2025-02-09 15:11:16
2514文字
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王妃様のお成り

シュの女装ネタ。文章としては完結してないのでそっと供養。ライシュロ。

 これは私の遠縁の娘で、今夜は連れてくるつもりは無かったのですが、どうしても陛下にお目通りをと強請られまして――
 そらきた、と、ほんの半歩近くにいた宰相補佐官はしれっと視線を逸らす。今夜は所謂堅苦しい席ではなく、社交の為の小さな夜会である。いちいち申し入れなくとも王と直接話が出来るが、ビジネスの話は暗黙の了解として許可されていない。とあらば独り身の若き王に、こういう話が出るのは当然といえば当然である。
 中には本当にあわよくば血縁の娘を嫁がせて外戚の地位を得よう、というのもいたが、それならばまだ素直で可愛いものだ。
 厄介なのは何処の馬の骨やらというのを見繕ってきて、妻の座までは手に入れられなくとも側近くに侍らせ、宮廷に出入りするスパイに仕立てあげようというのが出る事だ。残念ながら調べはついている。
 別にそれを企む所までは、罪でも何でもない。よくある手口だ。しかし、問題は追い払う為の口実がない、という所である。
 我らが王は妃を娶る気は今のところ無いらしい。否、実を言うと政略結婚に抵抗はそこまで無かったものの、一度そういう話が持ち上がったとき相手に泣いて嫌がられたという話がある。王はそれをひどく重く受け止めた。うら若き乙女のこと、そこまで嫌悪を催す相手に自分の意思を無視して嫁がされかけ、内心それはそれはショックを受けたに違いないと。
「やっぱり結婚は、本人同士の合意の元でするべきだと思うんだよ」
 他ならぬ妹が彼女の意思をもって、求婚を断った所を目の当たりにした影響もあるのだろう。以前ならともかく、今は立場ある身だ。なんとなくしてもいいか、で相手の人生を左右するのは、あまりよろしくない事だと王は気付いたらしい。
――と、ここまでは、真実なれども表向きの建前。
 本当に実のところは、女性を寄せ付けたがらない理由は、単に本命がいるからだ。勿論それが誰であるかは、宮廷のなかでもごく少数の忠臣しか知らぬ事だが、明白ではある。

「という訳で、ひとつご協力をお願いしたく」
「何が『という訳』なのか全然わからん」
 宰相補佐官は大きな目をぱちくりさせて相手を見た。こんなに懇切丁寧に説明したのに何がいけない、とでも言いたげな顔である。
「ですから本命のあなたが責任を持って、面倒臭いのを追い払って下さい」
……つまり、妙なのにまとわりつかれないように護衛をしろと? ……別にそのくらいならしてもいいが」
 狙ったように仕事で滞在中であるそのひとは、そんな事なら改まってお願いせずとも、と首を傾げる。
「それもそうではあるんですけど、もうひとつ任務があります。これは重大な秘密なので、ちょっと耳を」
 こそこそ、と話を告げられた途端、彼は瞠目して宰相補佐官を見つめた。
 そして露骨に眉根を寄せる。
……嫌だが……
「ほら~!絶対そう言うと思った!」
「判りきってる事を訊くな」
「いえ、だから反論も用意してるって意味です。何が不満ですか」
 何がときたか。彼はしかしそこで怯んだりはせず、しっかりと抗議した。
「何もかもおかしいだろうが!」
「まず何処から」
 続きをどうぞ、と冷静に促すのが憎たらしい。彼とてこの青年に口で勝てるとはまさか夢にも思っていないが、それでもはいそうですかと通す訳にはいかない話である。
「そもそも俺が女に見えるか!?」
「今は見えませんよ勿論。それは責任持ってちゃんと作りますんで」
「作っ……それなら他に適任がいくらでも」
「はぁ。例えば誰です」
……
 じっと相手を見つめると、青年は肩を竦めてみせた。
「俺ですか?だめですね、正直めちゃくちゃ面白そうなのでやりたいくらいなんですけど、なんせ面が割れてる」
「なら」
「本物の女性だと身近なところは顧問魔術師殿ですが、彼女も客前に出るんで当然顔が知られてます。あとそもそも『実在する女性』は良くないんですってば。後々恨まれでもしたら危ないでしょう」
「うっ……
 確かにそれはそうだ。目の前で青年がにっこりと微笑んだ。
「他にご質問は?」
……
 彼は暫く黙っていたが、やがて長い溜め息を吐く。
……どう上手く化けろと」
「そこはまぁ、我が黄金郷が誇る宮廷服飾部門にお任せあれ」

「それはどうも。こちらも実は紹介したい人がいて」
 王は柔和な笑顔を見せ、そして背後に目をやった。少し離れた場所から、壁際の椅子に腰掛けていたらしい人物が視線に導かれるように歩いてくる。
 濃い藍色のヴェールで目元を隠しているものの、長い艶のある黒髪が肩から流れてさらさらと揺れている。宵闇色のドレスが首元からくるぶしまで覆っているが、身体にぴたりと張り付くようなそれがむしろ扇情的とも言える。
 胸元の大きな宝石が白銀色に輝き、広げた扇からちらりと紅い唇がひらめいた。背が高いが、彼ら種族としては珍しいという程ではない。その立ち姿は、不思議な威厳と魅惑的な色香を放ってそこにあった。
「婚約者をお披露目しようかと」
 王がその手を恭しく取ると、周囲がざわめいた。

「実に麗しい。全く貴女がかの御方のものでなければと思いますよ」
……
「今からでも他に乗り換えては?」
……どういう意味です? 私に不貞をはたらけと?」
 胸元の魔石のお陰で声はまだ女性のままだ。
「いえ、惜しいという意味ですよ。もしあの方がお相手でなくば、ここで無惨にも美しい花を散らす事は無かったのに」
 首筋に刃物が触れそうになって、彼は身を翻した。
 ドレスのお陰で多少動きづらいが、そのくらいは造作もない。人けのない外であるのがまた幸いだった。暗がりに身を隠すと、相手の背後から近付き腕を捻りあげる。
……っ!」
「素人と侮られたくらいだからまぁ、大成功ではあるか……
「貴様……!」
「花でなくてお生憎様だったな」
 手っ取り早く邪魔者を排除しようとは、短絡的にも程がある。尤もこれは囮の可能性が無きにしも非ずだが。
……
 彼は賊を縛り上げつつ、少し考えた。この男にはもう少し使い道があるかもしれない、と。