haru_haru0704
2025-02-05 19:18:42
3997文字
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咬傷と鬱血痕

カカロ×忌炎 全年齢

周波数異常(ご都合設定)で吸血鬼みたいになってしまった忌炎の話

破陣基地内に、『にゃ~ にゃ~』という警報音(?)が鳴り響いた。
「何だこの音は・・・」
初めて聞く警報音(?)に、忌炎は困惑した。
デバイスからもにゃ~にゃ~と音がする。
すわハッキング攻撃か、と忌炎が身構えた瞬間、可愛らしい声の電子音声が警報(?)の内容を読み上げた。
『テティスからの警報にゃ~。夜帰軍の将軍、忌炎にゃんの周波数が著しく乱れているにゃ~。前回、カカロにゃんに起こった周波数の乱れと同じ症状にゃ~。数日で治ると思われるにゃ~。前回の警報が大袈裟すぎると苦情があったから、マイルドにしてみたにゃ~』
「は・・・」
警告の内容に、忌炎は先日のカカロの様子を思い出す。
耳と尻尾が生えて、犬歯が伸びて、動くものが気になって、それから下半身が──いや、それはどうでもいい。
とにかく、俺もあんな風になってしまうのだろうか?
忌炎は自身の頭や尻を触ってみた。角とか尻尾は生えていない。
だがしかし、油断は禁物だ。カカロの時は、第一報が出てから数時間後に発症していた。
「カカロ・・・」
念のため、彼に連絡しておいた方がいいだろうか。
今はちょうど、瑝瓏内で仕事をしていると言っていたはずだ。
忌炎は溜息を吐きながら、腰のデバイスを手に取った。

*
忌炎からの連絡を受けたカカロは、その半日後に破陣基地に到着した。既に日が落ち、空は暗くなっている。
カカロは見回りの夜帰兵に挨拶しつつ、基地内に足を踏み入れた。
途端、不穏な気配を感じてカカロは背筋を震わせる。
「何だ・・・!?」
基地の建物の陰から、何かが飛び出した。
『それ』は建物の壁を蹴って跳ね返ると、一直線にカカロへと襲いかかる。
「・・・っ!」
ガキン!と耳障りな音が鳴り響く。
カカロは間一髪、眼前にかざした長刃で敵の攻撃を防いでいた。
『それ』は彼の長刃に食いつき、ギリギリと歯を立てている。
真っ赤な瞳に、鋭く長い牙。花浅葱色の髪をした『それ』は──いや、『彼』は。
「忌炎・・・?」
カカロの呼びかけに、忌炎は答えない。ただ、ぐるぐると獣のように唸っている。どう見ても正気ではない。
忌炎は長刃を両手で掴むと、カカロの方に向かってぐいぐいと押した。
その力は凄まじく、力負けしたカカロは後ろへと倒れこんだ。背中を強打し、息が詰まる。
忌炎は長刃を放り捨てると、カカロの首筋に顔を近づけた。
「っ、おい忌炎・・・!」
カカロの抵抗も虚しく、忌炎の牙が首筋へと突き刺さる。
チクリとした痛みとともに、場違いな酩酊感と快楽に襲われ、カカロは喘いだ。
「はっ、あ・・・!」
ぢゅう、じゅる、という音がする。
血液を吸われているのだ、とカカロが理解したのとほぼ同時に、夜帰兵たちがわらわらと集まってきた。
「大変だ!将軍が人を襲ってる!」
「止めろ止めろ!」
「襲われてるのカカロ殿じゃないか!?」

兵たちによってカカロから引き剥がされた忌炎は、正気を取り戻したようだった。
まだその瞳は赤くぎらついているものの、再び襲いかかってくる様子はない。
「す、すまないカカロ・・・美味そうに見えて、つい」
「俺は問題ないが・・・今日ずっと、そんな調子だったのか?」
「いや、犬歯と爪が伸びたくらいで、他は特に何も・・・なかった、よな?」
忌炎は主観と客観の齟齬を危惧したのか、近くにいた兵に問いかけた。
問われた兵は頷く。
「はい。見た目の変化も、精神面の変化もありませんでした」
「そうだよな・・・だから、俺の症状はごく軽いもので、中途半端に龍にでもなっているのだろうと思っていたんだが・・・」
カカロは自身の首をさすった。
そこは、先ほど忌炎に嚙みつかれたところだ。そこそこの傷を負ったはずなのに、もう血は出ていない。
「龍というより、吸血鬼だな」
カカロが言うと、忌炎は口に手をあてた。
「さっきのことはよく覚えていないんだが・・・お前の血を飲んでしまった、よな・・・」
「ああ」
「不衛生だ・・・!」
元医者としては当然の感想なのかもしれないが、汚いもの扱いされたようでカカロは少し傷ついた。
唾液も精液もお互いに飲んでいるのだから、今更じゃないだろうか。
カカロがそんなことを考えていると、不意に忌炎が腹を押さえた。
「腹が減った・・・」
「それは・・・普通の食事で満たされる腹か?」
忌炎は食への関心がやや薄い男だ。普段は1食2食抜いたところでケロリとしている彼が、空腹を訴えるというのは珍しいことだった。
「どうだろう、わからない・・・」
忌炎は空腹からか、なんだかしょぼんとしている。
そんな顔をされると、カカロの中の親心・・・いや、兄心だろうか。ともかくそれが疼く。
今すぐ腹いっぱい食わせて、笑顔にしてやりたい。
「夕飯は食ったのか?」
「いや、まだだ」
「なら、ひとまず食いに行こう。ほら」
カカロが手を差し出すと、忌炎は少し恥ずかしそうにしながらもその手を取った。

*
「腹がいっぱいなのに、まだ腹が減っている・・・」
普段の二倍ほどの量をぺろりと完食した忌炎は、切なげに呟きながら腹を撫でた。
これだけ食べても満たされない飢えとなれば、やはりそれは通常の飢えではないのだろう。
「もう一度、俺の血を飲むか?」
「・・・それ、は・・・」
「死なない程度なら、俺は構わないぞ」
カカロの提案に、忌炎は逡巡した。
この飢えを満たせるのであれば、カカロの言葉に甘えたい。しかし、忌炎には危惧していることがひとつあった。
「・・・また理性が飛んだら、お前を殺してしまうかもしれない・・・」
そう口にしてから、忌炎はハッとした。失礼なことを言う奴だと思われていないだろうか。
しかしカカロは気にした素振りもなく、むしろ柔らかい笑みを浮かべていた。
「お前になら、殺されるのも悪くないかもな」
「・・・お前が死んだら、俺が悲しいから嫌だ・・・」
「冗談だ。本気にするな」
はは、と声を出して笑ったカカロは、忌炎の頭を軽く撫でた。
「部屋の外に兵を待機させて、デバイスで呼んだらすぐに突入してもらうようにするのはどうだ?」
「なら、最初から近くにいてもらえばいいのでは・・・」
「あまり人には見られたくない。さっきだって、妙な声を上げかけたからな」
「そうか、お前がそう言うなら・・・」
いよいよ空腹で頭がくらくらしてきた忌炎は、カカロの提案に頷く。
カカロは彼の手を取り立ち上がらせると、その体を支えながら部屋へと向かった。

*
ぢゅ、ぢゅる、という音が耳元で響く度、カカロは熱い息を吐いた。
ベッドの上で座っている彼に跨るようにして、忌炎は一心不乱に血を啜っている。
「は、っ・・・忌炎・・・」
カカロは忌炎の背をするりと撫でた。もちろん、性的な意図をもって。
忌炎はそんな不埒な手を、甘く咎めるように握り──がっちりと抑え込んだ。
「あっ」
カカロは慌てて忌炎の手を振りほどこうとしたが、びくともしなかった。
通常時であれば、全力を出せば何とかできるのだが・・・いかんせん、現在は周波数異常のせいで忌炎の筋力が増しているらしい。
カカロの体には相変わらず甘美な痺れが走っているが、もうそれどころではない。
忌炎はすっかり理性を飛ばしてしまったようで、血液を貪り続けている。そろそろ止めなければ、本当に失血死してしまうかもしれない。
「おい、忌炎!そろそろ離してくれ!」
大声で訴える。返事はない。吸血も止まらない。両手は掴まれたままだ。
影を呼び出し、近くにあったデバイスの操作を試みる。
しかし。
バキッ!と音を立てて、デバイスは破壊されてしまった。
「何だと・・・!」
カカロの耳元を、何か黒いものが横切る。
大きな蝙蝠のような姿をしたそれは、忌炎の力によって発現したものだろうか?
ともかく、それがもぎゅっと口内に入り込んできたせいで、カカロは声を出すこともままならなくなってしまった。
まずい。本当に殺される。
カカロは眩み始めた視界の中、部屋の扉を見た。
影が出現し、その扉を破壊する。途端に兵たちが室内に雪崩れこんできた。

*
「本当にすまない・・・」
医務室で輸血中のカカロに向かって、忌炎は繰り返し頭を下げた。
カカロは貧血でぼんやりとしながらも、首を横に振る。
「いや・・・俺が、変な下心を出したのが悪かった・・・」
「下心?」
「血を吸われると、そういう気分になるから・・・2人きりだったら、そのまま抱けるかと思って・・・」
「ああ、なるほど・・・その、すまない・・・」
忌炎は頬を赤らめながら、もう一度謝った。
今回の謝罪は、『殺しかけてすまない』ではなく、『期待に沿えずにすまない』というニュアンスがあったように思う。
「・・・それで、腹はいっぱいになったのか?」
カカロが問うと、忌炎は頷いた。
「ああ、おかげで満腹だ」
「そうか。それならいい」
残念ながら情欲を満たすことはできなかったものの、カカロの兄心は十分に満たされた。
腹が膨れたのなら、それでいい。飢えとは、ひどく惨めで悲しいことだから。
「埋め合わせくらいはさせてくれ。お前が元気になったら、何でもお前のしたいことをしていいから」
「太っ腹だな。その言葉、忘れるなよ?」
「・・・あまり酷いことはしないでくれると、嬉しいかな」
顔を赤くしながら目を逸らす忌炎を見て、カカロは笑った。
貧血から回復するまでに、そう時間はかからないだろう。それまでの間に、何をするか考えておかなければ。

その翌々日の朝。
周波数異常がすっかり完治した忌炎のうなじには、いくつかの赤い痕が散らされていた。
それを見た夜帰兵たちはみな、『カカロ殿って痕とか付けるタイプだったんだ・・・』という感想を抱き、生ぬるい心持ちになったとか。