ミイ
2025-02-09 15:48:25
1646文字
Public 静なつ
 

雪の日

・静なつです。
・同棲している2人のお話。
・雪の日のなつきさんの反応投票で1位だったものを書いてみました。
・もしかしたら続くかも。

 意識が浮上する。

 夢の中で、誰かと話していた気がするけれどそれは掴めず、淡く消えていった。きっとこのあと思い出そうとしても思い出せないだろう。

 ぼんやりとしたまま、自分の呼吸と、そして傍にあるもう一つのぬくもりを感じる。さらり、と滑らかなそれが揺れて、指の中を滑っていった。

 今日は瞼の上がやけに明るい。

 寝過ごしてしまったのだろうか。目覚ましなんてかけなくても、毎日決まった時間に目が覚めてしまうのだけれど。

 少しだけ伸びをして、枕元においたはずの端末を探す。まだ寝ているだろう恋人を起こさぬよう、そっと伸ばした左手は、突然ぬくもりに包まれた。

……なつき?」

 いつもよりも白く、明るい世界。くっついたままだった瞼を、押し上げるようにして開いたそこに。

「おはよう、静留」

 まるでわくわくを隠しきれない子どものように、歯を見せて笑う恋人の顔があった。

 しかも、今にも額がぶつかりそうな距離に。

 心臓が頭で鳴っているくらいにうるさい。いつまで経っても慣れることはないのだろう。この、幸せには。

……おはようさん、なつき。堪忍。すぐ朝ごはん……ってまだ六時前やないの」

 壁掛けの時計に視線をやれば、短針はまだ、六にも触れていない。そんな時間になつきが目覚めていたことなど、今まであっただろうか。

「なんや今日寒いし、もう少しお布団で」
「やだ」
「やだ、てそない子どもみたいなこと」
「だって、早く行かないと」
「どこに?」
「外」
「外?」

 ツーリングは好きなくせに、ゲームをし始めたら休日は一歩も家から出ない。買い物に行こうと誘ってみても生返事が返ってくることが多い。そんな彼女がなぜ今日、こんなに外に出たがるのか。

「静留、落ち着いて聞けよ? あのな」

 なつきは静留の耳に口を寄せる。

 落ち着くんはあんたの方や。なんて野暮な言葉は飲み込んで、静留はなつきの次の言葉を待った。

「今日、雪が降ってるんだ!」
 
 ◇◇◇
 
「静留! 早く早く」
「そない急かさんと。雪は逃げませんえ」
「いや、早く行かないとダメなんだ!」

 自分の恋人はそれほど時間に厳しい人ではないのだけれど今日ばかりは譲れないようで。

 簡単に用意した朝食を食べて、着替えてしまったと思ったらクローゼットの中から手袋やマフラー、コートを静留の分まで出してくる。

「外は寒いからな、あったかくしていこう。私は長靴があるが、静留はブーツとかあるか?」
「レインブーツみたいなんでええの?」
「うん。大丈夫だと思う。……よし。ほら、マフラー巻いて」

 少しの時間も惜しいのか、珍しく静留の世話まで焼いてくれる。たまにはこういうのも乙なものだと思いながら、静留は頬を緩めた。

……ちょっと待ってて」

 少し眉間に皺を寄せた恋人は、ようやく玄関に辿り着いたというのにまた部屋の中に引き返していく。大人しく待っていれば、すぐになつきは戻ってきた。

……うん。かわいい」
…………っ」

 かぽ、とはめられた耳当て。触れれば、ふわふわとした毛並みが心地よかった。冷え性の自分を気遣ってくれたのだろう。手袋も、なつきがバイクに乗る時に使っているものだ。自分は手袋なんてしていないのに。

 朝起きたばかりでまだ寝ぼけているのか、それとも雪でテンションが上がっているのか。無邪気に笑う恋人に「かわいい」と言われて平然とした顔を維持できるはずもなく。

「静留、顔真っ赤だぞ? 大丈夫か?」
……なつきのせいやし」
「え?」

 きょとん、としている顔を見ていれば、自分だけ照れているのが恥ずかしくなってしまって。

…………早よ行かなあかんのやろ。行きましょ、なつき」
……っ、あ、ああ」

 真っ白な頬にキスを落として、玄関の鍵を開ける。ようやくいつもの調子に戻ってくれたらしい恋人は、静留の隣に並んで、気恥ずかしそうに微笑んだ。