の胸の痛みや動悸の激しさなどは些細な問題に過ぎなかった。
レオンが朝食を食べ終え、タクミは食器を片付けた。食堂に食器を運んで戻ってくると病室にはサクラとエリーゼが来ていた。サクラがレオンの容態を確認する。
「怪我はもうよくなっています。血の量はまだ回復しきっていませんが、引き続き薬を飲んでいれば直に元に戻ると思います。くれぐれも無理だけはしないでくださいね」
普段は自信がなさそうに話すサクラだが、治療に関することでははきはきしていた。
「それなら僕はもう病室から出てもいいのかな」
「そうですね、今日の夕方までは様子を見ましょう」
「夜には部屋に戻れるって。よかったね、レオンお兄ちゃん」
エリーゼがレオンに煎じ薬を渡した。
レオンが薬を飲み干し、サクラたちが出て行く。
「将棋でも指す?」
タクミはレオンに提案した。朝食後のこの時間は二人で将棋か議論をすることが多い。今朝のレオンは将棋の本を読んでいたし、きっと将棋の気分だと思った。
レオンが掛け布団をどけてベッドの上にスペースを作る。タクミはそこに盤を置いて椅子に座った。ベッドの上のレオンと向かい合わせになる。駒を並べていると、将棋の本を眺めながらレオンが言った。
「さっき聞いたんだけど、エリーゼは今日サクラ王女とお菓子を作るそうだよ」
「へえ、何を作るんだろう」
「白夜のお菓子だ。『白玉ぜんざい』だって言っていた」
「ふうん」
相槌を打ちながら金将、銀将、桂馬と駒を並べていく。
エリーゼはたびたびお菓子を作っては拠点のみんなに振る舞っている。ぜんざいは好きだし、どこかのタイミングで食堂に寄ってご相伴にあずかろうとタクミは思った。レオンはあんこが苦手だから同じ味のぜんざいもきっと食べないに違いない。
タクミは日記帳をちらりと見た。サイドテーブルの本の山の上に乗っている。あんこのことでレオンと大喧嘩をしたことを思い出し、少しおかしくなった。
「今日も二枚落ちでいい?」
ハンデを確認しようとするとレオンが唐突に言った。
「食べてみたいな、ぜんざい」
「ええっ!!」
突拍子もない申し出に、タクミの手から飛車と角行が落ちた。「豆が甘いなんて信じられない」と言ったのと同じ口から出た発言とは思えない。
「ぜんざいってあんこで作った汁だよ? わかってる? あんこ、苦手だろ?」
「エリーゼから聞いたからわかってるよ。豆で作ったスープなんだろ? 君と作った大豆のポタージュスープと似たようなものじゃないか」
「あんこの豆は小豆で大豆じゃないし、スープも甘いスープだよ。食事じゃなくてお菓子だよ」
「サクラ王女は血が足りないときは小豆を食べるのが効果的だって言っていたよ。あの苦い薬よりは甘いほうがいいんじゃないかな」
タクミは床に落ちた飛車と角行を拾った。レオンの顔をまじまじと見る。
「そんなに見つめなくても僕は正気だよ」
「どういう風の吹き回しなんだ」
「いいからさ、ぜんざいができたらここに持って来てよ」
本を見ながら駒を並べ終えたレオンが歩兵をパチンと一歩前進させる。それにつられてタクミが歩兵を動かすと盤上はにわかに忙しくなり、ぜんざいの話はそれで終わりになった。
サクラとエリーゼのぜんざいは昼過ぎにできあがり、タクミは小さな椀を盆に載せてレオンの病室に行った。本の山の横に置く。
「持って来てくれてありがとう」
レオンは木製の匙を持ち、椀の中を見た。汁は椀に半分ほど入っており、二つの白い団子が寄り添い合っている。
「これだけ? 少なくないか?」
「食べられなくて残したらもったいないだろう。だから少なめにした」
レオンが椀の中身を匙ですくって口に入れる。タクミはその様子をじっと見守った。
あん団子と白玉ぜんざいなんて、湯の量以外はほぼ同じようなものだ。口に合わないからとあれだけ拒絶しておいて、なぜ急に食べたいなどと言い出したのだろう。気が変わるようなきっかけが何かあったということか。
しかし、本当に食べられるのだろうか。
彼に対して、喧嘩をしていたころのような忌ま忌ましさはもう感じないが、不可解な言動への不信感はあった。
「案外おいしいね。苦手だと思っていたけれど、ちゃんと味わって食べたらおいしいよ」
数口食べてレオンは笑う。
「ちゃんと食べずに批判していたのか」と言いかけた言葉をタクミは飲み込んだ。
レオンがぜんざいを食べ終わる。椀は空になっていた。もう少し多めに入れてもよかったかなとタクミは思った。
夕方になり、レオンは救護室から宿舎に戻ることになった。病室から本や将棋盤を運ぶのを手伝う。
手伝いが終わって部屋に戻ろうとするとレオンに呼び止められた。「はい」と日記帳を渡される。
「書き終わったらその日のうちに返してもいいんだよね」
そう言いながら日記帳を差し出すレオンの顔は、なぜか緊張しているように見えた。
自室に戻ってタクミは日記帳を開いた。一番新しいレオンのページには短い文章が書かれている。それを目にして、息をのんだ。
★の月●日
君のことが好きだ。
もし迷惑だと思ったのなら、この交換日記を終わらせてもいいからね。
タクミが伝えようとしても伝えられず、諦めたのと同じ思いがそこには綴られていた。
「あいつ
……
!」
かあっと体が熱くなる。
――
なんで? どうして? いつから?
あの日、火の中に投げ込んだ幾枚もの半紙と、切った日記帳のページを思い出す。
彼に思いを伝える選択肢は、あのとき燃え尽きてなくなったはずだった。いくら胸が痛くても、一人で抱えようと決めたのだ。それが、思いもよらない方法で舞い戻ってきた。彼の方から手を差し伸べてくれた。
驚きやうれしさや色んな感情がぐるぐると回り、湿り気を帯びた熱となって目元に押し寄せてきた。止めようと思う間もなくぽろぽろと涙があふれる。そのうちのひとしずくが、ページの上にぱたりと落ちた。
タクミは思いのこもった短い文章を何度も読んだ。
ぜんざいを食べたとき、レオンは「ちゃんと食べるとおいしい」と言って笑った。タクミも彼のことを嫌な奴だと思っていたけれど、ちゃんと知ったら大好きな人になっていた。
あふれる涙を袖口で拭う。
「勝手に終わらせようとするなよ」
にじむ視界の中、タクミは筆をとった。新しいページに筆を走らせる。下書きなど必要ない。ずっと抱えていた素直な気持ちをそのまま書いた。
僕も君のことが好きだ。
日記帳を持ち、ぐちゃぐちゃな感情のままタクミは部屋を出た。レオンの部屋を目指して早足で廊下を歩く。目元を指先で乱暴に拭うが涙が止まる気配はなかった。
泣き顔を見て彼はあわてるだろうか。こうなった原因は彼にあるのだから、彼に責任を取ってもらわなければ。
レオンがあわてる様子を想像しながら部屋までたどり着く。タクミはいつもより性急に戸を三回叩いた。少しの間があり、「開いてるよ」の返事と同時に戸を開ける。タクミはレオンに駆けよった。驚き顔の彼の腰に両腕を回して抱きつく。
「レオン
…
! 僕も
……
」
声が詰まってしまって、あとは言葉にならなかった。
髪に指先が触れる。耳元で「タクミ」と優しい声が聞こえ、両腕がタクミをそっと抱き返した。タクミは手の中の日記帳を彼の背に押し付けながら、ぎゅっと腕に力をこめた。
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