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ゆうな
2025-02-08 23:33:55
3207文字
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【耳あて】【不意打ち】
車と餃子と爆轟と。
#爆轟版深夜の真剣60分一本勝負
◆Pixiv:ログ2に格納済み
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24418260
「お疲れ。迎えありがとな」
「おー
……
って、ンだそれ」
助手席のドアが開いて車内に冷たい風が吹き込んでくる。早かったな、とスマホから顔を上げると同時に目の前に飛び込んできた光景に、爆豪は頬が緩みそうになるのをぐっと堪えた。仕事終わりの恋人が十年以上の付き合いの中で一度も見せた事のない姿で目の前に現れたのだ。
「あぁ、助けた女性がファンだって言ってくれて、貰ったんだ」
ふぅ、とシートに沈む轟の丸い頭には、もこもことした耳あてがまるで生まれた時から生えてましたとでも言うように堂々と装着されていた。片耳ずつ猫の顔のフォルムになっているようで、両耳合わせて猫耳が四つも飛び出している。ご丁寧に左耳が赤、右耳が白色で、ショートモデルと言われてもきっと誰も否定できないデザインであった。大きな図体に添えられたキュートなアクセサリー。そのインパクトの強さに爆豪はついにグププと笑い出す。
「随分と可愛らしいモン貢がれてんなァ?」
「貢がれ
……
こういうの断ってるんだけど、貰ってくれないのかって泣かれちまって」
「色男のショートクンも女の涙には弱いんか。とんだ弱点見つけちまったな」
「爆豪の涙にも弱ェからそうなのかもしれねぇ」
深い溜息を吐く轟を横目にアクセルを踏み込み夜の街をゆっくりと泳ぐ。規則的に並んだ街灯が一瞬窓の形に切り取られてはすぐに後ろに流れていくのを轟はぼうっと見つめていた。車内に薄く流れる洋楽のリズムに乗るように指先を僅かに踊らせる爆豪はなんだかいつもより機嫌が良さそうだ。しばらくして曲が切り替わる無音の時間に、そういや、と片手でハンドルを握る男が口を開いた。
「明後日休みだよな?」
「うん、明日早番だから夕方には終わってそのまま休み入るかな。爆豪は明日出張だろ?」
「いやヘルプで入るかもって話が無しになった。普通にこっちで朝から。んで明後日は遅番」
「じゃあ明日の夜家行っていいか? 夕飯作っとく。何が食いたい?」
「あー、餃子とか食いてェかも。多分冷凍無いから買って来といて」
「餃子なら作るぞ! 時間もあるからな、前に教えてもらったレシピで作らせてくれ。ニンニクたっぷりのやつ」
「ほぉ? お手並み拝見だな。今回は餡が飛び出してねえことを願っとくわ」
「任せろ」
赤信号で一時停止し、爆豪が冷めたコーヒーを空にする。そして横に座る恋人をじっと見つめてからフン、と鼻を鳴らした。
「それいつまで着けてんの」
「
……
あ、外すの忘れてた」
喋ってたらつい、と轟が手触りの良い耳あてに手を掛ける。しかしそれを阻止するように軽く右手を掴んだ爆豪がそのまま腕を下ろしていく。目を丸くする男の代わりに外してやり、ほら、と耳あてを手渡すと轟は視線を落として紅白の猫と見つめ合った。
「なんだ、ありがと、」
な。と続ける前にふにっと柔らかいものが耳に触れて、轟の心臓が跳ねる。「は」上擦った声を上げると触れたところからピリッと軽い痛みが走り、そこでようやく爆豪の唇が、歯が、耳に触れていることを認識した。晒した耳にキスされて、甘く齧られていたのだ。突然どうした、と顔を上げる前に水音が耳の中から脳内にまでちゅぱ、と響けば背中にゾクゾクと電流が走って思わず肩が跳ねる。さらに暖かい手で首を掴まれて耳の縁に歯を立てられると「ぅあぁ」と変な声が出てしまって、慌てて口を覆った。
「な、にすんだ!」
「なんかムラついた」
「お前のスイッチ全然わかんねえよ。急にやめろって」
「ア? 涙でも流せば絆されたか?」
「揶揄うな」
はは、と笑う爆豪がするりと頸をひと撫でして離れていく。轟だってついさっきまでは見ていたのに、色の変わった信号機に爆豪だけがきちんと反応していてその余裕っぷりに口を尖らせる。
そんなことをしている間にも爆豪はカーオーディオから流れる音楽に珍しく鼻歌まで添え始めていた。どうせ轟の反応が気に入ったのだろう。濡れた耳を手で拭いながら窓の外に目をやるも、もう意識は隣の男に完全に持っていかれてしまっていた。
「
……
なァ、さっき作るって言ったけど、夕飯、良いのか? 餃子で」
「なんで?」
数十分後、轟の住むマンションに到着するとその前に車を滑り込ませ停車する。エンジン音と微かな英語の歌詞が車内で跳ねる中、爆豪が問いを返しながらダッシュボードに手を伸ばした。
「
……
だってスるだろ、食べた後。すげーニンニクの臭いしそうで、ムードとかあったもんじゃねえなって思って」
伸ばした手が一瞬止まって、それからすぐにハザードランプのボタンを押し込む。カッチ。カッチ。点灯音だけが不思議と大きく車内に響いた。無言の空間に助手席でぎこちなく唇を噛む。抱えるようにハンドルに寄り掛かった爆豪がジャケットに口元を埋めながらその様子を観察していた。痛いくらいに刺さる視線に耐えきれず、轟が口を開く。
「なんだ」
「いや? おまえの口からムードとかいう単語が出てくるとはな。今まで気にしたことあったかよ」
「俺はねェけどお前が気に
……
ん、や、綺麗でもねぇ耳を急に舐めてきて興奮してるような奴だもんな、ねェか」
「言い方は腹立つがその通りだわ。俺も気になんねえよ。あれだったらニンニクとかニラとか抜いてもいいけど」
「いや、教わったレシピ通りに作りてえから大丈夫だ。まぁでもお前がいいなら別にいいんだ、もう行くな。送ってくれてありがとう」
礼を述べながらシートベルトを外す轟の手に爆豪が手のひらを重ねた。視線が絡む。
「二人とも臭ェなら別にいんじゃね?」
「
……
それは、そう、かも
……
?」
重なった指先をするりと絡めれば先ほどの余韻のせいか轟が頬を染める。口臭の話の最中にそんな反応を示せる男だ、やっぱりムードもクソもねえ。「じゃあ、明日はやっぱ、餃子作る」「そのあとセックスな」言葉尻に被せればついに耳まで赤く染めた轟が、そういうことだからまた明日な! と指を解いて勢いよく車を降りていく。恋人の可愛らしい反応にくつくつと喉を鳴らす爆豪がマンションに帰っていく背中を愛おしげに見つめていると、ふとその後ろ姿が止まってパタパタとポケットやリュックを漁り出す。切りたての紅白頭がくるりと振り向いてそのままこちらに小走りで戻ってくるから、なんだどうしたと窓を開けてやった。眉を下げた轟が車内を見渡す。
「爆豪、さっきの耳あて落ちてねえか? 忘れちまった」
あぁあの猫のやつ。車内で戯れている時にでも落としたのだろう。爆豪がシートベルトを外し上半身だけで助手席の周りを探る。身を屈めて足元に手を伸ばせばすぐにふわりと目的のものが触れて、指先でそれを引き寄せた。
「早速忘れてンじゃねー、よ、」
持ち主へ返そうと顔を上げた瞬間。窓枠から顔を覗かせた轟がちゅうっと唇に吸い付いてきて、その一瞬の出来事に爆豪の体が硬直する。仕事上がりのくせに甘い匂いを纏う轟に、コイツなら餃子を食べたとて良い匂いをさせていそうだ、なんてさっきまでの話を思い出したりしていた。
離れていった薄い唇がニンマリと弧を描く。
「忘れモン、こっちだった」
じゃあな、と大きな傷痕の残る白い頬を指先でするりと混ぜられる。耳あてを指に引っ掛けてマンションへと駆けていく後ろ姿が小さくなった頃、ようやく爆豪の時間が動き出した。体をシートに戻し、シートベルトを締める。コンビニのコーヒーを口に含もうとするも既に空であったことをカップを傾けてから思い出し、車を出そうとアクセルを踏んではブォンと回転数だけが空回りしてその音に肩を揺らした。
「クソがよォ
……
」
クラッチを踏み込みギアを一速に入れる。ようやく発進した車内で爆豪はバックミラーに映るマンションの明かりを見つめながらBGMを爆音のロックミュージックに切り替えるのだった。
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