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叢雲
2018-09-30 08:30:57
1388文字
Public
自宅覚者(DDON)
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半分この温かさ
自宅覚者とジリアンの何でもない話し。
「はい。温もり半分こ」
そう言ってラルスはジリアンに焼きたてのパンを半分にちぎって渡した。朝焼け。砦の外壁の上から眺める空の美しさとは裏腹に未だ夜の空気を漂わせる風が頬を撫でる。いくらオーク軍を撤退させたとて辺りにはまだ敵が彷徨き此方の手勢も多くはない。したがって見張りは交代で24時間休みなく行われている。こんな朝早くにジリアンがここにいるのもそういう理由だった。そして突然目の前に降ってきた温かなパンを受け止めながら彼女は驚いた表情をする。
「朝食には早過ぎる
…
って。それより何?その言い方」
ラルスは手元に残ったパンをかじりながら、向けられた不服そうな顔に微かに笑う。
「変か?」
「うん。全然似合わない」
「そうか」
ジリアンの言葉通り、ラルスは髭を生やした壮年の男性だ。厳ついわけではけしてないものの、いい歳したおじさんに可愛らしい言葉は似合わない。
「でも。ありがとう」
フッと柔らかくなったジリアンは微笑み、手袋を外した手で小さくちぎってパンを口に運んだ。ジリアンは男勝りに見えて、その実とても素直なだけの女性だ。それが男っぽく見えるような言動に繋がっているにすぎない。さっきの言葉にしても悪気はなく、素直に感想を口にしただけ。そこが彼女の良さでもあった。ラルスもそれを十分に承知している。
「ま、似合わないのはしょうがないな。元々俺の言葉じゃないんでね。勘弁してくれ」
ラルスは苦笑する。そこに、ふーんと向けられた彼女の眼差しに興味有りげな色がありありと滲み出ていて、本当に素直な子だなと心の中で呟いた。
「
…
昔、ある人に言われたんだよ。焼きたてのパンを半分くれて。彼女曰く、お腹が空くと心も痩せるんだそうだ。ここに顔を出す前に食堂を通りかかったら、たまたまパンが焼けててな。それで思い出したってわけだ」
話して聞かせると今度は質問してきた。
「その人って、隊長の大切な人?」
「そう見えた?」
「うん。見えた」
「そうか」
ラルス自身はいつもと変わらない態度で話したつもりだったのに、どうしてこういう時の女性の直感とはこうも凄まじいのだろうと思う。間違っているわけでもないので否定しないでいると更に質問が来た。
「隊長はその人のために戦っているの?」
この問いにラルスは微妙な間を開けて答えた。
「半分正解で、半分ハズレかな」
「よくわからないんだけど」
「う~ん
…
俺はその人の生きる世界は守れるけど、その人を守ってやれないからな」
どう答えたものやらと頭を掻きつつ言葉を紡ぐ。竜の力を獲て世界に害なす者と戦う一方で、好きな人1人傍らで守る事の出来ない自分。その滑稽さに、どうにも言い淀んでしまう。
するとそんな答えにジリアンは、きょとんとこう聞き返してきた。
「それ、違いがわからないんだけど」
ラルスにとって、それはあまりなも予想外の答えだった。予想外過ぎて、思わず笑いが込み上げた。
「え?な、なんで笑うの?」
そんなに自分は変な事を言ったのだろうかと狼狽えるジリアン。ラルスはその姿に更に可笑しくなる。
「ジリアン。俺はキミのそんな所が好きだよ」
尚も笑うラルスにジリアンは
「こんな状態で言われても嬉しくない!」
と声を上げた。ジリアンの顔を赤らめた様子はなかなかに可愛いが、女性にはパンの思い出を語るのは今回で最後にしようとラルスは決めた。
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