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だま
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エムルク
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幸せな孤独
エムルク。
ifの話。リッチダムルート/非ロマンス
⚠️エムリックの個人イベントのネタバレ有り!
「大共同墓地へ戻れば会えなくなるな、ルーク」
不意にそう言われ、ルークは読書の手を止めて顔を上げた。
エメラルド色の炎が一対、こちらを見つめている。そこにかつてあった優しい瞳を思い出しながら、彼は微笑みかけた。
「そうだな。寂しくなるけど俺は下級職員だからしかたない。マーナとヴォルゴスもあまり会えなくなるんだろう?」
「そうなるだろうな」
エムリックの現在の立場を考えれば、今こうして共に行動できているのが奇跡的なくらいだった。彼はもう普通のモーンウォッチャーではないのだから。
リッチダムの儀式は成功した。エムリックはもはや人ではない。彼は彼の望みをついに叶えたのだ。
そして、マンフレッドのいなくなった部屋はがらんとしている。あれほど取り乱していたエムリックも、リッチダムになってからはマンフレッドの死をすでに「そういうもの」として捉えているようだった。当然のことかもしれないが、その変化が少しばかりルークには寂しい。
エムリックにじっと見つめられている気がして、ルークは本を閉じた。
「お前はリッチダムになりたいと思わないのか?」
「思わない」
魂が体に縛りつけられてしまうと思うだけで恐怖を感じる。死してのちに行くべき場所はフェイドで、そこに至ってようやく人生という名の旅が終わるのだ。
確かに長い時をかけて共同墓地を管理し、ありとあらゆる魔道書を読んだり、フェイドの探索ができるのはすべてのウォッチャーの憧れだろう。だが、ルークの魂はいつも理性よりも強いところでフェイドに結びついていた。たとえエムリックと離ればなれになるとしても、不死を選ぶことはできない。
エムリックは表情の読めない骸骨の顔をルークから背けた。
「
――
ならばもう会うことはないかもしれない」
「エムリック、会えなくなっても俺たちのこと忘れないでくれよ」
返事はなく、エムリックはただ静かに佇んでいた。
・・・
死者への祈りが岩壁に鈍く響いている。多くのウォッチャーたちが神妙な面持ちで儀式杖を持ち、死したる同僚への敬意と嘆きを表明していた。
ウォッチャー・ルークの葬儀は、故人の階級に見合わず大勢のウォッチャーが参列していた。風変わりなウォッチャーは年を経ても階級を上げることを望まず、ただひっそりと墓地を守り、生涯を通じて生徒たちを導いていたようである。
エムリックは写し身をまとい、彼らの列に紛れ込んでいた。昨日届いた連絡は、数十年ぶりにエムリックに大きな打撃を与えた。
――
ルークが逝去した。明朝葬儀を執り行う。
伝言を繰り返して動かなくなったスケルトンを見下ろし、エムリックは困惑した。
ルークが死んだ?
なぜだかずっとルークは生きていてくれると思っていた。だが、思い返せばあれからもうずいぶんと長い年月が経っている。亡くなってもおかしくはないだろう。
そうわかっているのに、エムリックはしばらく思考することも、動くこともできずに立ちすくんでいた。ルークに会えなくなるのが嫌だと、だからリッチダムになってほしいと言えず、黙って佇んでいたあの時のように。
いや、それよりもずっと前に自尊心を捨てて、思い切って想いを打ち明けていたら彼を喪わずにいられたのだろうか。
どれだけ考えてもルークは戻ってはこない。
列を上手く抜け出して棺の傍に近づくと、そこには昔なじみの同僚が立っていた。
「エムリック」
「
……
ヴォルゴス、変わらないな」
「お前に遺言がある」
ヴォルゴスに呼ばれて若いクナリのウォッチャーが走り寄ってくる。彼女は赤く泣きはらした目でエムリックをちらりと見て、ヴォルゴスから遺書の最後を読むように促された。
「私の遺体はエムリック・ヴォルカリン教授に献体する。彼が受け取りを辞退した場合、もしくは葬儀後一年以内に現れなかった場合は墓地を守るアンデッドの器として利用するように
――
もしかしてこの人がヴォルカリン教授ですか?」
「そう、彼だ。遺言を聞き入れるか?」
「ああ、受け入れよう」
エムリックの表情があまりにも冷徹すぎたのか、ルークの生徒は疑心を抱いたようだ。彼女は棺に視線を向け、再度エムリックを見やる。
「いくら遺言とはいえ、先生のお体を知らない人に渡すのは
……
」
「私は彼の古い友人だ」
「本当ですか?そういうことなら、ええ。でも、必ず手厚く埋葬してください」
エムリックは大股に棺へ歩みより、跪くと、眠るルークの頬をそっと撫でた。
「何よりも大切に扱おう」
遺体と内臓壺はエムリックの玄室へ丁重に運び込まれた。エムリックはそわそわと落ち着かない気持ちで準備を整え、ルークを包む埋葬布を慎重に解いた。
リッチダムになったエムリックには、ルークの遺骸に残ったマナの痕跡がよく見える。もうすでに彼の冷たい魔力の源は去っていたが、それでもあちこちに残り火を宿している。その痕跡がきらきらとした星空のようにまばゆい。
布越しではなくエムリックも骨をさらけだし、ルークの硬直した肌に指先を滑らせた。椰子の繊維と石けんで再度隅々まで洗い清め、愛撫するように香油を塗りこんでいく。
「やっと会えたな、ルーク」
会いに行こうと思えば会えたのだが、エムリックはそうしなかった。それがリッチダムとしての矜恃ゆえだったのか、それとも期待した反応が得られないのを恐れていてそうしたのかはわからない。ともあれ今は、こうして再会できたということが、エムリックを慰めてくれた。
用意していた薄紫の絹で包み直すと棺へ安置し、自身が嗅ぐことのできない香を焚きしめた。ネヴァラでは埋葬前の魂は体の傍に付き添っていると考えられている。エムリックに魂は見えないが、それでもここにルークがいてくれるのならばと思わずにはいられない。
燭台に火を灯し、集めてきた白い花を棺の周りに敷きつめる。これから何日もかけて虫や大気が彼の肉を食み、真白い骨に変えていくだろう。
埋葬されぬ死者が気になったのか、ウィスプたちが集まってきた。中へ入りたいとささやいている。
「彼は私の物だ。立ち去れ」
鋭く追い払われ、ウィスプたちはそそくさと散っていく。
自分の言葉に驚きつつも、己の奥深くにあった望みにようやく気づいた。
「言うのがずいぶんと遅れてしまったが、お前は聞いてくれるだろうか」
エムリックは恋人へ乞うように優しく、極めて善良に、口づけのようなものを死者に捧げた。
リッチの王は自身のうちに熱い炎を感じていた。あるはずのない心臓が脈打ち、全身に煮えたぎる命の流れを運んでいるようだ。
「愛している、ルーク。これからはずっと一緒にいよう」
深く沈んだリッチの王の寝室で、香の煙が微かに揺れる。机の上に留め置かれた個人宛の遺言書が風にはためき、地に落ちた。
――
エムリック、まだ俺のことを覚えているだろか。あれからずいぶん時間が経った。俺はもうすぐ死ぬだろう。
もしお前の体に修繕が必要な時は俺の骨を利用してくれ。魔道士の骨は特にマナの伝導率が高いので役に立つと思う。
いらないなんてことはないよな?いらない時はウィスプの器にでもしてやってほしい。
本当は会って昔の礼を言いたかったが、こうして書面で済ませる無礼を許してほしい。あの時は本当にありがとう。そしてさようなら。
ウォッチャー・ルークより
のちに共同墓地のウォッチャーたちの間で交わされる噂に、ある話が加わった。
共同墓地の地下深く、秘匿された地を、頭蓋骨を抱えた老齢のウォッチャーがさまよっているという。彼はかつて古代の神々を打倒した著名なウォッチャーだとも、実はアンデッドなのだとも言われていたがたったひとつ、どの噂も一貫してこう伝えていた。
彼はとても幸福そうに見えた、と。
おわり。
(ネヴァラでは埋葬前の魂は〜の件とか完全に捏造です。エジプトの昔の風習を参考にしています)
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