しちろ
2025-02-08 22:18:55
3923文字
Public LOM
 

名も無き勇者たちの足跡

ワンドロワンライ、LOM。双子と主人公とポポイ像。

「師匠。おれ、ずっと思ってたんだけどさ。これって何だろうね」
「ん?」
 リュオン街道にある、大きな分かれ道。バドが道脇に置かれた像を指さした。
「ジオの入り口にもあったよね。『ポポイ像』って、名前だけは知ってる」
 弟の言葉を受け、姉のコロナも疑問を口にする。
 『ポポイ像』と呼ばれる子どもの像。ファ・ディール中に存在するのに、『ポポイ』が何を意味する言葉なのか、この像の正体が何者なのか誰も知らない。師も同じらしく、「自分も知らないんだ」と答えた。
 師はポポイ像をしげしげと眺めて、それから妙に楽しげな眼差しで双子を見た。
「ここはひとつ、ためしにイメージしてみようか」
「イメージ?」
「そう、イメージ。この像の人物が何者で、ポポイという言葉は何を意味していて、この人はどこから来て何をしたのか」
 師の唐突な提案を聞き、双子はぽかんとした。考えたところで正解などわかるわけがない。おそらく世界中の誰も答えを持っていないのだから。
「二人とも、そんな顔しない。そうそう、これはね、自由に考えてみる練習。イメージトレーニングっていうの? バド、将来は大魔法だけじゃなくって、アーティファクトだって使ってみたいんだろう?」
「そりゃまあ、師匠みたいになっては……みたいけど」
「イメトレの意味、違うと思います」
 双子の反応はいまひとつである。二人ともノリ悪いなあと、師がちょっぴり拗ねてみせる。。この師匠、こう見えても有名な英雄で一応は大人のくせに、こじらせると少し面倒くさい。双子は師の思いつきに乗ってやることにした。
「やってみてもいいよ。でもそれ、本当にAF使う練習になるの?」
「なるなる。とても、よく、なる」
 本当かなぁ。師は自信満々だが、双子は半信半疑だ。だがAF使い本人が言うのだから信用するしかない。現世のAF使いは世界中探してもこの人くらいなのだから。
「やるって言っても、具体的にどうやったらいいの」
「何でもいいんだよ。この像を見て自由に考えたらいい。なにをしていそうか、どんな風にしゃべりそうか、何が好きそうか、見ながら探る」
 師に促され、バドとコロナは像を観察してみる。まず初めに、ポポイ像をじっくり見たことがなかったことに気がついた。像はどこにでもあり、あることが当たり前だったからだ。あって当然の存在に目を止める者は少ない。
「頭に耳みたいなものがあるね。見たことない種族だなぁ。獣人とも違うし……ちょっとだけ、おれら森人に雰囲気が似てる気もするかな」
「ねえ、バド。右手に持ってるの、魔法使いの杖じゃない?」
「よく見たらローブも魔法使いのじゃん。へえぇ、もしかしたら、おれみたいに緑色だったりしないかな」
 像の魔法使いらしき見た目が、子どもたちの興味を強く引いた。そうそうこの調子と師がニコニコ頷いている。
「そもそも、ポポイって何のことかな」
「普通に考えたら名前じゃない? なにかの呪文とかおまじないとかかもだけど」
「こいつ、ポポイっぽい顔してるもんな。オッスおらポポイ! とか言いそうじゃん?」
「おら? 女の子じゃない?」
「そうかぁ? 男に見えるぜ」
 真面目に議論する子どもたちの背後で、ポポイっぽい顔ってどんなんだと師が小さく吹き出している。
「うん、やっぱり魔法使いに見えるよな。けどすごい魔法使いには見えないなあ。チビだし、生意気そうな顔してるし」
「バドに言われたくないと思うわ。古い神様じゃないかなぁって私は思う。いつでもマナと一緒にいて、町とか人を見守ってくれてるの」
「おれに言われたくないって、コロナ、おれと顔そっくりじゃん。おれよりコロナのがちょっとだけチビだし」
「えー、やだー。私、アンタなんかに似てないし。それに、私の方がバドより絶対大きいもん」
「やだってなんだよ、なんならここで背比べてみるか」
「二人とも、背丈の話はそこでストップ。今は像の話」
 うっかり話のずれた双子が喧嘩になる前に、師が軌道修正を促した。
「バドは魔法使いの子ども、コロナは神様か。なら、『ポポイ』は何をした魔法使いだろう。神様だとしたら、なにをして神様と呼ばれるようになったんだろう」
 たった今までのケンカ腰は速やかに忘れ、双子が顔を見合わせる。自分たちのしていることに意味があるのか、やはりよくわからないと思った。
「師匠。この像の人って、本当にいたのかな?」
「いたかはわからない。もしいたらどうだったろうって話」
「ふうむ……
 浮かんだ疑問はひとまず横に置いておくことにして、イメージ作業に戻る。
「ポポイ像って、町とか街道とか洞窟の中とか、いろんなところにあるじゃん。だから世界中で有名になるくらい、立派なことをした人だと思うんだよな。でっかい魔物をやっつけたとかすごいお宝を見つけたとか、たくさん人を助けたとか」
「それは私も同じ考えね。もしも悪いことをしたんなら、あちこちに置いてないと思うもの」
「魔法使いだとしたら、魔法ですごいことをしたのかな。おれと変わらないくらいに見えるのに」
 そこまで言って、バドはふと、顎を指でなでた。
……なんで、この像って、子どもの姿なんだろ」
「言われてみれば、確かにそうね」
 偉人の像や肖像画というのは大抵、脂の乗りきった最盛期か名声を確固たるものにした老年期を象っている。ジオの城の勇者像然り、魔法学校に飾ってある歴代大魔法使いの肖像然りだ。
「この年で大きなことをしたってことなのかしら。でもこんな小さいうちに、そこまですごい魔法使いになれるかなぁ」
「珠魅みたいに歳をとらない種族かもしれないぜ。子どもに見えて何百歳とか」
「もしかしたら小さいうちに死んじゃったとかかも……
「ええ、そんなぁ」
 バドとコロナ、二人で思いつくまま、ああでもないこうでもないとやり合ううちに、だんだんイメージがまとまってきた。
 名前はポポイ。ローブの色は緑色(バドの趣味)。見た目は小さいけれど、きっと偉大な魔法使いで、世界中にその像が広まるくらい誰かに慕われていて……
 バドが満面を輝かせて、ビシッと手を上げた。
「よし、わかった! ポポイとは、仲間と世界を股にかけて冒険した、すっげえ大魔法使いだ!」
 聞いたとたん、コロナが呆れた風に手を広げた。
「それって結局、バドのなりたいものじゃない。アンタいつもそれね」
「いいじゃんか。おれたちの好きに考えていいって師匠言ったし」
 相変わらずガキねとぼやきつつ、コロナは首を傾けた。
 バドが大冒険家の魔法使いを心に創造した一方、コロナは各地で守り神として慕われるような、優しい魔法使いを創造していた。これだけ世界に広まっているということは、広めたいと思った誰かがいたからだろうと考えて。いや、創造したなんて大げさで、ただ好き勝手に並べ立てて、あれこれ心に思い描いただけなのだ。本当に、ただ、それだけなのに、
……なんか、不思議な気分」
 気のせいだろうか。ポポイ像がかすかに輝いて見える。
 そういうことだよと、師が子どもたちの肩に手を置いた。
「君たちがイメージしたことで、今、二人の中にそれぞれのポポイ像が誕生した。このポポイ像はさっきと何も変わらないけれど、きっと今の二人には今までとほんの少しだけ違って見えるはずだよ」
「イメージ……
 わかるようなわからないような。曖昧に頷きながら双子は像を見る。
 師の言う通り、今まで通り過ぎていただけの古びた像が、ほんのちょっとだけ違ったものに見えていた。風雨にさらされ、褪せてくすんだ金色に色が通って、ちょっと小憎らしい表情なのに、誇らしげに胸を張っているような。
 コロナが疑問を口にする。
「でもそれって、私たちが勝手に考えたうそっこですよ? それでいいんですか?」
「いいんだよ。イメージすることに嘘も本当もないんだから。君たちの中に、君たちの創ったイメージが生きている。それが大事なのさ」
 双子は再び顔を見合わせた。この師匠、若いくせに、賢人みたいなことを言う人だ。要するに、よくわからない。
……師匠って、いつもそんなこと考えてんの?」
「いつもじゃないよ。でも、時々」
 ヘンな人、という感想は、バドもコロナも懸命にも口に出さなかった。AF使いとはこういうものなのか。だとしたら容易になれる気はしない。
 寄り道を終えてようやく帰路につきながら、双子は互いに目配せし合った。
「バド。けっきょく、イメージってなんだったんだろうね」
「うーん、おれもよくわかんないけど……あのさ。おれ、これからポポイ像見つけたら、おれも大魔法使いになれますようにってお願いすることにしようかなって」
 コロナが、少し意外そうに弟を見た。自分たちが勝手に創ったイメージで、弟の中に本当に大魔法使いポポイが誕生してしまったのだろうか。
……それなら私は、ケガしないで安全に帰れますようにってお祈りしようかな」
 すると、バドはやはり意外そうに姉を見て、それもいいんじゃね? とケケケと笑った。

 風が一つ、吹いた。

――そこのチビたち、見どころあるな! オイラの子分にしてやってもいいぜ!

「ん?」
 バドとコロナが振り返る。
「コロナ。何か言った?」
「何にも。バドこそ何か言わなかった?」
「言わないよ。じゃあ、師匠?」
「いいや? 自分は、何も」
 幼い双子はそろって頭に疑問符を浮かべ、師は何故だか物知り顔でくすくす笑っている。
 三人の背後で、真っ赤な夕日を浴びて、ポポイ像が金色に輝いていた。