まきわ
2025-02-10 21:03:49
4931文字
Public クロリン
 

守る為に

創後あたり、1207年内の話
クロリン前提で、先輩のスナイパーとしてのかっこよさを書きたかっただけなので設定が割と雑
そして専門知識も特にないのでふんわりした目で見てね😉

それはたまたまクロウが仕事の合間にリーヴスに戻った時に起こった。
解体を待っていた、ヨルムンガンド戦役時に製造された列車砲の内一基が運搬中に奪取されてしまったのだ。
正規軍が縮小、再編成されたばかりで連携が取れていなかったというのは言い訳だろう。
奪取に及んだのは貴族を中心とした現体制の反対派グループとのことだった。
奪われた列車砲は不幸中の幸いというべきか、砲口が向けられたのは国内だった。
どうやら雑に帝都方面を撃とうと狙ったらしいのだが、追う方も当然必死だったので着弾想定地点はだいぶ西にずれた。
その着弾想定地点がリーヴスからそれほど離れていないということでトールズ分校では緊急会議が開かれていた。
たまたま来ていたクロウも、リィンと共にそれに参加していた。
列車砲は現在当然のごとく奪還の隊が組まれて絶賛戦闘中だが、同時に発射の準備も着々と進んでいる状態だという。
とにかくミラが欲しいという雑多な低レベル猟兵団を手あたり次第に雇ったらしく、意外と苦戦しているとのことだった。
駆けつける事も提案されたが、既に正規軍が戦闘しているところにトールズの部隊が混ざってもかえって混乱を生みかねない。
今トールズでできることは発射されてしまった場合の対策を講じることであるということになって、こうして集まったのだ。
「方法はあるが、無い」
「どっちだよ!?」
皆が唸って黙り込む中放たれたシュミット博士の一言にクロウが思わずツッコミを入れる。
シュミット博士はちらりと一瞬だけクロウに視線を向けた後、手元の書類ファイルに目を落とした。
「開発中の機甲兵用大型ライフルの亜種だな。導力を極限まで密度と出力を高めて銃弾を放つ。理論上この威力であれば『上手く当てれば』列車砲の砲弾と相殺し合えるだろう」
「上手く当てればってなんだよ」
アッシュの一言に答えたのはティータだった。
「えっとその、いくらこの出力で撃ち出された銃弾でも、完全に列車砲側の砲弾の芯を捉えないとただ弾道を逸らすだけになっちゃうんです。それだと
「着弾地点が変わるだけ、か
呟くように繋げたのはリィンだった。
腕に抱えた資料に目を落としながらトワは眉を下げた。
「着弾想定地点と想定被害範囲の住民の避難は既に開始しています。でも着弾すれば、人以外の物への被害は甚大だと思われます」
そこに住んでいる人々の家、財産、木々や動物達は全て吹き飛ばされる。
わかっていたことだが、全員が改めてその威力に唾を呑んだ。
ただ一人冷静な顔をしたシュミット博士がモノクルの縁を撫でながら続けた。
「よほどの腕のスナイパーでもなければその一点を狙って撃つなどほぼ不可能に近い。道具があっても使う者を選ぶ物でしかない。だからあるが、無いと言ったのだ」
「よほどの
「スナイパー
まったく悪びれる様子のない博士の言葉に全員がほぼ反射的に一つの方向を見た。
視線の先にいたクロウは眉を寄せて自分を指差した。
オレかよ?」
苦笑するクロウにアッシュがにやりと笑ってみせた。
「色々聞いてるぜ?何十アージュも離れた、しかも建物越しから心臓を撃ち抜いたとか、距離のあるところから飛空艇を一撃で落としたとかよ」
「いやあのな、飛空艇は一応一発で落ちるようあらかじめ準備してあったし、てっ……けつは銃の方も特別製だったしだな」
鉄血、と言いかけながらちらりとリィンを気遣うように見たのはやはりその関係性を慮ったのか。
リィンは苦笑しつつ首を傾げた。
まぁ、クロウの腕なら不可能ではないと思う。ただ
「それって当然着弾想定地点から撃つんですよね?」
不安そうな声音でトワが続けると、黙って立っていたオーレリアが小さく息をついた。
「まぁ、そうでなければ正面から芯は捉えられぬだろうな」
「それと当てても出力の分反動も当然だが大きくなる。あばらの一、二本は覚悟しておけ」
淡々とした博士の一言に全員が思わず青くなる。
「それじゃ
今度は一同の不安そうな視線がクロウに向く。
万が一失敗すれば、列車砲の苛烈な砲撃に巻き込まれることになる。
あばらどころではなく、そもそも全身含めて助かることはないだろう。
「迷っている時間はないぞ」
淡々と告げたのは博士だった。
遠くは無いと言っても着弾地点まで準備して移動する時間も必要だ。
今すぐに決断する必要があるだろう。
……クロウ」
揺れる瞳を向けてリィンがクロウの腕に触れた。
その手に宥めるように触れてからクロウは全員を見回した。
「やるぜ」
「クロウくん!」
留める声と、すぐ隣から聞こえた息を呑む音を受け止めてクロウはリィンに向き直って両手でリィンの肩に触れた。
「やらせてくれ。これまでしてきた分の償いの意味でも。命を捨てるつもりは当然ねぇし、失敗もしねぇ」
紅い瞳に真っすぐに見つめられて、リィンはしばらくじっとそれを見つめ返した。
………わかった。その代わり俺もその場にいるからな」
「というか、ティルフィングを運ぶ為にデアフリンガーを使うでしょうし、皆一蓮托生かと」
ミュゼのいつも通り軽やかな声音にその場にいる全員が力強く頷いた。
確かにクロウだけを送り込めばいいという作戦ではない。
「ならばすぐに準備を開始せよ。30分後には出発する」
『イエスマム!』
分校長の号令に応えて即座に全員が動き出した。
リィンもクロウと頷き合うとティルフィングのある格納庫へと走り出した。

正規軍の列車砲奪還部隊と連絡を取り合いつつ、なんとか列車砲発射までに予定地点へ到着、配置が完了した。
ライフルは巨大すぎる為クロウのティルフィングXに持たせた後、膝立ちの体勢で地面に固定することになった。
列車砲は気軽に砲撃方向を変更できる類の兵器ではない。
こちらも大きく移動しなければならなくなることはないだろうとの判断だった。
リィンは自身のティルフィングSに搭乗した上でクロウの真後ろで待機することになった。
特に搭乗していてもできることはないのだが、反動で吹き飛んだら受け止めるくらいはできるだろうと思ったのだ。
『列車砲発射を確認。ランデブー地点到達まで3分程度です』
スタークのいつも通りに見えていつもより硬い緊張した声がコクピットに響く。
大体の方角に銃口は固定してあるので、更に細かい照準設定をティータが端末から調整する。
そして最後がクロウの腕の見せ所だった。
大きく深呼吸をしたところで正面のディスプレイにリィンの顔が映った。
『クロウ』
一度決めたからか、それとも何かあっても一蓮托生と思っているからか、もうリィンの夜空色の瞳は揺れてはいなかった。
ただ真っすぐに信頼を込めた目でクロウを見つめている。
「プロテクターはつけたがどうかねー。ま、ばっちり当ててやるから心配すんな。全員吹っ飛ばすわけにいかねぇしな」
うん。信じてるよ。クロウなら大丈夫だ』
リィンが小さく微笑みを見せた時、急遽取り付けたライフル用のスコープがクロウの顔の前に下がってきた。
『調整完了しました!コントロール渡します!トリガーはクロウさんのタイミングで!』
ティータの声が響いてスコープに銃口の先の青空が映る。
「おう、サンクス」
返してクロウは少し顔を傾けてリィンを見た。
「んじゃ通信切るぜ。集中したいんでな」
ああ。クロウ、信じてる』
自分に言い聞かせるための言葉ではなく、無上の信頼がそこにこもっているのを感じ取ってクロウは頬を緩めた。
頑張れ、という意味なのだろう。
応える為にクロウは再びスコープを覗くと全身の神経を研ぎ澄ませた。
鼓動も呼吸も、指先までの全てを意識の制御下に置く。

『ランデブー地点到達まで残り1分30秒』

トリガーに手を添え、スコープの先に映りこみ始めた砲弾を見据える。
数リジュ単位で照準を調整していく為に目と指先に全ての神経を集中させる。
(焦るな焦るな
自分に言い聞かせながら照準を合わせていく。
傷付けるためではなく、守る為にも同じ事が、いやそれ以上の事ができるのだと証明しなければ。
誰よりも自分自身にそれを証明してみせなければリィンの隣を占領することなど許せるわけがない。
少しずつ砲弾が距離を詰めてくる。
実際はとんでもないスピードなのだろうが、スコープを通してみるとスローモーションのように見える。
呼吸も鼓動も一発を撃つために動いているような緊張の中、照準が完全に真芯を捉えた。
今だ、と意識が思うよりも先にトリガーを引く指が動いた。
その瞬間ごう、という轟音と同時にとんでもない圧力が全身を押し潰してきた。
ずず、とティルフィングX自体が少し後ろに下がったのがわかる。
研ぎ澄ませていた神経が、咄嗟にリィンの乗るティルフィングSが立ち上がったのを感じていた。
そしてそれを感じた直後、クロウの意識は飛んでいた。

「クロウクロウ!!」
なんだかいつか聞いたような泣きそうな声で名前を呼ばれてクロウは億劫そうに目を開いた。
「あー
ずきずきと全身が痛む。
視線を上げると声の通り泣きそうな顔のリィンが覗き込んでいた。
やはりどこかで見た光景だが、今はリィンの顔は悲嘆ではなく安堵で緩んでいた。
「よおうまくいったみてーだな吹っ飛んでねぇとこを見ると
「ああ!綺麗に相殺して空中で爆発した。高度も充分だったから地上への被害はゼロだ。よくやったな」
涙を浮かべながら微笑んで、リィンはそっとクロウの頭を撫でた。
どうやら外から強制的にコクピットを開けて乗り込んできたらしい。
自身の体を検分してみたが、プロテクターのおかげか折れるまでは行っていないようだ。
「あーくそ全身が痛くてだりぃ
「多分全身打撲状態になってるんだ。昇降機を横に据えて下ろすからもう少しだけ我慢してくれ。頑張ったご褒美に、なんでも叶えてやるぞ」
「マジかよ。ったく、簡単になんでもとか言うんじゃねぇっつったろ」
「簡単じゃないし、クロウなら簡単でもいい」
「おいイチャついてんじゃねぇ!とっととそのデケェの下ろすぞ」
昇降機で上がってきたらしいアッシュに怒鳴りつけられてリィンは苦笑しつつクロウの背の下に手を入れた。
全身が痛むのを堪えてリィンに支えられながらなんとかコクピットから這い出す。
ぼろぼろの体で降りてきたクロウに視線を向けてシュミット博士が顎に手を当てた。
ふむ。やはり到底実用段階にはないな」
じーさん、これ見て感想がそれかよ
それとも中の人間がどうなっても撃てればいいという思想でないだけマシなのだろうか、とクロウが考えているとスタークとグスタフが担架を持って走って来た。
「にいちゃこほん、クロウさん、デアフリンガーのベッドを整えたからそこで休んでくれ。ちゃんとした治療はリーヴスに戻ってからで」
こちらもどうやら安心して気が抜けているようで、スタークが珍しく取り乱した様子を見せた。
それに笑いながらリィンの肩を借りて担架に乗せられ、なんとかデアフリンガー内のベッドに落ち着いてようやく人心地がついた。
ベッドの端に腰掛けたリィンが再びクロウの髪をそっと撫でた。
「戦術科みんな驚いてたぞ。イサラ教官も。本当に当て切ったって」
「当てなかったらみんな吹っ飛ぶだろーが。それに軌道は決まってるからどう動くかわかんねぇ人間撃つよりゃ楽だぜ」
不穏なこと言わないでくれ」
ぐに、と頬をつねられてクロウは笑った。
「もう撃たねぇけどな。もう、守る為以外にトリガー引く事はねえよ」
……うん」
リィンは微笑むと正に先ほどトリガーを引いたばかりの手をそっと握った。
「かっこよかったぞ。すごく」
そうか。なあ、少し寝るからよ。しばらくそうしててくれ
「もちろん」
握った手を優しく撫でる感覚に浸っていると、張り詰めていた神経が解れていく気がした。
一つ、また前に進めたような気がしながらクロウはやんわりと眠りに落ちていった。