ミノル
2025-02-10 02:54:54
2185文字
Public しんらぶ/二次創作
 

ハッピーバレンタインな話

しんらぶ/山姥切長義×八文字長義(付き合ってる)/バレンタインに物理的にすれ違う話
◆別ゲームのキャラ同士によるクロスオーバー作品です。都合のいい捏造いっぱいです。苦手じゃない方だけご覧ください。

去年のバレンタインに考え出した話です。pixivシリーズと同時空の話になります。
行方不明少女サイドの話(火車ひろ)→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=22722049


余談なんですけど、少女の声優さんが去年バレンタインに近況ボイスを出してくださってるんですが、ラスト10秒位にちょうぎちゃんっぽくバレンタインメッセージ言って下さってるのでよければ聞いてください。可愛い。→https://x.com/tbtmnm0506/status/1757737954729181421

―――今日は厄日だ。

山姥切長義は八文字ちょうぎを探し、かれこれ4時間程度は本丸と屋敷を往復していた。


2月14日、バレンタインデー。

今日は大切な人にチョコレートを送る日だと、彼に教えてくれたのは八文字だった。
調べてみると諸説あるようだが、屋敷ではその認識で通っているらしい。
だから今日は、感謝だったり親愛だったり恋情だったりが込められたチョコレートが行き交っている。屋敷と懇意であるこの本丸も、盛大に巻き込んで。

去年渡されたチョコレートは屋敷町で人気の品で、『いつもお世話になってるから』と彼女がくれたものだった。

……別に約束していた訳ではないが、今年も来ると思っていた。

今日、八文字は非番だと言っていたし、長義も偶然、本当にたまたま今日は非番の日なのだ。
普段から予定がなくとも訪ねてくる彼女だ。彼も非番で予定がないと知っていれば確実に遊びに来る。
――希望的観測じゃない、今までの経験故の予測だ、と長義は脳内で念を押す。

それに長義は彼女の恋刀であり、今日はそういった関係になってから初めてのバレンタインだった。
出陣や任務があるなら仕方ないが、お互い非番であるのならば、今日会わないでいつ恋刀に会うというのだ。

だからという事ではないが、今年は長義もチョコレートを用意した。
屋敷では女性から送る事がメジャーなようだが、本丸でもイベント事や菓子作りが好きな刀は渡す側で参加しているし、男性から送る国もあるらしい。

――こっちだって、君にはいつも感謝している。なんて、口で伝えられればいいが、改めて言葉にするのは気恥ずかしい。
でも今日ならば、想いを菓子に込められる。
今日ならば、と。


それなのに、何故だか今日に限って彼女に会えなかった。
来ないのならこちらから、と屋敷を訪ねれば本丸に行ったというし、本丸で探せばあっちに行ったそっちに向かった、挙げ句に屋敷へ戻ったと言われる始末。こういう時、連絡手段を含めた屋敷の技術発展具合が悔やまれる。

八つ時を過ぎた辺りで部屋に戻った情報を得て訪ねてみると、彼女と同室の同田貫まさから「緊急事態で駆り出された」と言われた。
緊急事態というのも、屋敷の真剣少女がひとり行方不明になり、まさも捜索に向かう準備をしていたとの事だ。そんな話は屋敷と懇意にしている本丸が無視できる訳もなく、審神者からも手の空いている刀は少女の捜索をするよう緊急指令が入った。

最終的に少女は無事見つかり事なきを得た。異去への門にいたと伝え聞くが、そんな事ありえるのだろうか。本当なら大問題であるが、その辺りは審神者たる主の方で対策なり何なりが立てられるだろう。あの人は決して無能ではない。


そんな事もあり、屋敷の少女を訪ねるにはすっかり遅い時間になってしまった。

用意した菓子はすぐ痛むものでもない。
部屋に行くにも、男一振りで女性の部屋を訪ねるには外聞が悪い時間だ。
彼女と同室の少女だって、こんな時間に他所の男士が来たら迷惑だろう。

今日だから意味を持つとはいえ、想定外のアクシデントだってあった。
1日ずれ込んだところで誰に責められよう。
明日にまた改めて会いに行けばいい。


だが、と可能性が頭をかすめる。

もし行方不明になったのが、彼女だったら?

今回は少女自らの意思で忍び込んだというが、これが他者による犯行だったら?
悪意がなくとも、何かの事故に合っていたら?
あの屋敷には年中どこかに迷い込んでは帰ってくる少女もいる。
それに巻き込まれ、帰って来れなかったら?

そんな事は滅多にない、と頭では考えるも、居ても立っても居られず、自然と屋敷方面へ足が動いた。


角をふたつかみっつ曲がったところで、見慣れた桃髪が目に入る。

「あっ!ちょーぎくんいたぁ!!!!」
「声がでかい!」

時間が時間なのだ。あまり騒いでこんな時間に会っているのが知られると、お互いよろしくない。
窘められた少女が、おっと、と両手で口を覆う。

あんなに探したのが嘘のようにあっさり会えた八文字ちょうぎは、いつもと変わらない様子で長義の目の前にいた。
会えなかった時間はたいした長さではなかったはずなのに、安堵と愛しさと嬉しさとで胸がないまぜになる。
同時に、危なかった、と長義は秘かに息を吐いた。彼女が出会いがしらに声を上げなければ衝動的に抱きしめていただろう。それは些か紳士的ではない。

「あーとね、こんな時間にゴメンなんだけど、ちょうぎちゃんどうしても今日渡したいものがあって」
手提げから取り出したものは、薄い灰色の包みが青いリボンで飾られていた。少しだけ歪つなそれは、店ではなく彼女自身がラッピングしたように見える。

……俺も」

長義も、桃色と翠色のリボンで装飾された箱を掲げる。
中身は燭台切光忠から手ほどきを受け、何度も練習を重ねたレモンピール入りホワイトガトーショコラだ。

想定してなかったのか、少女が目を丸くし、あんぐりと口を開ける。
それから、弾むような笑顔と声で包みを差し出しながら言った。

「長義くん、ハッピーバレンタイン!」
……ハッピーバレンタイン」

その笑顔だけで、今日の苦労も全て報われる。
そんな風に思いながら、長義も笑顔で同じ言葉を返した。