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草枕
2025-02-04 01:09:49
995文字
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PBD
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PBD幕間
幕間2によせて
神が居るから信じるのではない、
神は居ると信じられる尊さを信じている狡い男は。
ケレウスは。
アビソリアに不在の神を信じている。科学で世界を解き明かすことを良しとしながら、人が己の信じるものを信じられることは尊いことと信じている。ギャンブルに於ける勘と、よく似ている。どんな無茶苦茶なベットだって赦される、あの一瞬の自由には、胴元と、全てのプレイヤーの慈愛さえ感じるのだ。
遺骸の一部、あるいはその服を、箱と浮きを以て天へと送る。それ自体に、意味はない。意味、いや、成果・得、もっと卑近に経済的利益にまで落とし込もうか。とにかく、『本来的にはするだけ無駄』な行動だ、とケレウスは考える。ああ、でも、しかし。死者ではなく、生きている人間にこそ、弔いは必要なのだ。身近な者の死の匂いを嗅ぐという、生物として甚大なストレスを発散して、社会性ある人間へと戻るプロセス。そこに『葬式』や『天送』が入るのがアビソリアのデフォルト──最近は『お別れ会』というラフなスタイルもあるという話──である。
無駄であるが、行われている。つまり、無為ではないのだ。意味がなくても、死者に何を与えられずとも、生者は自分勝手に、死者が安楽に眠る夢を祈る。ようやくそこに、生者の安寧が生まれるのだ。この、喪に服し、弔いをするという精神療法のアイテムの一端が、あの箱と浮きだ。
皆が集まって修復しているあの箱は、随分とボロボロだった。アビソリアを出た漂流物となれば、然もありなん姿である。それでも、海底都市の誰かの家族で、友人で、恋人の、魂のゆりかごだったのだ。安らかにあれと、願われて旅立ったのだ。
────そう慮ってしまった以上、どうして『本来的にはするだけ無駄』と思えるものか。届かない行為だと知って、それでも捧げた祈りが、やはり届かないという『当然』に、無情や悲しさを抱くことは卑怯だろうか。
綺麗になっていく箱を、遠目に見ていた。多くの乗客が、それぞれのできることをして、死者を悼む様を。
そうしてケレウスは、これまでの人生で天へと送った箱のことを、思い出した。あの箱と同じように、途中のこの地に着いて、さざれとなってしまったかもしれない、人を。
探索中に踏んだ地面の感触が、靴底に甦る。
細かく砕けた骨か、珊瑚の欠片は、再び踏み出せば両脚の重みで潰れるのだろうか。
そんな思いが消えるまで、席から立ち上がることができず、とうとうケレウスは箱の修復に加わらなかったのであった。
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