つの
1297文字
Public まほやく
 

無題(オーカイ)

公式で舌をべろって呼んでる自カプかわいいな

「熱っ!」

 思わず声をあげると、ソファの隣で黙々とケーキを食べ進めていた視線がこちらを向いた。あざ笑うというよりは呆れたように片眉をあげる。
 なにを言いたいのかは、なんとなくわかった。でも、俺がコーヒーを淹れ終わるのも待たずに、買ってきたケーキをほとんど食べ終えたやつに言われたくない。
 舌先にピリピリとした痛みを感じながら、手のうちのコーヒーカップに息を吹きかける。
 オーエンは、残った生クリームの残り香まで味わうように唇を舐めたあと、口を開いた。

「あっかんべー」
「なに?」

 予想とは違う言葉が聞こえてきた。「僕の舌を見たいときに賢者様が使う呪文」と言う。

「こう」

 そう言って、紋章の浮かぶ舌をだらりと垂らし、左の下瞼を指で引き下げる。
 こんなふうに、赤い舌に浮かぶ黒百合の全容を見られるのは、本来なら限られたときだけで……ざわりとした胸を無視する。まだ日が高い。
 カップを置き、不思議なポーズの真似をした。謎かけのような会話の解が聞けるものと期待して。
 オーエンは笑いだした。

「それってね、賢者様の世界では侮蔑のポーズらしいよ」

 むっとして引っ込めようとした舌を、手袋に包まれた指先が挟み込む。

「舌べろ、赤くなってる」

 さきほど火傷したところをぎゅうと押されて、背が震えた――まさか心配しているのかと思った俺が馬鹿だった。
 オーエンがくつくつと笑いだしたので、その指先を噛んでやる。甘噛みというよりは強く。けれど何度も戯れとして繰り返したように。
 舌打ちが聞こえて、指が引き抜かれる。けれど色違いの瞳はぬらりと昏い輝きを帯びる。

「ほんとうに、待てのできない悪い子だね」
「どっちがだよ」

 ゆっくりと近づいてくるうつくしい顔を見つめながら、このキスが終わるころには淹れたてのコーヒーもすっかり冷めてしまうだろうなと思った。



 触れるだけのキスを繰り返していると、その狭間に、カインの焦れた舌先が自身の唇を湿らせる。
 それも無視して続けていると、胸を押された。距離が開くと表情がよく見える。

「シュガー、食べる」

 ちょっと唇を尖らせたカインの手のひらに、小さな星がいくつも生み出された。
 以前、僕が「コーヒーを飲んだあとに深いキスはしたくない。舌が苦いから」と言ったのを覚えていたらしい。
 呷るように口に含もうとしたのを、腕に触れて制止する。

「それだけじゃなくて」

 火傷、痛いでしょう。
 自分でも白々しさに笑いだしそうになった。カインは笑わなかったけれど、眉尻を少し下げた。困ったような顔だった。
 その顔のまま、「いいよ」と言う。

「ちょっとぐらいなら、甘くても痛くてもいいから……べろ入れて」

 さっきカインが困ったような顔をした気持ちがなんとなくわかった。そんなことを言われて、腹が立つような、笑い出したくなるような……変な気持ちだ。
 ごまかすように、慣れた薄い笑みを浮かべる。

「じゃあ、うんと甘く、うんと痛くしてあげる」

 シュガーと共に挿し入れた舌は、拒まれなかった。