今日は特に仕事の用があるというわけではないが、自分たちは『BAR Polaris』で酒を呷っていた。たまたま誰かと飲みたい気分だったのだ。それであの二人を呼んだら上手いこと揃ってやってきてくれた。いつものカウンター席でウィスキーを傾けながら時折相槌を打ちつつ、二人のやり取りを眺めていた。
次第に二人とも酔いが回ってきたのか、会話の内容が要領を得なくなってきているし嚙み合わなくなってきた。横から水を差し出そうとしたその時、先生がこちらに身体ごと向け口を開いた。
「永田さん聞いてくださいよぉ、理人さんってば、オレとのポッキーゲームに驚くくらい無反応だったんですよぉ」
「なんて?」
くちびるを尖らせる作家先生の脈絡のない発言に思わず聞き返す。
「だからぁ、この前のポッキーの日、理人さんにポッキーゲームを持ち掛けたんです。どんな反応するかなーって気になって。そしたら理人さん、あまりにも無反応なものだからこっちが焦りました!」
「……あー、そりゃ……災難だったな」
「だから、あれは……何が起きたのかわからなかったんだ、唐突すぎて」
と、先生の言葉に上善も堪えかねず口を挟む。そして翌日には忘れているであろう小言の応酬が始まった。
「そんなに上善の反応が気になるならもう一回やったらいいだろ、今。……マスター、ポッキーくれ」
カウンター越しのマスターに声をかけると、話の流れを察していたのかのように速やかに皿にポッキーの袋を開けて出してくれた。二人はその手があったか、と顔を見合わせた。
どうせ今ここにいるのは酔っ払いの大人の男三人だけだ、本人達ですら明日には覚えていないかもしれないし、特に誰も気にしないだろう。いわば戯れ言のお遊びだ。
「ほらよ、ポッキーは奢ってやるから、お前さん達仲良く食べな~」
先生はポッキーを一本咥えると、上善に顔を向ける。彼もまた、彼にしては珍しく気が高ぶっているのか特に躊躇いなく差し出されたポッキーの端を咥えた。
ぽりぽり。
二人は互いから目を逸らさなかった。
彼らがやけに慎重に食べるものだから、なかなか折れないまま距離が近づいてゆく。
普通に面白いからそのまま眺めていたら、やがて二人の距離はゼロになった。そう、ゼロになったのだ。それでもまだ僅かに残ったチョコレートの甘さを味わうように互いのくちびるから離れなかった。──おい、放っておいたらどうなるんだこれ。ちらりとカウンターの向こうに視線を遣るとマスターは気を遣っているのかなんなのか、素知らぬ顔で後ろを向いてグラスを磨いている。
しばらくして、二人はようやく一本のポッキーを食べ終え、何やら満足したのか納得したのか何事もなかったかのようにポッキーと一緒に出されたナッツに手を伸ばしていた。
二人が互いにどう思っているのかは知らないが。しかし、こういう時大人はずるいとつくづく思う。何があったって全部酒のせいにしてしまえるのだから。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.