こゆ
2025-02-02 21:48:53
3783文字
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両手にトリカブト

※七武海時代にモブ海軍将校が見たサラダペンシャチをはべらかすローさんの話(ローさんはただの保護者でペンシャチ女体化で百合です)
※ペシャ先天性にょたゆり注意⚠️



無断転載禁止AI学習禁止です(こゆ)




両手にトリカブト



とある島の海軍支部では、これまでにない張り詰めた空気で満ちていた。なぜなら昨日まで平和そのものだったこの島は今、ハートの海賊団との取引場所になってしまったからである。
ハートの海賊団の船長トラファルガー・ローが王下七武海に加盟したのはまだ記憶に新しい。その男は海軍にとって、謎の多い存在であった。ロッキーポート事件の首謀者とされ、100人の海賊の心臓を奪った極悪人。死の外科医との異名と、手配書を彩るミステリアスな美丈夫の姿。あの戦争以来、密かに最悪の世代をアイドルや崇拝の対象にしている海兵も少なくない。
興味はない、所詮海賊だ、などと口では言っていてもこんな辺境の島に七武海なんて大物は滅多に来ないのだから、対面を数分後に控えて緊張してしまうのは海軍将校と言えども人間なのでしょうがない。
任務内容は本部より電伝虫で聞いており、ある奇病に関する報告書をトラファルガー・ローから受け取るだけだ。ただ、それだけ。何事もなく、毅然とした態度でいれば自分にも部下にとってもなんら心臓を取られるような事にはならないはずだ。
ハートの海賊団と対峙する任を負った少佐の階級を持つ男は、無理矢理笑顔を作ってその先頭に立った。そして背後に従えた一般海兵各々からは緊張感、動揺と恐怖、そして得体の知れない相手への不信感が漏れ出ている。
しかし、待ち合わせ場所にいたのはひとりの女であった。手配書には出ていないが、ハートの海賊団のクルーなのだろう。シャチの形をした帽子にサングラスを付けていて、着ている服はハートの海賊団の資料にある通りの揃いの白いツナ姿。いや、性格には白いツナギを腰に巻き、上半身は黒のタンクトップの開放的な姿である。たわわな胸がこれでもかと強調されており、大きく開かれた胸元があまりにも無防備だった。
部下達も色めき立ち、緊張感はどこへやら。口々に勝手なことを話し出す。まるで、ストレスを発散するかのように。

「なんだァ?トラファルガー・ローのイロか?」
「ヒュー!なかなかそそるじゃねェか!アレを奪ったら俺も大出世か?ぎゃはははっ」

下世話な話題で一般兵どもがゲラゲラと笑う。女ひとりの状況に完全に空気がゆるみきっている。その下品な声が聞こえているはずなのに、その女はこちらにニコッと微笑んだ。潮風に揺れる明るい髪が、太陽の光と溶け合ってキラキラと瞬く。

ハートの海賊団の船員で間違いないとは思うが、これは、憚られたか?
女に一歩近づこうとしたそのとき。



「お前らごときに扱えるタマじゃねェよ」

耳に残る独特な低い声に振り返れば、すぐ後ろに待ち人トラファルガー・ローがいつの間にか現れていた。そして、ハァっと大きなため息とともに半眼で睨みつける。その手に刻まれた “DEATH” の文字。太陽の光りに負けない金色に光るその瞳は、不思議な輝きをして人を魅きつける。伺い見るその仕草に、将校の後ろから下品な鳴き声をあげていた部下達が騒めく。
やはり、トラファルガー・ローの女なのだろうかと納得しかけたそのとき。

「やだなァ、ローさんそのまま気配消しててくださいよ。せっかくゴミ掃除しようと思ってたのに。なんで声かけちゃうの」

ローの横からすっと一歩前に出た新手の女。
太陽の光を浴びているのにまるで陽の気配がしない、白のツナギにすべての色が吸い込まれていくようで。頭にペンギンと書かれた帽子を被った女。先ほどの明るい髪の女とは対照的にツナギをきっちり着込んでいるが、はち切れんばかりの胸元がなんとも言えず艶めかしい。そして、隠す気のない色気と殺気にゾワッと鳥肌が立つのを感じた。
将校がはっと我に帰り、チャラチャラと女をはべらかしてその場に現れたトラファルガー・ローに避難の声を上げようとしたそのとき。
世界が一転する音がした。

「ねえねえ、誰の何を奪うって?」

ペンギン帽子の女が抱えていた槍を持ち直したかと思えば、地面を蹴り、背後の部下へ見えない一撃。
率直に言えば、槍を持ち替えたとこまでしか見えなかった。

その女が自分を飛び越えたと気づいたのと、下品な会話をしていた部下の男が持っていた銃が床に落ちる音がしたのはほぼ同時だった。振り返れば、銃を失い、脚を払われて地に沈み、その首に槍の先端を突きつけられた部下がいた。

「ねェキャプテン、機密書類なんてこんなカス共に託さなくても私が直接届けて来ますよ。だからさ、シャチのこと気持ち悪い目で犯したコイツ殺していい?」
「ペンギンだめだ。その辺にしておけ。すでにこちらも利を得ている状況だ。波風を立てるな。しかも黙ってひとりで乗り込んで行ったら置いてかれたってシャチが泣くぞ」
「それはだめですね。わかりました」
「何に対してのわかりましたなんだ?」
「“シャチが泣く”」

スンっとした無表情でさらりと答えたペンギンと呼ばれた女。それでも部下の首に尚以て兇器を突き付けたままだ。
武器を奪い、動きを止めて、息の根を止める。最後は未遂だが流れるようなその動きに周りが息を呑む中、ペンギンに近づく者がいた。明るい髪にシャチ帽子の女。
キラキラとした笑顔で。
甘ったるい声をだした。

「ペンギンかっこいい〜♡」

躊躇なく海兵に囲まれたその場に出てきて、ペンギンのその頬にちゅっとキスをした。注目を集めたまま。自身の帽子を外して「あちー」なんて言いながらパタパタと胸元を仰ぐ。
そして、トラファルガー・ローを見た。

「ねぇキャプテンこの島暑過ぎ〜。ね、コレ終わったらあたし水着買いに行きたい!ペンギンに似合いそうなビキニ見つけたのさっき。キャプテンのも選びたい!」

この女、状況分かってるか?
それはそこに居合わせた海兵全員の総意であった。
肝が据わっているのか、空気読まないだけなのか、馬鹿にされているのか。将校は呆れてトラファルガー・ローの様子を伺った。しかし、その表情は簡単に読めるようなものではなかった。

ペンギンは槍はそのままに、深いため息を吐き出した。まるで子供にするように叱りつける。
「ちょっとシャチ、アンタも聞こえてたでしょ?危機感持って」
「ええ?そんなん危機にぶち当たってからぶっ飛ばせば解決じゃん……ローさんペンギン何怒ってんの?生理?待ち合わせに二人揃って遅刻しといてひどくない?あたし一番だったじゃん」
シャチはむぅっと頬を膨らましてパッとペンギンから距離をとるとトントンっと地面を蹴って海兵たちを飛び越えると今度はトラファルガー・ローの腕に絡みついた。
「遅れたのは悪かった。薬屋が混んでたんだ。あと、生理はまだ二、三日先だろ」
トラファルガー・ローの言葉に、海兵達の時間は止まったままで、誰一人動けなかった。
「そーなの?」
「だいたいおまえら一緒だろ。いい加減に自分で把握しろ」
「キャプテンに聞くからいいもん」
そう言って女はへらって笑った。
「で、どうするんですか?この人達にコレ渡すのやめたんです?」
ツナギの下半身からごそごそと書類の束を出す女に、今度はトラファルガー・ローが深いため息をついた。

「いや……
そして、こちらを向いた瞳からは何も読み取れず、敵意があるのかないのかも伺わせてもらえなかった。
「部下が失礼を働いた。知っての通りこちらはただの護衛用の装備だ。武器を持って戦闘する意思はない」
将校が一歩前へ出て、形ばかりの挨拶と謝罪をする。
まずは場を治めなければ。
ここで、ハートの海賊団とやり合う気はない。
自分の命も部下の命も大事だ。
「こちらも戦闘の意思はない。まァ、こちらから手を出したという認識もないが。アレじゃあどちらが海賊かわかったもんじゃねェな」

トラファルガー・.ローの言葉に内心イラついたものの、海賊相手とは言えこちらが先に非礼を働いたのは確かだと将校は言葉を飲み込んだ。トラファルガー・ローの近所の悪ガキのような表情と物言いに、腹が立たなかったわけではないが。繰り返すがこちらに非があるのは明らかだ。

相手がやり過ぎたかどうかは別として。

その一言は飲み込んだ。
一刻も早く任務を達成して、基地に戻りたいとさえ思った。理解が追いついていない。


その後、速やかに書類を受け取り海兵達は解放された。ペンギンはただの一言も謝罪は口にせず、とんっ、とその地面を蹴り軽々空へと跳躍するとそのままローの横へと着地した。殺気立った気配は変わらず、今にも噛みついてきそうな姿勢のまま。

「帰るぞ」
「キャプテン水着見にいこ♡」
「その前に運動して疲れたからかき氷食べたい♡」

トラファルガー・ローの腰に女ふたりが抱きつくよう絡みつき、トラファルガー・ローはそれを当たり前のように歩き出した。
しかし、海兵たちは見てしまった。
去っていくトラファルガー・ローの両サイドを固める女たちが、ローの腰に回した手を互いに取り合っていることに。指と指を絡めて、そして。

女たちは同時に振り返ってこちらに中指を立てた。そのまま、ふたりは触れ合うだけの軽いキスをしたのだった。

まるで、見せつけるかのように。










【了】