望月 鏡翠
2025-02-08 01:40:54
1132文字
Public 日課
 

#1621 「野原」「運送人」「花火」

#毎日最低800文字のSSを書く/三題噺


 GPSの吐き出した位置情報が間違えているのではないかと、運送人は何度も情報を失おし、精査して場所を確認した。別の地図ツールで表示させもした。
 しかし、何度見ても間違いなく、指定された場所は何もない野原のど真ん中だった。
 表示される座標が実際の場所と異なっていることは、稀にだがあることだ。だから仕事に万全を期すために、男は一度景気を手放し、アナログな地図を取り出して座標を調べもした。
 それは奇妙な仕事だった。郵便番号から始まり、県があり市があり、地区がある。
 しかし最終的な番地は、座標で指定されていた。そんな送り状は無効ではないかと思ったが、この世界で唯一残った品物を運ぶことを生業とする人間として、男にはプライドがあった。
 この荷を託された。ここまで正確に場所を決められ、しかも日時の指定までされている。日時指定など、高額化により使用されなくなったオプションに等しい。何しろ、配達人がもういないのだから、時間の指定などできるわけもない。
 届けた頃に、相手が存在しなくなっている事故も度々である。
 それでも彼はまだ配達人だ。そして客が必要な料金を払い、仕事を依頼してきた。
 だからその座標を調べ、間違っていないことを何度も確かめ、頼まれた重い重い荷物を担いで、草原に踏み込んで行った。
 台車を持って入ることができるほど、地面が平らではなかったのだ。同様に車もはまって脱出できなくなる心配があり、乗り入れることができなかった。
 だから荷物は背負っていくしかなかったのだ。
 おそらく、以前は何かの施設の一部だったはずだ。目的地の方角を見る。
 何かが、地面から突き出している。円筒形で、無骨な工業製品のフォルムをしている。下草を押しのけて視界に入ってくるから、そこそこの高さはある。しかし住居ほどは高くない。
 地図を見る。そこが目的地であることに違いはない。
 素手で触れば手が切れるような硬い草を分けて、配達場所に行く。
 そこには一人の男がいた。作業着を着た、あまりにも普通の男だ。傍には一人用のテントがある。
「おう、助かった。ここに置いてくれ」
 料金は先払いだ。
「これは、なんなんですか」
「花火だよ」
「花火」
「今日は記念日だからな。人類の数が半分になったところで、祝い事を無くしていい理由にはならんだろ」
 地面から突き出した円筒は、打ち上げ花火の発射台だったらしい。
「火薬は危険物になるので、別料金です」
「え、そうなのぉ」
「次回からお気をつけください」
「わかったわかった。せっかくだから見てけよ」
「次の配達があるのでこれで」
 次の現場に向かう配達人は、バックミラーで花火を見た。
 良い仕事だった。