みずあめ
2025-02-03 21:20:40
3581文字
Public brmy
 

ゆづあい

好き勝手設定で好き勝手書いてます。だいぶあいゆづ寄りな気がするのですがこの後セッするとしたらゆづあいになる二人なのでゆづあいだと言い張らせていただきます。

社会人になって、初めて行ったゲイバーで出会ったのが、逢さんだった。
それまで自分の性的嗜好を誰かに話したことも気が付かれたこともなく過ごしていた俺にとって、誤魔化すことなく好きなことについて話せる時間はとても楽しくて、お酒で気が緩んだこともありほとんど一人で喋り続けてしまった。それなのに逢さんは遮ることなく最後まで話を聞いてくれ、帰りは俺の分の会計もまとめて支払うと連絡先も交換せずに俺を駅まで送ってくれた。
ネットの知識だけでこういう場所では知り合ってすぐホテルに行ったりすることもあると思い込んでいたから、逢さんのその振る舞いはとても大人っぽく、魅力的で、もう一度会いたいと思うには十分すぎるほどだった。
間を空けずに店に行くのはどうにも躊躇われ、だけどもう一度逢さんに、名前しか知らないあの人に会って、今度は自分の話ばかりではなく逢さんの話も聞きたくて、結局俺はそれから一週間後に同じ店へと足を運んだ。
「いらっしゃいませ。あれ、逢、あの子」
「! 逢さん……!」
扉を開けて店内へ入った俺はカウンターに座る逢さんを見つけてすぐに彼に駆け寄った。逢さんは一瞬だけ驚いたように目を丸くし、すぐにふわりと綻ぶように表情を緩めた。
……また会えたな、由鶴」
「こんばんは、由鶴くん。今日は何を飲む? 逢が奢ってくれるから高いやつ頼んでもいいよ」
「吏来さん」
「はは、オーケー、ちゃんと仕事しますって。名前呼びもダメ?」
「ダメです」
「あ、あの」
「うん?」
「お隣、いいですか……? 他の人が来る予定とかなければ……
「もちろん。おまえのために空けていた」
「ひゅー」
……吏来さん」
「あはは、ごめんごめん。注文決まったら呼んで。邪魔者は向こうに行ってます」
ひらりと手を振って他のお客さんの方へ行ったバーテンダーの格好をした店員さんにぺこっと頭を下げ、俺は逢さんの隣の椅子へ腰掛けた。
逢さんに会うために来たけれど会えるかどうかは賭けみたいなものだったから、また会うことができて心臓がドキドキしている。店員さんが置いて行ってくれたドリンクメニューをチラッと見ただけで、我慢できずに隣へ視線を向けた。
「ん? 決まったか?」
……前回、ご馳走になったのにちゃんとお礼もできずにすみません」
「俺が払いたくて払ったんだ。気にするな」
「今日は俺が逢さんの分も払うっていうのは」
「だめ」
……でも」
「かっこつけさせてくれ」
……奢ってもらわなくても、逢さんのこと、かっこいいと思ってます」
…………由鶴、確かこの前聞いた話では、彼氏ができたことはないと言っていたな?」
「はい? そうです、誰にも自分がそうだと言ったことがなかったので」
「彼女は?」
……彼女は、一応、ちょっとだけ。本当に女の人じゃだめなのかなって確認……って言ったら、失礼ですけど、でも実際自分が好きになるのは女の人じゃないんだなって分かってすぐ別れてしまいました」
「告白されて試しに付き合ってみたってことか」
「そんな感じです。悪いことしちゃったなと後悔してます」
「それならもし男に告白されたら、試しに付き合う可能性はあるか?」
「え? ……そう、ですね……どうだろう。……その相手との関係性によると思いますけど、可能性はあるかな……
「わかった。それなら良い。それで、飲むものは? 決められそうか?」
「あ、すみません、今すぐに。……えっと」
どれにしようかと迷っていると、横から手が伸びてきてすっと一つのメニューを指差した。
「いま俺が飲んでるのはコレ。クセのない味だから飲みやすい」
「あ、……えっと、赤ワインですか?」
「ああ。ワインは苦手か?」
……すきです」
「それなら、おすすめ」
唇が横に伸びほんのすこし口角が上がる綺麗な微笑みに、心臓を撃ち抜かれながらなんとかこくんと頷きを返した。逢さんはそんな挙動不審な俺を気にすることなくすぐに顔をむこうへ向けてしまい、先ほど話をしていた店員さんに俺の分の注文をしてくれる。ありがとうとかすみませんとか、いつもは癖のように飛び出す言葉も出てこないまま俺はただその横顔を見つめた。
注文を済ませ店員さんが離れてから逢さんはまたこちらに顔を向け、俺と目が合うとふっと表情を緩めた。店の照明は明るすぎないように絞られていて、暖色の淡い光がその瞳をロウソクの炎のように温かく輝かせる。
「今日は、俺に会いに来たのか? なんて」
「そうです。……だめ、でしたか?」
……いいや、だめじゃない。俺も会いたいと思っていたよ。この間は格好つけてすぐに返してしまったのを後悔してた。連絡先くらい交換すればよかったってな」
「連絡先、聞きたいです。逢さんさえよければ」
「いいのか? この間も今日も、他のやつと全然話してないだろう。もしかしたらタイプの男が他にいるかもしれないのに」
「でも、逢さんと話すの楽しかったですし、今も……。それとも、他の人と話してきた方がいいでしょうか? そっか、逢さんも誰か素敵な人と出会えるかもしれないのに、俺がいたら邪魔ですよね……
初めて話した相手に勝手に親近感を覚えて懐いてしまっているけれど、よく考えればここはそういう人たちが相手を求めてやってくる場所だ。前回ただ話しただけで連絡先も聞かれずに帰された俺は、逢さんに相手にされていなかった、という可能性もあったんだ。会いたいと思っていたと言ってくれた逢さんの言葉を信じたい気持ちはあるけれど、あまり甘えてばかりいてはいけないのかも……
「ちがう、まて、由鶴」
頭の中でネガティブな方向へ思考を巡らせていたことを見抜いたように、逢さんは俺の方へ身を乗り出して顔を覗き込んでくる。俺は自分が俯いていたことに気がつき、ハッと顔を上げた。
「悪い、いじわるな言い方だったな。おまえみたいなタイプは初めてで、どう口説けばいいのか分からないんだ。他の人となんて話さなくていい。由鶴の相手は全部俺がするし、俺もおまえ以外と出会いたいなんて思っていない。……由鶴が、嫌じゃなければ、の話だが」
……やじゃないです。今日、本当にあなたに会うために来たんですよ。逢さんがいなかったらどうしようって少し不安だったくらい」
俺がそう言うと強張っていた逢さんの顔が安心したようにほっと緩んだ。その可愛らしい表情の変化に思わず手を伸ばしかけたところで、「おまたせしました」とテーブルの上にワイングラスが置かれて二人して勢いよく顔を上げる。店員さんは俺たちを交互に見た後ふっと笑い、ウインクをしてすぐに離れて行った。
……乾杯するか、とりあえず」
「は、はい。……逢さん」
「ん?」
「かっこつけなくてもあなたはとても魅力的です。だから連絡先も聞いてほしいし、……って、頼ってばかりじゃダメですね。……連絡先、教えてください。それと、よければ今日はこの後もう一軒二人で行きませんか?」
……よろこんで」
カランと心地良い音を立ててグラスを合わせる。逢さんのおすすめのワインはルビーのような美しい色で、ほんの少しだけ甘くしっかりした味わいだった。一口飲んで「おいしい」と呟いた俺に逢さんが「よかった」と言って優しく笑った。
「今日も由鶴の話をたくさん聞かせてくれ」
「ふふ、だめです。今日は逢さんの話を聞かせて」
「俺の話?」
「はい。そういえば店員さんと仲が良さそうでしたけど、ここにはよく来るんですか?」
「ああ、吏来さんは、あの店員は昔からの知り合いなんだ。だからここに来るのもあの人と話に来るってだけで、何人か顔馴染みはいるけれどそれだけだ」
……吏来さんが、好きなんですか?」
…………そんなに鈍い方だとは思わなかった。吏来さんはお世話になった人ってだけ、恋愛感情はない。いま俺がそういう目で見てるのは、由鶴、おまえだけだ」
「え。……で、でも、まだ二回しか会ってないのに」
「おまえは、どうして俺に会いに来てくれたんだ? 一回話しただけなのに」
……それは、……あなたのことが、気になって」
「ああ、俺も、おまえのことが気になってる」
……
「もし俺のすることで嫌なことがあったらすぐ言ってくれ。でもただ照れてるだけなら、そのまま俺だけ見ていて。遊びなんかじゃなく本気で口説くから」
……
「ふ」
まだ少ししか飲んでいないのに熱い頬を逢さんが指先で撫でて、その瞳をやわらかく細めた。ドキドキする心臓を服の上からぎゅっと押さえつけてその視線を受け止める。
好きになっても良い人にときめくのが楽しいだけ、なんかじゃない。この人と出会うために今まで一人でいたんだって考えてしまうくらい、逢さんと過ごす時間が毎秒輝いていた。