望月 鏡翠
2025-02-10 09:37:18
931文字
Public 日課
 

#1623 「陸」「王女」「団扇」

#毎日最低800文字のSSを書く/三題噺


 ツアーも終盤に近づいてきました。私はこのエリアでお別れですが、みなさまは引き続き優雅な旅をお楽しみください。
 この後の予定を簡単にお伝えしますね。
 陸生生物のエリアを抜けた後、このバスはショッピングエリアに立ち寄り、そこで二時間ほど休憩をとります。ここにいるみなさまは食事なしのコースを選択していらっしゃいますので、お昼ご飯は各自でご用意ください。
 発着場にドリンクサーバー付きの休憩室がありますし、街に出てカフェで休んでいただいても結構です。
 ショッピングエリアは太古の昔である二十世紀をイメージした建築となっております。お時間があるお客様はぜひ、散策をしてみてください。
 鉄筋コンクリートを主体とした建築や、インフラの未熟さが滲む都市衛生環境、そして電線を張り巡らせた混沌とした街並みを再現した圧巻の景色です。
 臨場感を強めるために、当時のファッションで参加されるお客様もいらっしゃいます。写真撮影やご案内といったお手伝いは必ずこちらの腕章をつけたスタッフにお声掛けください。
 休憩が終わったら乗り物を変えて、水生生物のエリアに突入します・
 他にもたくさんのツアー団体がいるので、集合場所と集合時間をお間違えないようにお願い致しますね。
 ……ああ、みなさまは幸運ですね。
 ご覧ください。
 陸生生物エリアの最後に、地上の宝石と謳われた当施設きってのアイドルバードが顔を見せてくれました。鳥界の王女とも渾名された理由は、あの美しい尾羽にあります。
 封建主義や身分制度が存在していた時代、身分の高い女性は手に鳥の羽を染めて作った団扇を身につけることがありました。顔や口元を隠すことが、文化的に尊ばれたという少し不思議な時代です。
 かの鳥の尾羽がそのときに手にしている団扇に似ているというのですね。どうでしょうか、同じに見えますか? 鳥の羽を使っているのだから、団扇の形が鳥の形に似ているだけでしょうに、昔の人は面白いことを考えますよね。
 そして、賢い皆さまならもうお気づきですね。
 鳥で美しい尾羽を持つのは、雄です。あれが王女であるわけがないのです。旧世代の人類の愚かしさに思いを馳せながら、陸生エリアの見学を終えましょう。