toko-honey
2025-02-08 07:47:23
3682文字
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ドキドキ☆交換日記1【無理難題】

レオン×タクミ。交換日記で仲良くなっていくレオタクのお話。1日1話の連載で全7話です。
Japanese Only
#leokumiweek2025

 タクミはツリーハウスのカムイの部屋で、丸テーブルの椅子に座らされていた。隣には一緒に連れて来られたレオン、斜め前にはカムイが座っている。
 カムイはタクミとレオンの顔を交互に見ると言った。
「それで、どうしてあんなことになったんだ」
「それはこいつが――
 タクミとレオンはお互いを指して同時に話し始め、ぎろっとにらみ合った。
「ちょっと、僕が話そうとしているんだけど」
 レオンの抗議にタクミは反論した。
「カムイ兄さんは僕に質問したんだ。僕が先に話すのが筋だろう」
「違うね。カムイ兄さんは僕に質問したんだよ。ねえ、そうだよね、カムイ兄さん」
「さすがは暗夜人だね。人に譲ろうって気がさらさらない。まず『自分』なんだよね」
「白夜人は譲り合いの精神を持っているって聞いたような気がするけど、君はその精神をどこかに置いてきたのかな?」
 タクミが言い返そうとすると「いい加減にしないか」とカムイの声がした。
 いい加減にするのは僕じゃなくてあいつのほうだ。
 感情のままに言いかけたその言葉をタクミはひとまず飲み込んだ。カムイはいつもの人当たりのよさそうな顔ではなく困り果てた顔をしている。自分たちがカムイを困らせているのだと思ったらばつが悪かった。レオンも同じように感じているのか黙っている。
 カムイはしばらく腕を組んで困った顔をしていたが、ふうと息をついて話し始めた。
「俺は詳しく話を聞きたいだけなんだ。順番に質問をするから、起こったことだけを簡潔に話して欲しい」
「どっちから?」
 レオンが質問する。
「じゃあレオンから」
「ええっ!?」
 タクミはガタンと音を立てて立ち上がった。先に話す方が有利だ。レオンが先に話せば、彼の都合のいい話をカムイに印象づけてしまう。
 カムイはタクミに座るようにと手で示した。
「まあ落ち着け。ちゃんと交互に聞くから」
 タクミはしぶしぶ椅子に戻った。レオンがこちらを見て薄ら笑ったような気がしたが、腹が立つだけなのでそちらは見ないようにした。
「あの場にいたのはお前たちの他にはサクラとエリーゼだったな」
「そうだよ」
 レオンが答える。
「じゃあ次はタクミに聞こう。もめ事の原因はなんだ」
「ちょっと待ってよ。僕の発言はさっきので終わり!?」
 カムイがタクミに顔を向けるとレオンが横やりを入れてきた。
「レオン、交互に聞くって言っただろう」
「それにしたって短すぎない?」
「レオン、俺は『起こったことだけを簡潔に話すように』って言ったぞ」
 カムイが重ねて言うと、レオンは腑に落ちないような顔をしながらも大人しくなった。タクミはその様子を見ながら鼻で笑う。レオンは目だけでこちらをにらんできた。
「質問に戻るぞ。タクミ、一番の原因は何だ」
 それはもう、一番の原因はレオンの態度だ。だがそれを言うと「起こったことだけ話せ」とレオン同様に怒られそうな気がして、タクミはできるだけ事実に即したことを言った。
「あんこだよ」
「あんこ。食べるあんこか」
「そう、食べるあんこ」
 昼過ぎ、サクラに「お団子を作ったのですが、よろしければ兄様もどうですか」と声をかけられ、タクミは食堂に行った。そこに、同じように声をかけられたエリーゼもいた。エリーゼは団子に添えられたあんこを食べて、初めての味わいに興味津々の様子だった。そこまでは何事もなく平和だった。レオンがエリーゼを探しに食堂に現われるまでは。
 カムイの質問がレオンに移る。
「どうしてあんこでもめ事が起きたんだ」
「白夜の甘味が僕の口に合わなかったから、そう言ったんだよ」
「それだけでもめるわけがないだろう」
「知らないよ。向こうが勝手に突っかかってきたんだ」
「何だよそれ!」
 あまりに人ごとな態度にタクミはバンとテーブルを叩いた。
「まだそっちの番じゃないけど」
「『勝手に』って何だよ。そうじゃなかっただろ!」
「タクミ、落ち着いて話してくれ。レオンは何て言ったんだ」
 今思い出しても腹が立つ。レオンはエリーゼに勧められたあんこを味見して、ものすごく嫌そうな顔で言ったのだ。
「カムイ兄さん、こいつは『なにこれ。豆を甘くするなんて信じられないよ、こんなのただの食材の無駄遣いだ』って言ったんだ」
 タクミはビシッとレオンを指さした。
「レオン……
 カムイが頭を抱える。
「そっちだって『あんたの大雑把な味覚じゃ、この味のよさはわからなくて当然だよな』なんて言ってたじゃないか。聞き捨てならないね」
「タクミ……
 カムイがますます頭を抱えた。
「だいたい豆はスープや煮込み料理に入っているものだろ。お菓子に使うなんてありえないよ」
 悪びれないレオンの態度がタクミをいら立たせる。
「暗夜ではそうかもしれないけど、白夜では普通なんだ。ありえないとか言うな」
「別にいいじゃないか、僕があんこが嫌いでも。それより人を指さすのやめてくれないか? 失礼だろ」
「失礼なのはどっちだよ! あんたがあんこが嫌いかどうかなんてどうでもいいんだよ。あんこを馬鹿にするなって言ってるんだ」
「本当のことを言ったまでだろ。そっちこそ人の味覚をけなせるような大層な味覚の持ち主なのか? 作る料理を見る限りそうとは思えないけど」
「文句があるなら僕の作ったものは二度と食うな!」
「だったらそっちも僕が食堂当番の日はせいぜい腹を空かせることだね」
 食堂で散々やりあったレオンとの口喧嘩が再発した。二人とも興奮していつの間にやら椅子から立ち上がってしまっている。カムイの質問に交互に答える形式は完全に消え去っており、好き勝手に主張をぶつけ合っていた。いつつかみ合いに発展してもおかしくない勢いであった。
 この調子で食堂でやりあっていたから、サクラとエリーゼがあわててカムイを呼んできたのだ。いったん落ち着いてカムイの部屋で話を聞いてもらうはずが、結局同じことになってしまっていた。
「二人とも少し落ち着こう」
 にらみ合う二人の間にカムイが割って入った。まあ座れと椅子に座らされる。水を飲めと言われて、タクミは出された水を大人しく飲んだ。むかむかした気持ちはこのくらいではとても収まらなかった。
「二人の言いたいことはわかった。お前たちが合わないこともわかった。だが俺はこの軍のリーダーとして、この状況を見過ごすわけにはいかない」
 カムイは本棚から一冊の本を取り出した。テーブルの上に置く。
 表紙が暗夜風に装飾された小ぶりな本だった。レオンが中身をぱらぱらとめくる。中身は全部白紙だった。
「これは?」
 レオンの質問にカムイが答える。
「日記帳だ」
「それはわかるけど。これがどうかしたの」
「お前たちには今日からこの日記帳に交互に日記を書いてもらう。二人で一冊。つまり、交換日記だ」
「交換日記!?」
 タクミとレオンが同時に叫んだ。はっと顔を見合わせる。
「嫌だよ、こんな奴と交換日記だなんて」
「僕だってお断りだね」
 口々に文句を言い始めた二人にカムイがきっぱりと言った。
「これはお願いじゃない、リーダーとしての命令だ」
 二人は押し黙った。軍に所属している以上、リーダーの命令は絶対だ。
「お前たちに足りないのは相互理解だ。交換日記でお互いのことがわかってくれば、今回みたいな言い合いはもう起こらなくなるだろう」
 カムイは楽しそうに提案した。自分の考えがうまくいくと信じて疑っていないようだ。対して、タクミとレオンは苦い表情を浮かべていた。
 カムイは日記帳をタクミの前へすっと置いた。
「じゃあまずはタクミからな」
「えっ、何を書けばいいんだよ」
「日記なんだから好きに書けばいい。言っておくが、中身はときどきチェックするからな。二人とも真面目に取り組めよ」
 よろしくなと言われ、タクミはレオンと部屋から出された。
 閉められた戸の前で両手で日記帳を抱え、呆然とする。レオンへ視線を向けると、嫌悪と困惑の混じった視線が返ってきた。
「どうすればいいんだよ、これ」
 思わず愚痴が漏れる。レオンは苦々しげな顔でため息をついた。
「カムイ兄さんの言う通りにするしかないだろ」
 レオンは先に階段を下りながらにやっと笑って言った。
「まあ、できれば読める字で書いてくれよ」
「なっ……!」
 大声を出そうと思ってぐっと我慢する。ここはカムイの部屋の前だ。こんなところでまたレオンともめ事を起こそうものなら、これ以上どんな無理難題を課されるかわからない。
 遠ざかる金髪を見下ろしていると、またむかむかといら立ちがよみがえってきた。
 レオンは口を開けばこちらが不快になるような物言いしかしない。あんな奴と、相互理解なんてできるわけがない。できたとしてもしたくない。
 タクミは日記帳を持った腕を振り上げた。足元に叩きつけようとしてカムイの困り果てた顔を思い出す。タクミは腕を振り上げた姿勢で数秒固まり、そのままゆっくり手を下ろした。