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倉木
2025-02-02 18:56:30
2988文字
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IDW レオドン
IDW レオドン +Lita
#110 前後あたり
地下の下水道で暮らしていたレオナルドにとって家という定義は通常の人間が持っているものとは異なる。
雨や雪を受け止める雨も、朝を知らせる日差しが見える窓もない。
しかし外と言える場所から帰った時の安心感と安らぎを与えてくれる場所なら知っていた、少し曖昧なものではあるがそれをまさしく家といえよう。
その価値観は変わらないけれど遠くから見える家の窓から覗く灯に知らず深い息が漏れた。
昔よりもずっと大所帯になった家からは外まで漏れ出してくる笑い声。
それは帰り道下水道を曲がる直前に弾けて聞こえたそれと良く似ていた。
なんだ、同じことなのかと今になってレオナルドは腑に落ちる。
今思えばエイプリルの家に居た時もそうだったのかもしれない、気付けなかったことを今更勿体なく思った。
玄関の扉を開けると冷気ができるだけ入らないよう素早く閉める、今日は一段と冷える日だと聞いていたからその方がいいだろう。
外まで響いていた笑い声はミケランジェロのものだ、彼の声は壁すら容易に貫いてしまう。
そんな中、一際軽い足音と共に暗がりから小さな塊が飛び出した。
その白い亀はレオナルドを見るなりぱっと顔を輝かせる。
「レオ、おかえりなさい!」
「ああ、ただいまリタ」
膝をつき、最近増えた家族である白い少女を望むままに受け止める。
子ども特有の柔らかな感触はつい潰してしまいそうで扱いが難しいが、最近はある程度力加減ができるようになってきた、と思う。
しかし直後レオナルドから離れたリタは目をぱちくりとさせていた。
「
………
え」
口元に手を当て何かを考え込む様は実に愛らしいのだが、レオナルドに抱き着いてからの出来事に首を傾げてしまった。
思ったより力が強かっただろうか、レオナルドが何かを問いかける暇もなくリタは走り出してしまう。
追いかけるべきかと戸惑っている間にも少女が消えた向こうから階段を上る音が聞こえた。
何やら聞こえる話し声と、階段を降りてくる足音はふたり分だ。
「あれ、おかえりレオ。ちょっとリタ、歩けるってば」
驚いた顔をしているドナテロが現れる。
セーターを強く引っ張られているせいで上半身は屈み、服がずれて肩口が見えていた。
そんなドナテロに気にもせずリタはレオナルドの元にドナテロを引きずっていた、亀に変異したせいか彼女は案外力が強い。
「早くレオを治してあげて」
「
……
え?」
つい声をあげたレオナルドに、まっすぐアルビノの瞳が見上げた。
「だって血の匂いがするもん」
思わず指先が動いたレオナルドをドナテロは見逃さなかったらしい。
「リタ、レオは僕がなんとかするからもう安心していいよ。そろそろ寝る時間だ」
ドナテロに頭を撫でられ安心したらしい、一度ドナテロにハグをするとぱたぱたといなくなってしまった。
どことなく居心地が悪いレオナルドにドナテロは肩をすくめて先に背を向けた。
「そんな迷子みたいな顔しないでさ、先に治療しようか」
部屋主に次いで訪れたドナテロの部屋は整頓されているものの、先ほどまでいたらしいテーブルとパソコン周りは物が散乱している。
着ていたコートをかけているあいだドナテロが持ってきたのは生活感漂う部屋に仕舞われていた救急箱は見知ったものだった。
「傷見せて」
こうなると隠す理由もない、レオナルドは上半身の衣服を脱いだ。
右ひじに描かれた裂傷は簡易的に巻かれた包帯がずれてうっすらと血の跡が見える。
ちょっとした道端の小競り合いだった。
激昂したミュータントの住民が持っていたナイフを捌く手つきがあまりにも拙いせいで対処に一瞬でも迷ったレオナルドの油断。
住民を庇うように差し出された腕が微かに切り裂き、その後のレオナルドの一撃で相手はすぐに沈んだ。
「傷に鈍感になるのはよくないと思うよ」
傷に消毒液をしみこませながら、あくまで淡々と言うドナテロの言葉にレオナルドはぐうと詰まるしかない。
「隠す気はなかったんだ。ただあんなにすぐに気付かれるとは思ってなくて」
「わかってるよ」
幾度となく戦いに巻き込まれたレオナルドにとってこの程度の傷は些細なものだった。
もちろん化膿などしては大変なのだし、治療はちゃんとするつもりだった。
しかし先ほどの少女の心配そうな顔を見ると罪悪感がこみ上げてくる。
「後で謝らないといけないな」
ぽつりと呟いた言葉にくすり、と小さく笑い声が聞こえた。
「レオがようやく気付いてくれたみたいで嬉しいよ」
綺麗に巻かれた包帯に指が滑る。
下に降りたその手はレオナルドの指先に絡ませ、辿る窪みはかつての傷痕だ。
痛みもないただの名残、それを撫ぜるドナテロはどこか暗い。
何かと治療をしてくれるドナテロはきっとレオナルドよりもレオナルドに残った傷に詳しい。
きっと手の甲を撫でる指はその時のことを思い出しているのだろう。
その上に手を重ねて、包み込んだ。
外気に晒されていたレオナルドに比べ、ドナテロの手は随分と温かい。
血の通った手だ。
そこでレオナルドは気付いた。
「あ」
手首まで降りていたセーターの裾をまくり上げると、同じく清潔な包帯に巻かれた腕が目に入る。
「あーっ
……
ほら道場でちょっと腕を痛めたというか、はは」
言い訳がましい言葉を無言で流すと、ドナテロはやがて溜息を吐いて白状した。
「昼間作業中に大きなミュータントが飛び込んできて壁を破壊したんだ。ちょっと捻っただけだから気にしないでいいよ」
昼間ということはレオナルドが出掛ける前だ。
夕食時は特に何も変わった様子がなかったことから、ドナテロはうまく隠していたということだろう。
目を逸らすドナテロは先ほどまでレオナルドを詰問していたとは思えないくらいに狼狽えていた。
「お互い心配は尽きないな」
怪我をしている腕をを取りレオナルドは手の甲に口づけた。
レオナルド程ではないにしろ、顔を近づけるとうっすらと小さな傷がいくつか見えた。
突き出した舌で軽く触れると小さく悲鳴があがりレオナルドの手から抜き取られた。
「っそんなのどこで覚えてきたの
…
」
頬を赤くしたドナテロに、レオナルドはようやく自分が大分恥ずかしいことをしたことに気付く。
「ごめん、無意識で
…
」
ふたりの間に浮かんだ何とも言えない雰囲気、それを打ち破ったのは踊るように軽やかな足音だった。
「レオ、もう大丈夫?」
扉から顔を覗かせた桜の瞳。
手招きするとぱっと走ってきた少女はレオナルドの治療した腕が目に入り表情を沈ませる。
それを払拭するようにその腕を使って彼女の頭を撫でた。
「もうなんともないよ、心配かけた」
「ほんとに?いたくない?」
力強く頷くと、ようやく彼女は納得したようで再びレオナルドの胸元に飛び込んできた。
「お手柄だね、リタ」
救急箱を片付けながらそう言うドナテロに、リタは顔を輝かせながら振り向き、そしてむっと顔をしかめた。
「みんないたいのは、いやだよ?」
びっと指さされたのは仕舞い忘れたドナテロの腕。
慌てて隠すも既に後の祭りだ。
ドナテロからは先ほどの恥じらいは既に消え、機嫌を損ねたリタに言い募るばかり。
子どもの方がずっと聡いものだ。
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