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ichib29
2025-02-11 00:01:33
2235文字
Public
《 文章 》
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旧友〈前編〉
堂玄/木士口
中学に上がって少し経った頃、下校時間、校門を出たところで声をかけられた。相変わらず周囲にうまく馴染めていなかったので、声をかけられたことに少し驚いて振り返ると、クラスメイトの男子生徒が立っていた。
「帰るとこ?方向同じみたいだからさ。よく見かけてて」
「
……
」
「俺も帰るところだから、途中まで一緒に、どう?」
返す言葉に困っていると、彼は嫌な顔一つせずにそう言った。「あ
……
うん」と返すと、彼は歩きだした。
たいした会話をするわけでもなく、他愛もないことをぽつりぽつりと話しながら下校する。話すと言っても、会話が下手な自分はほとんど相槌を打つだけだった。自分から見るとクラスの中心に居るような存在の彼が、自分と一緒にいて楽しいのかは疑問だったが、それ以降彼とは時々一緒に下校するようになった。
「堂玄」
二年に上がると、彼とはクラスが別になった。それでも時々下校時間に自分を見かけると、彼は声をかけてくれた。いろいろあって、その声さえ無視してしまおうかとも思ったが、それは彼に対して不誠実だと足を止めた。
「一緒に帰ろう」
一年の時は、クラスに馴染めていないとはいえ穏やかに過ごしていた。元々、クラスメイトと関わりが持てない事自体は、自分にとって苦ではない。むしろ会話に困らないだけ楽なのだ。そんな風に、周囲と適度な距離感を保てていた。
しかし、今のクラスはどうにも居心地が悪い。自分に話しかけて来てくれるのは構わないが、彼らが求める適切な返し、その場のノリというのがわからずに、うまく会話を返すことができないと、嘲笑われているような気がする。それが塵積って、もう誰とも話したくなくなってしまった。
だから、異能力を使った。自分は、顔に道化師のような模様が浮かぶ異能力がある。それを突然発現させて黙り込むと、大抵気味悪がられ、遠巻きにされる。それが自分の、拒絶の意思表示だった。
普段通り他愛もないことを話していた彼は、人通りの少なくなった住宅街でふと立ち止まってこちらを見た。
「堂玄の話聞いたんだけど、異能力?顔の」
彼に対しても、何も話したくないというのが正直なところだった。黙り込んでいると、彼は「俺もあるよ」と柔らかい笑みを浮かべた。
「うちの学校って目立つ異能力あるやつ少ないじゃん?だから異能力持ってるってだけでも面倒だから、わざわざ出してなかったんだけど」
彼は手招きをして、近くにあった小さな公園に入った。滑り台とベンチがあるだけの公園だ。彼は植木の側に落ちていた枝を拾うと、「見てて」と枝に手をかざした。すると、手に持っていたはずの枝が消えてなくなった。驚いて彼の顔を見る。彼がまた手元に手をかざすと、今度は枝が元通り彼の手に握られていた。
「
……
手品、みたい」
「だろ?これ俺の異能力なんだよね。だから堂玄がピエロみたいって言われてるの聞いて、ちょっと親近感っていうか」
彼に対しても警戒していた気持ちは、すっかり消えた。一年の頃から自分に話しかけてくれていた彼は、変わらないみたいだ。
「僕の
……
異能力、顔だけじゃなくて」
異能力を発現させ、顔に道化師のような模様が浮かぶ。指で輪を作り、そこに息を吹き込むと、何もなかったはずのそこに赤い風船が膨らんだ。
「風船作れる」
彼の顔を見ると、彼は少し驚いたような笑顔を浮かべていた。
「手品みたいじゃん」
「
……
うん」
三年にあがっても、彼とはまたクラスが別だった。彼は委員会などで忙しそうにしていて機会は減ったが、それでも時々一緒に下校した。
クラスでは、二年の頃の余韻が残りつつ、しかし穏やかな生徒が多かったのか、周りを極端に拒絶する必要もなく、自分としては平穏に過ごせた。
彼とは、別々の高校に進学することになった。卒業式の日に話すことはなかったが、その少し前に一緒に下校した。あの小さな公園で、少しだけ話した。風船を作って見せてほしいと言われ、作って見せた。彼の手品のような異能力も、また見せてもらった。
彼とはその後、高校二年の時に偶然再会したきりだ。その時、彼は言っていた。
「S都市ってところがあるらしいよ。絆叶知ってる?どこにもないことになってるから、干渉されない。自由なんだってさ」
中学の二年の頃、彼は、窮屈だと言っていた。その時自分は、曖昧にうんと相槌を打った。それは同意の気持ちだったのだが、彼にそれは伝わっていただろうか。“S都市”の話に「へぇ
……
」としか相槌を打てなかった自分に、彼は何を思っただろうか。
その後、彼が姿を消したと聞いた。彼が通っていた塾の講師をしていた男が、自分の親を殺害したと出頭した。同じ頃に姿を消した彼のことを聞かれた講師は、「隠した」「自分が殺した」と話したが、錯乱状態で要領を得なかった。そして、その男も忽然と姿を消した。事件ははっきりとしないまま、彼は行方不明とされた。
壁に覆われた島の、ややまとわりつくような潮風を感じながら、あたりを見渡す。彼が生きていたとして、もし、“S都市”に行ったのだとして、彼の求めた自由はここに、こんなところにあるのだろうか。彼のことを、自分はよく知らない。あの時、彼が何を思って自分にS都市の話をしたのか、見当もつかない。ただ、こんなところにでも、彼がいてくれれば良いのにと思う。
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