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みすず
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創作
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冬人と水樹さん
ココレット。
「そろそろ僕も大人として一歩踏み出そうと思います」
重々しく言った水樹が取り出したのは持参した粉末ココアとインスタントコーヒー、それとチョコレートに牛乳。冬人はこれはまたなにか発見したのだなと思いながら「そっか」と短く頷いた。
「まあ、聞いてくださいよ。僕は少しばかり
……
ちょっとですけどね、コーヒーを飲むのにミルクやお砂糖を必要としていました。いえ、これも大人だからこその贅沢ですが」
「うん
……
好みはそれぞれでいいと思うよ」
以前よりずっと食事量の増えた水樹であるが、食の好み自体は所謂こども舌に近い。ブラックコーヒーを飲んで顔を皺くちゃにさせていたのを冬人は見たことがあった。
はて、それならば目の前のココアとコーヒーはなにかしら。水樹用にココア、冬人用にコーヒーというのは考えられるが、水樹の口振りから察するにそうではないだろう。それにチョコレートはお茶請けというには不自然な板チョコである。はて、さて。
「冬人さんはココレットという飲み物をご存知でしょうか」
「いや、知らないな
……
えっと、これ混ぜるの?」
「ごめいさ
……
ごめ、ご明察!」
水樹がフィンガースナップをするが、それは上手な音にはならなかった。二回やり直してようやくパチンと鳴ったのに冬人は思わず笑い、顔を横に向ける。
「
……
笑っていられるのも今のうちだからね。冬人さんも飲んだらびっくりしますよ」
「うん、ごめん
……
楽しみだな。一緒に作りたいから教えて?」
「任せてくださいよ」
どん、と胸を叩いた水樹が手招きするままに台所へ向かう。
リビングとは違ってひやりとする台所に水樹が冷えて風邪を引きやしないかと心配になったが、飲み物の準備であるならば時間はそうかからないだろう。寒そうにしたらすぐに上着を着せようと意識する冬人の隣で水樹はマグカップを二つ取り出す。それぞれ個性のある味わい深い絵が描かれたマグカップは、水樹と絵付け体験に行って手に入れたものだ。自分にしては上手く描けたほう
……
と己を納得させたところで水樹に「僕のマグ素敵に描いてくれてありがとう」と流れるように交換されたのは良い思い出である。
水樹はそれぞれのマグカップに粉末ココアとインスタントコーヒーをそれぞれ小匙二杯入れるとマグカップの三分の一ほどに熱い湯を注ぎ、板チョコを半分ずつ割り入れる。濃いココアコーヒーの中で溶けていくチョコレート。続いて牛乳をたっぷり注ぐと電子レンジに三十秒かけた。
「ね、簡単でしょ?」
ちょっと言ってみたかったという雰囲気を滲ませながら得意気にする水樹に、冬人は「そうだね。どんな味なのかまだ分からないけど」と微笑む。
電子レンジから出てきて熱々のマグカップをそれぞれ落とさないように持ってリビングに戻れば、改めて甘くも香ばしい匂いが鼻先へふわりと立ち上る。組み合わせとしては不味くはならないと分かっているが、具体的な味はどうだろうか。
「ささ、飲んでみてくださいよ」
水樹が期待に目をきらきらとさせながら促すので、冬人はマグカップを軽く持ち上げた。
「いただきます」
熱いのでまずはちびりと。
最初に感じたのはコーヒーの香ばしさだった。次いでココアとチョコレートの甘やかな風味、牛乳のまろやかさ。合わさるとココアの風味をコーヒーが際立たせていて、ココアだけで飲むよりも飲みやすく、コーヒーだけで飲むより柔らかな口当たりである。水樹の言うとおり、ただ牛乳や砂糖をたっぷり入れただけのコーヒーやココアよりも一歩大人の味がした。じっくりゆっくりしたい気持ちのときに飲むには一層良さそうである。
「うん、美味しい
……
いいね、水樹くんが考えたの?」
「でしょ? これは本に書いてあったんだ。結構前の本なんだけど、お客さんが訊きにきてね。タイトルが気になったから僕も読んでみたんだ」
水樹は続けて本のあらすじを話し、冬人はいまの時期に読むにはぴったりだと言う水樹にでは今度読んでみると頷く。本屋に勤める水樹から聞くおすすめによって、冬人の読書量も以前より増えた。本棚にしていた小さなカラーボックスはそろそろ手狭である。
「今日寒くなるって天気予報で言ってたからさ、冬人さんと飲みたいなって思ったんだよね」
気に入ってもらえて嬉しい、と水樹が微笑む。冬人は何気ない一瞬のなかにも自分を思い出してくれた水樹に胸がじんわりと暖かくなり、マグカップを座卓へ置いて彼をそっと抱き寄せた。
「ありがとう。嬉しい。俺もきみになにか出来たらいいのに」
「ふふ、冬人さんはいつも俺に沢山してくれてるよ。でも、そうですね
……
僕もちょっと失礼して
……
」
もそもそと冬人の腕から抜け出した水樹は彼もマグカップを座卓へ置いて、ばっと大きく両腕を広げた。
「さ、どうぞ! 零す心配はないですからね、さあ!! あ、チューもあると尚のこと嬉しいです」
大胆に言う水樹に冬人は敵わないなと思う。
「では、失礼します」
以前よりずっと肉付きが良くなり、温かになった水樹の体を抱き寄せて、冬人は彼の頬に手を添える。自分から言ったことであっても恥じらいはあるのだろう、晶晶とした目を伏せる水樹の頬はほんのりと赤い。温かい飲み物を飲んだせいだけではないのを冬人は分かっていた。
唇を合わせる瞬間は痛いほど胸が鳴る。しっとりと重なった唇、目を閉じればココレットの香りが過ぎった。
「
…………
ふふ、お揃い」
唇を離せば、水樹が照れ隠しのようにぺちぺちと手の甲で自身の頬を叩きながら言う。
「そうだね
……
参ったな。これから飲むときに思い出しそう」
「
……
それはつまり、ココレットを飲んだら僕とチューしたくなるってことですか?」
「そうだね」
あっさりと頷いた冬人に水樹が「ん゙!」と声を上げる。
「冬人さん、どんどん大胆になるよね
……
」
「嫌?」
「そんなわけない」
「そっか
……
じゃあ、もう一度してもいい?」
水樹はぎゅっと目を瞑ってからマグカップを手に取り、ぐびっと男らしく飲む。
「どうぞ!! ココレットを飲んだ際にはどうぞ、どうぞ日永水樹を思い出してやってください」
冬人は声を出して笑い、すぐに水樹の腕を引いた。
先ほどよりも甘い唇。
せっかく教えてもらったのに、冬人はココレットを一人で飲むことはないだろう。
きっと、一人で飲むには寂しくなってしまうから。
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