いまさら
2024-08-22 22:19:46
2504文字
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アンソロ寄稿小説「だてんしのおとしもの」サンプル

素敵なアンソロに参加させていただきました!寄稿した小説のサンプルになります。

だてんしのおとしもの


 意識が生まれるのと同時に、辺りに複数の気配を感じた。目を開かなくても周りの状況は分かる。瞼は、ひとではない自分がひとの中に紛れられるように与えられたデザインの要素のひとつでしかない。が、インプットされている反射の機能と周囲の者に目覚めを知らせる意思とで閉じていた目を開いた。危険はないと判断したのもその行動をとった要因のひとつである。
 目を開くと、視覚からの情報が体内に流れ込んでくる。おおよそ先に感じ取っていた状況の通りだ。そこに光が加わることによって情報に色が生まれる。
 自分は狭くてものの少ない部屋の寝台に横たわっていて、前もって把握していた情報の中でまず最初に色がついたのはその部屋の天井だった。天井は柄も凹凸もない白色で、冷たく硬い材質でできているように見える。見えるというのは比喩で、実際はそういう情報が読み取れる、といった方が近いだろうか。どうやらこの体は色んなものが見えるように作られているらしい。柔らかく差し込む朝日が天井や壁の青白さを際立たせ、狭い部屋の潔癖な印象をさらに強める。
……! 補佐官! 所長、補佐官がお目覚めに」
 声の方を見ると、先ほどから感じていた気配のひとつが慌てたような顔──なるほど、この目は他者の感情も読み取れるようだ──で誰かを呼んでいる。意志の強そうな瞳と声は、気配の硬質さと印象が一致していて好ましく思う。こういうタイプは扱いやすい、ということをどうしてか自分は知っている。
 『補佐官』というのが今の自分の役職か。補佐とは誰の補佐だろう。持っている情報では、自分を……オレを作った男がいるはずだが。それが所長とやらなのだろうか。
 おもむろに身を起こすと、ぎしりと全身が痛むが、その原因に心当たりがない。無表情な白衣の男が近づいてくる。この気配は知っている。姿形も登録されているとおりだ。銀髪に蒼い瞳に白い衣服。冷たさを感じさせる佇まいでありながら、確かな熱をもってそこに立っている。やはり、この男がオレを生み出したそのひとである。
「やあ、はじめまして。お父様?」
 白衣の男に話しかけると、男は表情を険しくしてこちらを睨んだ。
「ベリアル、何のつもりだ」
 そう、ベリアル。それがオレにつけられた個体名である。
「動作確認だろう? ちゃんと起動したさ。プログラムに問題はない。いつから稼働すればいい?」
……何年前の話をしている。問題だらけだな。お前の役割を述べてみろ」
 ため息混じりに命じられ、それに従いながら、持っている情報を確認していく。自分の名前、はベリアル……役割、存在意義は……なるほど、空の研究がどうのこうののために作られたが……正直、今ある情報だけだとこの仕事にそんなに興味は持てない。そしてこの仕事をするにあたって僚機がいて……そういえば僚機の姿が見当たらない。では、補佐官、というのは僚機の補佐のことか、などと情報と照らし合わせて推測する。
 役割を述べ終わり、ついでに命じられてないことも喋る。
「そして、あなたがルシファー。オレの創造主、だろう?」
「質問に答える目的以外で言葉を発するな」
「ああ、すまない。何たって生まれたてだから、好奇心旺盛なのさ。こちらからも質問いいかい」
 ルシファーはため息をつくが拒否はしなかった。それを肯定したものと解釈して問う。
「まず、情報登録のない個体がいくつかいるようだが。彼らは?」
 部屋には最初に声をかけてきた個体のほかに三体ほどいて、それが自分と同じ性質を持つ存在なのは分かるが、気配は見知らぬものだった。自分の持つ情報を参照していくと僚機については予め登録があるようなので、この者たちは自身の役割に関係のない仕事をしているのだろうか。
 質問を投げた瞬間、それまで黙っていた周囲の者たちが驚きの表情を浮かべた。あわせて気配も騒つくのですこし愉快な心地になった。驚く、ということは自分は何か常識はずれなことを言っているようだ。
 ルシファーは顔色ひとつ変えずにまた淡々と命じる。
「直近の業務について報告してみろ」
 直近? この体はたった今起動されたはずでは、と考えてようやく理解した。
「もしかしてキミと話すのはこれが初めてではない?」
「察しがいいな」ルシファーは鼻で笑う。
「おかしいな、何も思い出せない」

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記憶喪失になったベリアルがいろいろがんばるお話です
社長と補佐官の仲が良い
ミカちゃん、ガブちゃん、ルシフェル様、サリィもいます

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「ファーさん、入るよ」
 返事を待たずに扉を開ける。今度は鍵を壊さずに解錠することができた。日が沈みかけて、窓から見える空は赤く染まっている。
「今日は何か食べたかい」
 返事を期待せずに、テーブルにお茶と軽食を並べていく。この日、部屋を訪ねるのはこれが最初だった。ルシファーは緩慢に椅子を立ち上がり、ベリアルの方に移動してくる。お茶のタイミングに間違いはなかったようだ。
 怪訝な顔をした科学者は黒いグローブを着けたままの指先でカップを持ち上げて紅茶を啜り、そしてやはり怪訝な表情を崩さずにカップをソーサーに戻した。昨日使った客用のカップではなく、ルシファーにお茶を出すときにいつも使っている道具を使い、彼の好む茶葉でお茶を淹れた。
「この味が恋しかっただろう」
 揶揄うように言うと、蒼い目にじろりと睨まれる。ルシファーは無言で皿の上の料理を口に運び、あっという間にそれらを平らげてしまった。向かいの椅子で紅茶のおかわりを淹れてやりながら語りかける。
「オレはキミを愛しているようなんだ」
 告白の相手の表情をちらりと伺うが、顔色に変化はない。相変わらずどこか不機嫌そうに眉間を寄せて紅茶を飲んでいる。
「知っている」不意にルシファーがそう答えた。
「え……
「聴覚にも不調があるのか?」
 冷たい瞳がしっかりとこちらを捉えていて、ベリアルは硬直してしまった。

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サンプルここまで
小説37ページで参加させていただきました
よろしくお願いします!