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つぶ
2025-02-09 00:02:11
3014文字
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君の心臓は2ミリメートル
王獄 / ハピ軸
ご都合不具合で転送した際小さくなってしまったゴン太と王馬の走り書き
こういう本を、作りたい…
いくら縮んでしまったと言っても、手のうえに乗ればずっしりとした重みを感じる。人形のそれとはまるで違う重量感は、かえって王馬にこれが揺るぎのない現実なんだと突き付けてくる。
この、自身の右の手のひらに乗れる程のサイズに縮んでしまった獄原ゴン太が、正真正銘彼であるのだという、現実。
「まあここは現実世界じゃないけど。そもそも、ここに居る全員が全員、精巧に再現された人形みたいなもんなんだし」
別にこのままでも支障はないんじゃない? と、小さなゴン太に語りかけてみる。きっちりと、にやけた表情も忘れずに。
「ええっ! そんな
……
」
「そういうわけにはいかないよぉ」
小さなゴン太が言い終わる前に隣から制止が入る。視線をやれば、瞳いっぱいに涙を溜めている不二咲千尋が、ゴン太くんごめんねぇ、とぐすぐす続けるところだった。
「すぐに、とは、いかないけれど
……
ちゃんと元の大きさに戻れるよう、プログラムし直すからね」
「ふ、不二咲さん、泣かないで。ゴン太、とっても元気だから、大丈夫だよ!」
不安定な手のひらの上で立ち、必死にその太い
……
今は細くも見える
……
両腕を伸ばして不二咲を慰めるゴン太を、王馬はじっくりと観察する。
裸足で王馬の手を踏みしめているゴン太の両足からはしっかりと熱が伝わってくる。高めの体温は小動物のそれで、まあ普段から平熱は高いのだけれど、今はその事実が妙に胸に残る。
小さな身体。小さな頭部。
今、唐突に握り締めたらどうなるのか。
うなじのあたりが、じりじりとしている。
昂っている。王馬の中の好奇心が、うずうずと、待ちきれない様子で顔を覗かせている。
そんな思惑をおくびにも出さずに、王馬は淡々と言葉を放つ。
「
……
たしかに、ゴン太自身はゴン太のままだね。本当に、身体だけが小さくなったわけだ」
何がどうしてこうなったのか。王馬は不二咲から詳しいことを聞いたわけでは無かったけれど、なんとなく察することは出来た。
「なんとか、一週間
……
いや、五日以内には、戻せるように頑張るよ」
恐らく転送時に不備があったのだろう。システム障害か、装置の不具合か、ゴン太の装着の仕方が間違っていたのか
……
なんにせよ、不二咲が直すと言うのなら、この不備はほどなくして直るのだろう。王馬にとってはそのほうがより重要な問題であった。
「じゃあ、この人形サイズになっても重たいゴン太は、五日もすれば元通りになっちゃうってこと?」
「え、あ、うん
……
もちろん、ゴン太くんがちゃんと合宿を送れるように、
……
」
「そしたら今の内にやっておかないとダメじゃんか! な、ゴン太!」
「え、えっ? な、なにを?」
それまで不二咲を心配そうに見上げていたゴン太が、王馬に話を振られてびくりと肩を強張らせる。視線が合うと、途端に不安げな表情になるのだから面白い。こいつが何か嫌な予感を感じるくらい、オレの顔が露骨に歪んでるってことだ。意図はちゃんと伝わっているようで良かった。愉快な気分で王馬は口角を更に吊り上げた。
「もちろん、この投てきサイズなゴン太を全力で投げたらどれだけ飛ぶかの検証に決まってるだろ!」
「ええっ!? 待って、そんなことしたらゴン太、ここまで帰ってこれなくなっちゃうよ!」
「機械に強いやつに頼んでGPSでも付けてもらえばいーじゃん! こういう時は左右田ちゃんに頼むのが良いかな、よし早速いこっか!」
「わわ
……
っ! き、急に動くと、ゴン太、王馬君の手から落っこちちゃう
……
!」
「あっ
……
ふ、二人とも、待って、」
不二咲が呼び止めるよりも早く足を踏み出した王馬は、あっという間に砂浜を端から端まで駆け抜けた。まだ事情の知らない者たちの間をすり抜けると、中にはゴン太に目を留める者もいたが、声を掛けられる隙を与えず突き進んでいく。
円になり会話している日向と田中、左右田のところへ
……
駆けていき、すぐに通り過ぎる。
「お、おうまくん
……
!」
「ねえゴン太。今のゴン太ならさぁ」
言いながら視線を落とせば、必死に中指に捕まっているゴン太が見えたので一度言葉を区切る。走る速度も落とすと、王馬は両手でゴン太をふわりと包み込んだ。頭と両足がはみ出していて、小さくなってもデカいのかよ、と思わず吹き出す。
指の隙間から見える表情が情けなく歪んでいたが、気に留めず重ねた両手を左肩へと移動させる。
「ほら。髪の毛でも掴んでたら?」
「うわっ!
……
あ、ありがとう」
手のひらから、肩の上へ。その小さく無骨な手が髪を引くのを感じてから、王馬は緩めていた速度を再び上げる。いよいよ砂浜を抜けるところで、視線だけで軽く左右を確認する。ゆく道の先を見る限り、あの草深い場所まであと数分というところだろう。
「な、なんか、ふしぎな、気分だよ」
「不思議って?」
王馬の走る速度に合わせて揺れているゴン太が呟く。もちろん王馬にはその感慨の全てが理解出来ていたので、言葉を取るように続けた。
「今のゴン太の視線が、虫さんのそれと同じだから?」
「
……
あ、うん! そう、そうなんだ!」
ちょうちょさんも、セミさんも、他の皆も
……
こんな風に、世界が見えているのかな、って。
「そう思うと、ゴン太、なんだか」
「今のゴン太ならさ。
……
その虫さんと対面したら、どうなるのか、気にならない?」
「
……
えっ
……
!?」
軽い坂を登り、コンクリートの道に一度出る。もしかしたらさっきまで居た砂浜とちょうど反対側になるのかも知れない。好都合だ、探しに来たとしてもそれなりに時間はかかるだろう。
王馬は視線だけを肩にやる。小さいゴン太は座りながらも、身を乗り出してこちらの表情を窺おうとしていた。それに含み笑いだけで応えて、前へと向き直る。
「ねえ、ねえ。王馬君!」
くい、と髪の毛が引かれて、首が少し左へ傾く。どうやら髪をかき分け、耳元で話そうとしているようだ。王馬は咄嗟に右手の甲で口元を抑える。胸の内側をくすぐられたような甘い感覚があって、それが表に出てこないよう気を引き締め直さなければならなかった。
「ねえ、王馬君」
「なんだよ。聞こえてるって」
「もしかして、ゴン太を
……
虫さんのいるところに、連れて行ってくれるの?」
期待する声が王馬に囁きかける。厳密には不正解だ。それは手段であって、目的ではない。
「
……
あの先にさ」
王馬は下り坂の手前で足を止めた。果てに見える茂みは更に森林へと続いていて、獣道へと続く暗がりが、ぽっかりと口を開けている。
「いそうじゃない? まだ挨拶できていない虫さんが、さ」
「
……
!」
ゴン太がぱっと表情を明るくしたことは、見なくても分かる。再び足を踏み出す王馬の髪の毛をゆるく引いて、うん、うん、と嬉しそうに頷く声が、いうなれば全ての正解だった。
虫さんとどうこうなんてまるで興味が無い。本当は、いつ直るのかさえも気にしていない。
この、小さくて、重くて、思い立てば一瞬で隠してしまえる大きさのゴン太を。
誰かに何かされる前に。誰かに連れ出される前に。
誰かに見られてしまう前に。誰かに暴かれてしまう前に。
連れ出して、王馬だけが調べて暴いて、見て、さわって、遊び尽くしたかった。
誰かが知ってしまう前に、その全てを、独占しておきたかったのだ。
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