かにやけんせつ
2025-02-11 02:24:44
2635文字
Public 魔法少女特務機関 Main Story
 

魔法少女特務機関 Fragment.002

#2023/7/12
#Aoi_Cyan

 その後。
 白衣の女性に連れられて来たのは、駅前にある製薬会社のビル──に偽装された、特務機関、という組織の拠点であった。彼女は倒れていた少女を一度そこの職員に預けると、少女を高層階へ案内してくれる。

「さてと、さっきも自己紹介したけど改めて。私は花咲はなさき御琴みこと、博士と呼んでくれると嬉しい。ここ、特務機関の研究者のリーダーって立場なんだ。どうぞよろしくね、蒼井あおい詩杏しあんちゃん」

 白衣の女性──博士は、そう言って笑いかけ、それから部屋のひとつに案内してくれる。少女──詩杏が暑さのせいで体調を悪くしていたためか、そこは病室のような部屋であった。が、他の用途にも使われているからなのか、病室によくあるベッドやサイドキャビネットのみならず、謎の機材やら何やらも隅に固めて置いてある。それを聞こうかとも思ったが、しかし流石に機密とかだろう、と詩杏は黙っておくことにした。

「はいこれ、使って。君熱中症でふらふらなんだから、なにはともあれ身体を冷やさないと」

 そう言って差し出された氷枕を受け取ると、詩杏はベッドの上で太ももに氷枕を挟む。ついでに経口補水液も受け取って飲むと、身体に染み渡る感覚がした。以前興味本位で飲んだときは不味かったのに、と漏らすと、そりゃそうだ、と博士は言う。

「だって経口補水液って、脱水のときに飲むものだからね。元気なときには過剰な塩分なんかを摂取することになるから、身体がいらないって言うのさ。だから今は前飲んだときと違って美味しく感じてるんじゃないかい?」
「なるほど……ごく」

 部屋のクーラーの設定温度を下げつつ説明する博士に目をやる気力もないまま、詩杏は経口補水液を飲み進める。そうしているうちに、博士の部下か何かなのか、白衣姿の男性が何やら資料の束を持ってくる。博士が資料の束を受け取ると、その男性はさっさと部屋を出て行ってしまった。

「さて。お疲れであろうところ悪いけど、話したいことがあるんだ。付き合ってくれるかい?」
「いいですけど……

 なんの話だろ、と経口補水液のペットボトルを両手で持ちながら詩杏が首を傾げると、博士はベッドサイドに丸椅子を持ってきて腰掛ける。そして、資料を詩杏にも見せつつ、博士は説明を始めるのであった。



 気づけば時刻は、20時を過ぎようとしていた。
 博士が言うには、ここ特務機関は「魔法少女を生み出したり保護して、世界を守るため戦う魔法少女達を支援する組織」らしい。そして、詩杏にも魔法少女の適性があるから是非特務機関に入ってほしい、ということであった。詩杏としても興味を惹かれたので話を聞いていたところ、こんな時間、ということである。

「にしても、ちゃんと雇用契約とか結んでるんですねー。てっきりもっと適当というか、そんな感じかと」
「そもそも機関の設立理由自体、魔法少女達の立場や権利を守るためというのもあるからね。雇用契約や、山のようにある同意書だってその一環さ」

 言いつつ博士は、最後に資料の中から抜き出した紙を何枚か、ボールペンと一緒にベッドのサイドテーブルに置く。それらはどれも、ここまで説明した内容に対する同意書であった。

「それじゃあ、魔法少女になる事に同意してくれるのであればサインを」

 博士に促され、詩杏はボールペンを手に取る。そして、同意書の一枚一枚にそれぞれサインをしていく。しばらくして全ての同意書にサインを終えると、博士はそれらを確認しながら詩杏にこんなことを問いかけてきた。

「そういえばもう遅い時間だけれど、大丈夫かい?」
「はい、流れ的に泊まることになりそうだったので連絡しておきました。ちょいちょい外泊してるので、またか、としか思われないでしょ」

 そう話す詩杏に、少し苦笑いしつつも「それならいいけど」と答える博士。博士や機関の職員から詩杏に、泊まりなよ、などと言った訳ではないが、博士の反応を見るに勝手に泊まるなどと言い出しても迷惑ではなさそうであった。

「そういうことなら、適性検査から覚醒まで今晩のうちに済ませられそうだね。同意書を書いてもらった後だけど、一応改めて軽く説明しようか」
「はい、お願いします」

 博士は資料を置いて代わりにタブレット端末を手に取ると、何やら少し操作してから改めて詩杏に向き直る。

「まず、適性検査だけど、いくらか血を抜き取らせてもらって、その血を使って検査することになる。この検査にはだいたい1時間くらいかかるから、その間は好きに過ごしてもらって構わない。その後は魔法少女に覚醒するために、手術を受けてもらうことになる」
……さっき聞いたときも思いましたけど、魔法少女とか言ってる割にはこう……随分科学的な感じがしますね?」
「まぁ、そのための特務機関でもあるから。手術の内容はさっき見せた資料の通り、ここに置いておくから見返したくなったら見返してくれ。その手術さえ終われば、君も晴れて魔法少女というわけだ」

 何か質問は、と問われ、詩杏は少し考える。訊いておくべきことはあったか、と考え、そしてひとつ思い至った。

「そうだ、今日の晩御飯はどうすれば」
「この私を呼んだわね!?」

 それを口にしている最中、突如部屋の引き戸が開き、一人の女性が飛び込んでくる。赤い髪をポニーテールに結ったエプロン姿の彼女は、所謂食堂のおばちゃん的ポジションの人だろうか……

「君……とっくに魔法少女を引退したはずなのに、まるでエスパーだね……?」
「はらぺこあるところにならいつでも現れるわよ、ふふん!……あ、いけないいけない、自己紹介してないわね。私はいかづち美雲みくも!お腹が空いたら私に言いなさい、なんでも作ってあげるから!」

 そう言って美雲が元気いっぱいに笑うと、博士も釣られたように笑う。詩杏も自己紹介をすれば、よろしくねー、と明るい返事が返ってきた。

「それで、ご飯だけど何食べたい?博士のリクエストも聞くわよ!……あぁ、アレルギーがあるならそれも忘れずにね?」
「アレルギーはないです。……んー、じゃあおそば食べたいです」
「じゃあ、私も蕎麦で」

 詩杏と博士がリクエストを伝えると、おっけー、任せて、と美雲はそそくさと去っていく。それを見送ってふと窓の外を見れば、真っ暗な空に、片手で数えるほどの星だけが輝いているのが見えた。