toko-honey
2025-02-13 00:00:00
3764文字
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ドキドキ☆交換日記5【暗中模索】

レオン×タクミ。交換日記で仲良くなっていくレオタクのお話。1日1話の連載で全7話です。
ちょっと雲行きが怪しくなってきました。
Japanese Only
#leokumiweek2025

 タクミは行灯の明かりの中、半紙に筆を走らせた。交換日記の下書きだ。日記帳は半紙の横に、前日のレオンのページを開いて置いてあった。
 カムイによる定期的な交換日記のチェックはもうなくなっていた。当初の目的であった、タクミとレオンの相互理解が達成できたと判断されたからだ。交換日記を終了してもいいとも言われたが、二人は自主的に続けていた。理由は単純だった。楽しいからだ。
 こうして事前に下書きをするようになったのも、交換日記が楽しくなってきたころからだ。楽しくなってくると日記も大事なものに思えてきて、文章も文字もできるだけ丁寧に書こうという気になった。

 さらさらと運んでいた筆を止める。タクミは半紙に書かれた文章をじっと見つめ、上から大きくバツ印を書いた。半紙を丸めて畳の上に放り、また別の半紙に書き始める。文机の周囲には、同じように丸められた半紙がいくつも散らばっていた。
 今日の下書きはなかなかまとまらなかった。書きたいことはあるのだが、どう書けばいいのか迷っていた。
 筆を走らせながら頭に浮かぶのは、昼間に見た光景だった。
 今日の昼間、宿舎の二階の自室で本を読んでいるときにアクアの歌声が外から聞こえてきた。彼女が歌を練習をしているのはよくあることだ。城にいたときも湖のほとりで歌うアクアの歌声がタクミの部屋まで聞こえてきていた。
 聞くともなしに聞いていると、その歌が中途半端なところで途切れた。いつもの練習と比べるとおかしな途切れ方だ。気になって読書を中断し、タクミは窓から身を乗り出して外を見た。
 アクアは宿舎の建物近くに立っており、その彼女に誰かが話しかけていた。だから歌が途切れたのだ。原因がわかったのだから読書に戻ってもよかったのだが、タクミは窓から見下ろす光景に目が離せなくなった。アクアに話しかけている相手がレオンだったからだ。
 歌声とは違い、二人の話し声は小さくてほとんど聞き取れなかった。レオンがアクアに何かを話しかけ、彼女は困ったような様子を見せながらレオンと短い会話を交わしてその場から立ち去った。起こったのはたったそれだけのことだった。
 残されたレオンが向きを変えて顔がこちらを向こうとするのを見て、タクミはあわてて窓から部屋の中に引っ込んだ。読書を続けようと文机に戻るが、心臓がドキドキと落ち着かなくてそれどころではなかった。
 彼らは何を話していたのだろう。
 本の文字を目で追いながら、考えていたのはそのことばかりだった。
 同じ陣営の仲間なのだし、彼らが立ち話をするのは自然なことだ。そう頭ではわかっているのに、胸の中がもやもやして仕方がなかった。本気で解決しようとするならば、今すぐにでも外に出てレオンかアクアを探し、何を話していたのか尋ねれば済む話だった。話している姿を窓から偶然見たと正直に言えばいい。レオンにしてもアクアにしても、そのくらいのことは軽く聞ける仲だった。
 だが、できなかった。胸のもやもやの本質が彼らの会話の内容ではないことにすぐに気づいてしまったからだ。
 レオンが自分以外の誰かと親しげに会話をした。そのこと自体がタクミの心を乱していた。
 彼が自分以外の誰かに興味を向けるのが嫌だ。彼について知らないことが増えて欲しくない。
 そんな感情をずっと引きずりながら一日を過ごし、日が落ちてからタクミは半紙と向き合っていた。
 下書きの半紙に素直な思いを綴る。
「僕以外の人と話さないで欲しい」
「もっと君と一緒に過ごしたい」
「僕だけを見て欲しい」
「僕を一番に思って欲しい」
 タクミは半紙に書かれた文字を眺め、大きくバツ印を書いた。もう何枚目かわからない下書きを丸めて畳の上に落とす。部屋に散らばった書き損じの紙くずに書かれているのはどれも似たり寄ったりの内容だった。できたばかりの友人との交換日記に書くにはあまりに利己的で、支配的で、幼稚な内容だ。
 こんな気持ちをそのままレオンにぶつけるわけにはいかなかった。彼はタクミのことを「一番にわかってくれる相棒」だなんて言ってくれる大事な相手なのだ。
 自分がこんなにも人に対して自分勝手な思いを抱くなんて思っていなかった。母に対しては似たようなわがままを言ったように思うが、それは幼少期の話だ。自分と同じように相手には相手の気持ちがあるのだと分別のわかる年齢になってなお、他人に要求することではなかった。
 そこまでわかっていながら、レオンに対する気持ちは抑えられなかった。いろんな悩み事を交換日記に書いては彼と気持ちを分かち合ってきたが、こればかりは書ける気がしない。きっと彼の気分を害してしまうだろう。そこまでいかなかったとしても絶対に困らせる。
 タクミは部屋に転がる大量の紙くずを眺め、そして日記帳を見た。
 下書きをするようになってから、タクミは交換日記には素直な気持ちを書いていた。言葉では隠しがちな本音でもレオンに当てて書くのだと思ったらすらすら書けた。彼が自分の理解者になってくれるのがうれしかった。できれば今回もそうしたかったが、無駄になった紙の枚数を見るともう諦めたほうがよさそうだった。
 タクミは新しい半紙にまったく別のことを書き始めた。幸いなことに日記に書きたい話題は他にもある。下書きを元に、今日の交換日記を完成させた。
 日記帳を閉じて明かりを暗くする。布団に横になるが、レオンのことが頭を占めていてなかなか寝つけなかった。
 彼に対してこんな風に思うのは間違っている。間違っているのに止められない。どうして自分は急に物わかりが悪くなったのだろう。一つだけ、思い浮かんだ可能性があった。
 タクミは布団から起き出し、行灯の明かりを大きくした。日記帳を開く。
 先ほど書いた日記のページは下に余白があった。タクミは筆をとり、そこに今の素直な気持ちを書き加えた。

――追伸:君のことが好きになってしまったかもしれない。

 少し考えて、続きを書く。

――突然のことで驚いたと思う。でも、応えて欲しいわけじゃないんだ。ただ、伝えたかった。自分勝手でごめん。

 タクミは筆を置いた。日記帳を開いたまま布団に戻る。明日の朝、この日記帳をレオンに渡すことを考えるとやっぱりなかなか寝つけなかった。彼は嫌がるだろうか、呆れるだろうか、悩ませてしまうだろうか。
 こんな気持ちは、伝えるべきじゃないかもしれない。
 でも一人で気持ちを抱えることを思うと、胸がきりきりと痛んだ。



 ほとんど眠れず朝を迎える。今日の朝は食堂当番だ。タクミはもう一度日記を読み返した。
 身支度を整え、日記帳を持ってレオンの部屋の前に行く。緊張しながらもいつものように戸を三回叩いたが、レオンはまだ寝ていたようで返事はなかった。
 自分の部屋に日記帳を置いてから食堂に行く。
 タクミは厨房に入って味噌汁の下ごしらえをし、鍋をかまどに吊した。灰の中から種火を見つけ、おがくずを加えて息を吹きかけ火を大きくする。少し火が大きくなったところでタクミは裂いた半紙の束を取り出した。昨夜散々書いて丸めた交換日記の下書きの半紙だ。
 細く裂いた半紙を火にくべると紙は面白いように燃え上がり、大きくなった火が薪に燃え移った。赤く燃える炎の中に次々と半紙を投げ込んでいく。思いを綴った紙片が火の中でみるみる黒く縮んでいくのを見ながら、タクミは交換日記に書いた文面を思い出していた。


☆の月○日
 レオン王子が魔道を選んだのにそんな理由があったんだね。あんたでもきょうだいに劣等感を持ってるんだなってわかったら少し安心したよ。
 だって僕も同じだから。兄さんや姉さんに劣等感を抱いてばっかりだ。
 僕は剣術ではリョウマ兄さんにきっとかなわないと思う。でもこの前、剣以外のことで支えて欲しいってリョウマ兄さん本人から言われたよ。足りないところを助けて欲しいって。
 それを聞いて、誰かにあこがれるのはいいけれど、同じになろうとしなくてもいいんだなって思った。
 レオン王子にもマークス王子にはない長所があるんだから、あんたにしかできない役割がきっとあるよ。
 ところで、明日の朝は僕が食堂当番なんだ。大根の味噌汁を作るから楽しみにしてなよ。あんたはトマトの味噌汁を食べてみたいなんて言っていたけど、今は手に入らないから我慢してよね。

追伸:前のページは墨をこぼしちゃったから切り取ったんだ。大事な日記帳なのに不注意でごめん。


 半紙が燃え尽きるのを見届けながら、タクミは手の中で一枚の紙片をもてあそんだ。日記帳の一ページを切り取ったものだ。さきほど思い出した日記と同じ文面だが、追伸だけは違っていた。手の中の紙片には、「君のことが好きになってしまったかもしれない」と書かれていた。
 タクミは起きてすぐに日記を読み返したとき、小刀で自分のページを切り取っていた。日記の文面をまったく同じように書き直し、追伸だけを変更した。
 タクミは手に持った紙片を躊躇せず火の中に投げ入れた。半紙よりも厚い紙が火にあぶられて端から黒くなり、あっという間に形を無くしていく。その様子をじっと見つめ続けた。