かいえ
2025-02-08 22:26:01
4577文字
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【蘭武】口が裂けても絶対言うなよ

2024/11/3 花垣武道受けオンリーwebイベント(ピクスク)「花金青のほうき星 To my dearest ぷち」展示作品に、1,000文字加筆し誤字脱字を修正したもの
蘭武に巻き込まれる竜胆の話
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「蘭君って、インポなんですか?」
 武道は蘭と会う為に灰谷家を訪れていたのだが、蘭が予定より遅れて帰宅することになり、それまで暇だからという理由で竜胆とゲームをしていたところだった。
「ハァ? 今なんつった?」
 竜胆はぎょっとして隣に座っていた武道を見た。信じられない単語を耳にして驚きの余り、操作していたアバターが盛大に討ち死にした。蘭には似つかわしくない単語であり、童顔で中学生にしか見えない武道が発言したアンバランスさに動揺したのだ。しかも、素朴な質問風なのだ。冗談でも悪ふざけでもなく、純粋な質問であり、返答がいる類だ。蘭からの暴力から一早く逃げる為に、鍛え上げられた頭の回転の速さを持つ竜胆だとしても、どう返答するべきなのか咄嗟に思いつかなかった。
「だから、蘭君って、インポなんですかね? あ、竜胆君死んでるじゃないですか! 竜胆君がいないとクリアできないやつなのに!」
 武道が変なことを聞いてきたから、びっくりして操作ミスをしたのに、全部自分のせいにされて竜胆はムッとしつつも「兄貴が? なんでインポ?」と、その理由を聞きたくなってストレートに聞いてしまった。怖さより好奇心が勝った悪い例だ。
「なんでって、蘭君が全然オレに手を出してくれないんですよね……
「どういうこと?」
「普通、半年も付き合ったらセックスしますよね?」
「ああ……? それで?」
 半年も付き合わなくてもセックスするし、何なら付き合ったその日のうちに、フツーに手を出しますけど? と、竜胆は思ったが、それよりも蘭がインポかもしれないという理由が知りたくてスルーした。
「本当に全然手を出してこないんですよ。キスしかしないんです。それって、変ですよね? 蘭君なのに」
 確かに手の早い蘭にしては変だと思う。今まで数々の浮名を流してきている男なのだ。それが、武道と付き合うようになってから、パタリと女遊びを止めていたのだ。だから、竜胆は蘭が本気の恋をしたのだと、驚いたものだった。
 そして、蘭と竜胆は性欲が強い方だ。最初こそ、灰谷兄弟と関係を持てると喜ぶ女たちも、セックスの途中でギブアップするくらいには旺盛なのだ。その蘭が、他で性欲を発散させている節は無いのだから、武道に手を出していないと聞いて、確かにありえないことだった。「それは、変だな」と、素直に呟くしかない。
「オレって、男にしては可愛い方じゃないですか? それなのに、セックスしてくれないということはですね、もしかして、勃たないんじゃないかって思ったんですよ」
「勃たないって思ったってそんだけでか?」
 なんて、前向きな思考回路なんだと竜胆は呆れた。
「それだけでも、十分理由になります! それで、オレ、蘭君を助けたいって思ったんです! だって勃たないなんて男として可哀想じゃないですか!」
「ちょっ待てって。兄貴が勃たないって、実際に確認したわけじゃないんだろ?」
「確認とは?」
「だからさ……その……やろうと思って、やれなかったワケじゃねぇんだろって言ってんの?」
 聞きながら、身内のアッチの事情を話していることが恥ずかしく思えて、竜胆は照れてしまった。
「もう、竜胆君、聞いてなかったんですか? さっきからキスしかしてこないって言ってるじゃないですか! 全然そんな雰囲気にもならないんですよ! オレ、まだ蘭君の裸だって……見たことないっス……よ?」
 上目遣いで竜胆を見てくる武道は、確かに可愛くて、思わずごくりと喉が鳴る。普通ならキスしながら押し倒して、おっぱじめるタイミングだと竜胆の経験値がそう言っていた。けれども、武道は蘭の恋人なので、理性が性欲を速攻で鎮圧した。竜胆だってまだ死にたくはない。
 確かに、これに手を出さないのも変だと竜胆は思った。とはいえ、いきなりインポだと決めつけるのはどうかとも思う。
「やっぱ、一度もそんな雰囲気にならなかったから、インポだって決めつけるのは早いって。ちゃんと確認してからにしろよ。それまでに、兄貴に向かってインポだなんて絶対言うなよ?」と、竜胆は武道を戒めた。そんなことになったら、命がいくつあったも足りないというものだ。竜胆はそこまでは言わなかったけれど。
「でも、実際そうなってから分かったんじゃ、マズイんですよ」
「ナニがマズイんだよ」
 この会話の方が100万倍マズイわ! と、突っ込みたい気分になる。
「だって、肝心な時に勃たないなんて、男のプライドがズタズタになるじゃないですか。そのことが原因で、二度と勃たなかったらどうすれば良いんですか? 六本木のカリスマにそんな思いさせられないですよ。だから、オレ練習したんです」
「何を?」
「フェラです」
「へ? どうやって? っていうか、誰とだよ?」
 武道の突拍子もない言動に竜胆はぎょっとして 心臓が止まりそうになった。一体、誰のナニで練習しやがった? と、考えただけでも足元から震えが来る怖さだ。蘭が知ったら、手が付けられないくらい怒り狂うに違いないのだ。
「誰とって、そんなの頼める人いるわけないじゃないですか。自主練ですよ。ディルドを使っての」
「ああ……ディルドね……
 竜胆は少しだけホッとして、緊張していた筋肉を緩め、胸を撫で下ろした。でも、もし、武道が蘭以外の人間とそんなことをしていたことがバレたら、六本木にはきっと血の雨が降るのは確実だった。
 そして、武道は変な方向に暴走しているけれど、聞く限り、蘭が武道のことを真剣に想っていて、大切にしているだけのことなのではないかと思った。武道と付き合うようになってから穏やかになった蘭を見てそう思ったのだ。あの兄が、本気の恋をしているのだと知って、竜胆までどきどきしてくる。
「それでですね、やっぱりディルドじゃよく分からなくって。そろそろ実践経験を積みたいと思うんですけど、竜胆君の貸してくれないですか?」
「ハァ? 何言ってんの、オマエ? バカなのか?」
「こんなこと、他の人には頼めないんで。良いですよね? 竜胆君は蘭君の弟だから浮気にならないと思うんですよ」
 しれっとそう言う武道に、竜胆の頭の血管が切れそうになる。そして、浮気になるに決まってんだろっ! と叫びたくなった。武道のミジンコ並みの脳みそが導き出した「ドーナッツは穴が開いているからゼロカロリー」的な理論に泣きたくなる。
「ちょっ待て。オマエはナニを言い出してんだよ。他の人に頼んだら死ぬぞ! それに、貸すってなんだよ? 貸してくれって言われて、貸せるもんじゃないんだよ。バカか、オマエは!」
「バカってなんですか! 竜胆君なんて、どうせ死ぬほどやりつくしてるんでしょ? チンコくらいちょっと貸してくれたっていいじゃないですか? 減るもんじゃないし! こんなに顔が似ているなら、竜胆君のチンコは蘭君のチンコと形が似ていますよね? だから、竜胆君のチンコじゃないと練習にならないんですって!」
「貸せるか、バカヤロー! オレを殺す気か!」
「殺さないですよ。そこまでのテクはまだですって。ちょっと、気持ち良くさせるだけですよ? 結構、上達したと思うんですよね」
「マジで、バカだな! そんなことしたら、オレも六本木もどうなるか分かってねぇだろ、オマエは?」
「六本木?」
 武道が全然分かりませんと、可愛らしく小首を傾げる。蘭の本当の恐ろしさを知らないから、こんな怖いことを平然と言ってのけるのだと、竜胆は気がついてしまった。つまり、竜胆が知っている蘭と、武道が知っている蘭は全くの別物なのだと。
 あの蘭が、気を使って武道と付き合っているということが、この件だけでも竜胆には分かってしまった。蘭は本気で武道が好きで、今までになく優しく接しているのだ。性欲の捌け口なんてとんでもないくらい、大事に大事に愛でているのだ。
「いいか。もうそんなことを口に出すな。兄貴はインポなんかじゃねぇから安心しろ。だから、誰かので練習するなんて、恐ろしい言葉を口が裂けても言うんじゃねぇ」
 竜胆が鬼の形相でそう言っても、武道はぽかんとした顔をしている。全然分かっていない様子に竜胆は眩暈がした。
「ナニ、楽しい話をしてんの?」
 蘭のねっとりとした声が背後から聞こえてきて、全身の細胞が「死にたくなければ、今すぐ逃げろ」と竜胆に警告していた。けれども、あまりにも突然のことに、身体は強張り足は竦んでいる。竜胆は怪物を見たような表情を浮かべて、背後に立っている蘭を見上げた。動きがぎくしゃくとして、壊れかけのロボットのようになっていると、自分でも分かる。そして、にっこりと微笑む蘭の目が、絶対零度の冷たさを放っているのを見た時、もう駄目だ逃げられないと竜胆は観念した。
「まずタケミチは、こっちにこようか」
 おっとりとした言い方だからこそ、竜胆には余計に怖いと感じられた。けれども、当の武道は全く危機感は感じておらず「蘭君、おかえりー」と、満面の笑みを浮かべて無邪気に蘭の首に抱き着いている。
「オマエのこと、少し甘く見てたワ」
 蘭はそう言って、武道の両脇を手で掴んで持ち上げ、武道の顔を真正面から覗き込む。その間、武道の足は空中でぶらぶらしていたから、まるで絞首刑にされた罪人のようしか見えず、竜胆は心底ゾッとしていた。
「蘭君、もしかしてオレと竜胆君の話を聞いていました?」
 この期に及んでも、武道は恥ずかしそうに話しかけている。今がどんな状況か全く分かっていないのだと、竜胆は気が遠くなりそうだった。そして、この先の展開について考えて絶望的な気持ちになる。
「聞いていたよ。二人がとても熱心に話し合っていたから、邪魔しちゃわるいかなって思って、話が終わるのを待ってた」
「どこから聞いていました?」
「肝心な時に勃たないくらいからかな」
「あ、そんな前からですか……へへ恥ずかしいですね……
「タケミチが、そんなにオレのカラダに興味津々だったなんて、知らなかった。これからは、もう遠慮しないから喜べ?」
 蘭がにっこり笑って武道にそう言った。
「え? あ、はい?」
 武道はポッと頬を赤らめて、テレテレしている。どこまでも、自分の立場を理解していないようで、竜胆は驚くばかりだ。でも、こんな図太い神経をしているから、あの蘭と付き合えるのだと、妙に納得できてしまった。
「本当に、タケミチは食べたくなるくらいカワイイな」
 蘭は惚気ながら、武道のもっちりとした頬にキスをして、二の腕に乗せるように抱きかかえた。武道の身体は小さく、子犬が抱っこされたみたいにしか見えない。蘭が歩き出し、その目的地は蘭の寝室なのは間違いないのに、武道はぽかんとした顔をしていて、この先、自分の身に起きることなど全く想像していないのは明白だ。
 けれども、竜胆にしてみれば、そんなことなどどうでも良くて、どうやったらここから離脱できるかを真剣にを考えていた。
 巻き込まれてたまるかという一心だったが、蘭は武道を抱きかかえたまま竜胆を振り返った。
「竜胆は、これのあとでゆっくりお話ししような♡」
 蘭は微笑んでいたが、その瞳は全然笑っていなかった。