さちこ/Sharia
2025-02-07 01:28:36
730文字
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兎の子守唄

同い年軸 漆黒

静かだ。

真っ暗な部屋の中、蝋燭だけがチリチリ光っている。
ミコモは前線へ呼ばれて行った。ユメは異世界へ行ったきり、まだ帰ってこない。
寝息すら立てずに眠る二人の小さな主の、僅かな呼吸音だけを頼りに自分を落ち着かせている。

二人の手が冷たいのだ。
子供故の高体温でいつもあったかい二人の手が、ひどく、冷たい。
触っていると正気を保てそうにないから、二人のベッドの隙間に座り込んで、膝を抱えている。

いっそ戦場に出てしまえば、全てを忘れられるのだろうか。
血に塗れたら、あたたかいだろうか。この寒さを忘れられるだろうか。
スカテイ山脈の吹き下ろしよりもよっぽど冷たいこの部屋にいるよりは、いくらかマシではないだろうか。

ふと、肩が何かに当たった。
重苦しい鉄の音と共に場所をずらしたのは、ユメから預かった槍だった。
慌てて落ちないように支え、再び綺麗に立てかける。
ユメの英雄たる証を預かっているのだ。傷一つつけるわけにはいかない。

……声が聞きたい。
ユメでもいい。ミコモでもいい。誰でも良い。
ただ、誰かの声が聞きたかった。
この静かな部屋に、気まぐれに爪弾くハープの音しか響かないのは、あんまりじゃないだろうか。
だから小さな声で歌い始めた。
60年前、ルイゾワから教えてもらった子守唄を。

歌を通じて、部屋の中に渦巻くミスト────エーテルを雨のようにして、賢人たちの肉体に振り撒く。
少しだけ安定した呼吸音を聞いて、ようやく指の先が温まった。

ただ、ひたすら歌い続けた。
喉が枯れるまで、ずっと。

いつか、また起きてくれる日を待っている。
友が皆を連れて帰ってくる日を、待っている。

いつまでも、いつまでも、歌を口ずさみながら。