かいえ
2025-02-03 22:11:43
2435文字
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【蘭武】マジでクソカワなんだけど!【モデ蘭ちゃん番外編】

時系列的には、シリーズ6作目の「いつになったら仕事が終わんの?」(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21098139) の後です
無配本「マジでクソカワなんだけど!」版
2,432文字

 もう朝かなと言う感覚に、意識が夢の縁から浮き上がってくる。瞼を少し開けると超絶美形な顔が間近にあって、今日も完璧に綺麗だと武道は呑気に思っていた。眠りから覚めた武道に気が付いた蘭が直ぐに瞼を開けて、これ以上ないくらい甘い笑みを浮かべる。そのまま、当たり前のように唇を寄せてくる蘭を受け止めようとして、武道はダメだと思った。咄嗟に武道は顔を背け、蘭の口元を両手で押さえると「アァ?」と、毎朝のルーティンを邪魔された蘭が不機嫌な声を出した。しかし、いつものようにキスさせるわけにはいかなかったのだ。
「ナニ、拒否ってるワケ?」
「オレ、風邪引いたみたいっス」
 昨夜寝る前には喉の違和感を覚えていたが、疲れて薬を飲まずに寝てしまったのだ。そういう訳で、その違和感が喉の痛みとなって武道に襲い掛かっていたのだ。ただ、熱は無さそうだし、寒気も無いので薬を飲めば直ぐに治りそうな感じだった。
「マジ?」
「はい。喉が痛いから、しばらくキス禁止です」
 上体を起こしながら、昨夜身に着けていたバスローブを探す。周囲を見回して床に落ちているのを発見した。
「喉が痛いなら、風邪じゃなくて、昨夜鳴き過ぎたとかじゃねぇの?」
 ベッドに寝そべったまま、蘭が武道を揶揄うように言う。
「ち違うんでっ! そういう変な事言わないでくださいよ! マジで喉が痛いんですからね」
「軽いのは?」
「軽いのもダメですよう。蘭君に風邪を移したら大変なことになっちゃいますから!」

「同じ部屋で寝起きするのも不味いかもしれないですね。マネージャーさんに相談してみましょうか。オレは別の部屋に行った方が良いかもですね」
「ヤダ」
「え?」
「別々の部屋は却下」
 背後から蘭の腕が巻き付いてきて、首を絞められたような格好になった武道は「ぐえ」と、死にぞこないのカエルのような声を出した。ぎりぎりと首が締まって息が出来ない。武道は涙目になって、両手で蘭の腕を何度も叩いて、その腕の力を緩めて貰った。蘭の気持ちは苦しい程身に染みたので、別の部屋にする案は無しにする事にした。
 別の部屋案が却下になった事に安心した蘭は、けれども不貞腐れたままシャワーに行ってしまった。でも、バスルームに行く前に、ちゃんと二人分の朝食の注文をしてくれていたから、武道は蘭に愛されている幸福感でニヤニヤしてしまった。
 武道はクローゼットに向かい、日本から持ってきたカバンに入れっぱなしになっていた風邪薬の錠剤を取り出た。それをリビングの奥の冷蔵庫にあったミネラルウォーターで流し込んだ。本当は食後だけれど、一刻も早く治さなくてはと思ったのだ。それから、念の為に持ってきていた使い捨てマスクを着けて、蘭に風邪が移らないように予防する事にした。
 マネージャーさんの携帯に喉の件を伝えると、今日は大事を取って休むように言われた。優しい職場で良かったと思いながら終話する。じゃあ、着替えないで良いかとバスローブのままでいる事にした。
 蘭がシャワーを浴びて出てくる頃には、朝食はリビングに準備されていた。いつもは蘭の横に武道は座るが、今日は斜向かいの、更に二つ向こうの席に着いた。それだけの事で蘭の眉間に皴が入る。不機嫌な蘭は、極端に口数が少なくなるのだけれど、今がそんな状態だった。話しかけるなと言うオーラに全体が覆われている。
 そんな蘭の様子を伺いながら、このままだと、今日の仕事場で迷惑かけるんだろうなと武道は危惧していた。どうしたら蘭の機嫌が治るだろうかと武道は思案した。蘭が喜びそうな事を考えていて、一つだけ武道がどうしても嫌で断っていた事を思い出した。
「蘭君」

「蘭君、ずっと前にお揃いのピアスをしたいって言ってくれてましたよね?」
それが?」
「オレもしたくなりました」
機嫌取りかよ」
 ムスっとしたまま蘭が呟くように言う。これはかなり機嫌を悪くしていると武道は不安になった。自分のせいで蘭の仕事が上手くいかなかったりしたらと思うと嫌になるのだ。
「ダメですか?」
 思ったより効果が無かったのかとがっかりして尋ねると「ダメじゃないけど」と、満更でもなさそうな 反応をしたから、武道は少し手応えを感じていた。
「穴開けるの怖いんじゃなかったっけ?」
怖いのは今も怖いっスよ?」
「そんなにオレの機嫌が取りたいの?」
「はい、取りたいです。だって、格好良い蘭君見たいですもん」
「ハナガキは格好良いオレが見たいんだ」
「はい、見たいです」
「そっか」
「はい!」
「じゃあ、格好良くなっちゃおうかな」
「ふふ。今でも十分格好良いですけどね」
キスしてェ」
 武道は寝室のクローゼットに走っていき、もう一枚使い捨ての黒いマスクを持ってきた。蘭の横に座って、蘭の口元に着けてやる。口をマスクで隠した蘭は、ミスタリアスさが増して、恐ろしく格好良い。一千万分の一の確率でしか現れない稀有なヴァイオレット・アイが宝石のように煌めいて吸い込まれそうだった。目は口ほどに物を言うと言うけれど、本当にそうだと武道はうっとりとした瞳で見上げた。美術品のように価値のある蘭の髪に、こんな風に愛おしさに溢れて触れられるのは、世界広しと言えど自分だけなのだと思うと、武道はふふっと笑いたくなった。それから、武道の好きにさせている目の前にいる美形の口に「一回だけですよ」と言って、マスク越しにキスをした。唇の間にある紙の繊維が唇に触れて擽ったいと思った。蘭の唇のしっとりとした温かさに昨夜の余韻がざわめき、蘭の唇がマスクごと下唇を食んでくる。
「続きは治ってからです」
 雰囲気に流されそうになっていた自分に叱咤しながら、そっと蘭から身を離した。物足りないという表情の蘭の耳元に「今日は蘭君の事だけ考えてベッドで待ってますね」と囁くと「マジでクソカワなんだけど!」と、蘭にぎゅっと抱き締められた