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猫澤
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はじまりのスターパレード
#司
(
――
どうしても忘れられない思い出がある)
*城下町 広場
#司
(幼い頃に家族と行った創国祭。城下の広場では、埋もれるほどたくさんの出店や人で賑わっていて
――
)
(その中でもひときわ輝いていたショーステージがあった)
(星が舞い、花は歌い、獣達が踊り出す。宮廷魔法使い
――
通称『スター』によるその舞台は、見物人の目をひとつと残らず夢中にさせた。笑顔にさせた)
#幼い咲希
すごい
……
、すごいね、お兄ちゃん!
#幼い司
……
うん!
#司
(生まれつき体が弱くて病に臥せがちだったオレの妹も、みるみるうちに顔を綻ばせて
……
楽しそうに、はしゃいでいて)
(それが、どうしようもなく、うれしくて)
#幼い司
宮廷魔法使い
……
か
#司
(
――
オレも、あんな風になりたいと思った)
(周囲に笑顔の花を咲かせる、あの星のような魔法使いになりたいと
――
)
はじまりのスターパレード
*数年後
*ミクデミー コーシャスハートクラス
#司
――
おはよう、クラスメイトの諸君‼︎‼︎‼︎
#クラスメイトA
おー。おはよー司
#クラスメイトB
なんだよ天馬〜、今日いつにも増してテンション高くない?
#司
ハーッハッハッハ、そうか、やはりわかってしまうか
……
!
実は長らく入院していた妹の咲希が本日! ついに! めでたく退院するのだ‼︎
#クラスメイトA
へー! よかったじゃん。おめでと〜
#司
しかもそれだけではないぞ! 今日からオレ達は晴れて中等部六年! つまり! 義務教育を終え、ようやく、本格的な魔法学が学べる
……
!
#司
(
――
自由な校風と名高い魔法学園都市『ミクデミー』)
(国内有数の広大な敷地をもつこの学校は、魔法使いのタマゴ達の憧れだ)
(学園都市というだけあって、教育施設のみならず、商業施設から流通機関まで整っており
――
)
(その上かの有名なフェニックス財団による潤沢な出資により、設備から学術史料まですべてが最先端。完全寮制であり、都市関係者であれば何ひとつ不自由のない生活を保障されている)
(
――
まさに、学生にとっては至れり尽くせりな学びの場なのである!)
(そんな学校で、オレは
――
)
#司
――
早く、自分だけのオリジナル魔法を生み出してみたいものだな!
#司
(『創造魔法』は生徒達にも人気の高い授業だ。やはり宮廷魔法使いほどの大魔法使いを目指すならば、世界にひとつだけのオリジナル魔法は必要不可欠‼︎)
(そうだな、たとえば
……
呪文を唱えるとポケットが四次元空間に繋がる、というのはどうだろうか。なかなか夢があるのではないか?)
(これでもう忘れ物とはおさらばだ! 実に素晴らしい!)
#クラスメイトA
実習に心踊らせてるとこ水さして悪いんだけどさ
#司
む?
#クラスメイトA
司、飛行術の成績Fじゃなかったっけ
#司
うぐぅッ
……
そ、それは
……
#クラスメイトB
え? なんで? 高所恐怖症とか?
#クラスメイトA
いや、こいつそもそも風魔法(ブレス)が壊滅的に使えんのよ
#司
こらー! 人の弱点をぺらぺらとバラすんじゃなーい‼︎
言っておくが、乗れないわけでは、ない‼︎ このオレのカリスマ性にうちの箒がついてこれていないだけだ!
#クラスメイトB
でも箒で飛ぶなんて基礎中の基礎魔法じゃん
……
。いくら五年生までは座学中心とはいえ、いまどき初等部の子だってスイスイそのへん飛んでるのに
#司
ぬぐぐぐぐぅッ
#司
(悔しいが、クラスメイトの言っていることももっともだ
……
)
(ミクデミーでは通常、中等部五年までは国語から魔法史、自然法則といった座学を学び、進級試験に合格することで晴れて義務教育を終え、本格的な魔法の実技演習を受けられるようになる)
(しかし、日常生活を送る上で便利な魔法の基礎
……
いわゆる『生活魔法』は、六年生への進級を待たずとも国から使用許可が下りており
――
)
(魔法使いの象徴でもある『箒による飛行術』もまた、魔力をもつ者ならば皆当然のように扱える風魔法の基礎
……
と、言われているのだが
……
)
(何故かオレは、箒に跨ってもせいぜい垂直五センチ浮かぶのが関の山
……
)
#司
魔力テストはトップクラスで合格だったんだがな
……
#クラスメイトA
ま、まあそう落ち込むなって! 箒に乗れなくたって、別の魔法の才能があるかもしれないしな!
#クラスメイトB
そうそう、魔法は何もブレスだけじゃないんだし、これから色々試してみれば
――
#司
――
つまりオレは、未知数の可能性を秘めているということだな⁉︎
#クラスメイトA
え、ええー
#クラスメイトB
超ポジティブじゃん
……
#司
ハーッハッハッハ、俄然やる気が出てきたぞ! 是非とも見届けてくれ! この天馬司、必ず世界最強の魔法使いとなって、誰よりも輝くスターになってみせようではないか!
フッ、フフフ
……
ハーッハッハッハ‼︎
#クラスメイトA
どこから湧いてくるんだ、その絶対的自信は
……
#クラスメイトB
見習いたいもんだわ
……
#クラスメイトA
――
ま、でも司が落ち込んでないなら良かったよ。再来月にはワンダーフェスタもあるしさ
#司
なにっ! もうそんな時期か
……
!
#クラスメイトA
そうそう。四年に一回、ミクデミー総出で行われる大規模な魔法大会。俺達もう六年生だから、今年からは出場側に回れるんだぜ
#クラスメイトB
国王サマとか、国のエラい人も観に来るんだろ?
#クラスメイトA
将来有望な魔法使いをヘッドハンティングしに来てるってウワサだよな〜
#司
(ということは、つまり
……
)
ワンダーフェスタで好成績を収めれば、宮廷魔法使いへの道がぐっと近づくかもしれないのか
……
!
#クラスメイトB
いやー、でもさすがにっしょ。俺達より上のセンパイ達も参加するだろうしさ
#司
こうしちゃいられん。早速今日からでも特訓を開始しなければ!
#クラスメイトB
おーい、司、聞いてるー? おーい
……
#クラスメイトA
ダメダメ、もう聞こえてないって
#クラスメイトB
ったく。だいたい俺達の学年でトップ目指せるようなヤツなんて
……
あ
いたわ。今年からミクデミーに編入してきたすげーヤツ
#クラスメイトA
あー、あいつだろ? ひたすら調合室に引きこもってなんか妙な薬作ってる
……
#クラスメイトB
そうそう。前の学校では魔獣を召喚して大騒ぎになったらしいぜ。たしか名前は
――
――
神代類、だっけ?
*ミクデミー 校舎裏
#司
うおおおおおお特訓開始だ
――
‼︎‼︎‼︎
といっても何からすればいいのか
……
。魔法基礎学は去年死ぬほど勉強したが、教員の許可なく強力な魔法を使うのは禁止されていたからな
……
やはり、生活魔法から徐々に慣れていくのがいいのだろうか?
しかし現時点で、オレが扱える魔法といえば
……
……
『やあ隣人よ。お話しようではないか』
#ぬいぐるみ
ぽ
……
ポムポムポー♬
#司
ぬわっ、こらこらじゃれるな
――
……
この、ぬいぐるみがおしゃべりの相槌を打ってくれる魔法だけは昔から得意なんだが
……
……
ええい、落ち込んでいる場合ではない! とにかく今は前進あるのみ! ぬいぐるみよ、そこでオレの特訓を見守っていてくれ!
#ぬいぐるみ
ポムポー♬
#司
まずは箒で空を飛ぶ練習だ! ぬおおおおッ! フンッ! フンッ!
ぜえぜえ
……
何故だ
……
浮き上がりもせん
……
#ぬいぐるみ
ポムポ〜
……
#司
だが諦めん! もう一度だ! ぬおおおおッ
――
■フラッシュ
#司
ぬあっ⁉︎ なんだ、今の光は⁉︎
植物園の方からか
……
まるで太陽を直接浴びた時のような強い光だったが
……
#ぬいぐるみ
ポムポ!
#司
む? 行ってみよう、だと? しかしオレは今特訓の最中で
……
#ぬいぐるみ
ポムポーッ
#司
わ、わかったわかった! わかったから引っ張るな!
まったく
……
。少し様子を見に行くだけだぞ?
#ぬいぐるみ
ポム♪
*ミクデミー 植物園
#司
光が見えたのはたしかこの辺りだったな
失礼します! コーシャスハート中等部六年、天馬司です! 誰かいませんか
――
!
……
……
誰もいない、のか?
#ぬいぐるみ
ポムポ?
#司
ううむ、だがたしかにあの光はこちらの方から
……
■フラッシュ
#司
ぬわっ‼︎ またこの光!
――
向こうか!
……
!
#司
(生垣を抜けた先で、オレは思わず言葉を失った)
(色とりどりの、花びらの舞。ルーフウィンドウから射し込む陽の光が煌めき、虹の架け橋が幾重にも連なる。星が、パチパチと散っている)
(中心には、不自然に宙に浮かび上がるピンク色の球体
……
いや、球体と思ったが、よく見ると猫の耳のようなものがついている)
(そしてその上に腰を据えるひとりの人間
――
)
#???
……
誰かいるのかい?
#司
ハッ! すまない、ここから強い光が見えたので何事かと様子を見に来たのだが
……
#???
ああ、
……
こちらこそ驚かせてすまないね。さっき少しだけ魔法を使ったんだ。無害だから安心してほしいな
#司
魔法
……
?
#???
――
どうも今日は、ここの花達に元気が無いように思えてね
室温、湿度ともに良好。土の状態も悪くない。なら光合成が足りていないのかと思い、魔法で一時的な擬似太陽を生み出したんだ。それがあの光の正体さ
#司
ぎ、擬似太陽
……
だと⁉︎
よくわからないが、それは相当スゴイ魔法なのではないか
……
⁉︎
見たところオレと大して変わらん年齢に見えるが
……
#???
……
中等部六年だよ
#司
ど、同学年だと⁉︎⁉︎
#???
おや、とすると君も中等部六年なんだね。僕はパッションクラスの神代類
#司
コーシャスの天馬司だ! オレは初等部の頃からこの学園にいるが、失礼ながら神代の顔は見たことがない。もしや編入生か?
#類
ご明察。この秋からミクデミーに編入してきたんだ
コーシャス
……
なら隣のクラスだね。よろしく
#司
ああ、こちらこそ!
それにしても、まだ新学期が始まって間もないというのにもうここまで魔法を扱えるとは。素晴らしい才能だな!
#類
どうもありがとう。でもこのくらい、大したことはないよ。授業を受ければ君もすぐ出来るようになる
#司
うっ
……
いや、オレは
……
ブレスは少々、苦手というか
……
#類
うん?
……
ブレス?
#司
この、いろいろなものを宙に浮かせている魔法
……
風魔法だろう?
#類
――
ああ、なるほど。魔法基礎学では最も基本的な五大元素魔法しか習わないから、知らなくても無理はないね
僕が使っているのはブレスではなくグラビティ
――
重力魔法さ
#司
じゅ、重力魔法?
#類
そうとも。例えば
……
このリンゴ。僕がこのまま手を離したらどうなると思う?
#司
そりゃあ
……
地面に落ちるだろう?
#類
どうして地面に落ちるのかな
#司
どうしてって
……
#類
答えは簡単。上から下へ、押さえつけるように力が働いているからさ。原理がわかってしまえば、読み解くのは容易い
――
イメージするんだ。リンゴが、重力から解き放たれる瞬間を
『アルキミア・メンシス』
#司
り、リンゴが、宙に
……
浮いた
……
!
#類
フフ
……
魔法は自由なものなんだよ。なんだってできる。人は不可解なものに名前をつけずにはいられないから、世界で最もポピュラーな五大元素魔法を軸に、すべての魔法は派生する
……
と、言われてはいるけどね
魔法を使う上で大事なのは想像力
――
イメージする力と、強い精神力
#司
イメージと、精神力
……
……
神代
……
お前
……
#類
……
#司
――
……
オレとバディを組まないか⁉︎
#類
……
え?
#司
ハッ、すまない、編入してきたばかりのお前はまだ知らないか
……
! 実は再来月、この学園都市総出の大きな祭りがあるんだが
#類
ああ、たしかワンダーフェスタとかいう
#司
知っているならば話は早い‼︎‼︎‼︎
#類
っ、き、君、肺活量すごいね
……
#司
そのワンダーフェスタで、是非ともオレと共にマジカルショーをしてもらいたい‼︎
#類
つまり一緒にエントリーしてほしいと? たしかに出場すれば内申点は高くつきそうだけれど
#司
言っておくが、出場がゴールではないぞ。オレ達が目指すのは大会のトップだ‼︎
#類
大会の、トップ
……
……
勝算はあるのかい? 君の得意魔法は?
#司
無い‼︎
#類
話にならないね。それに、僕が君と組むメリットも感じられない
#司
メリット? メリットならばあるぞ!
――
未来のスターであるこのオレに魔法を教えられる‼︎
#類
……
未来のスター? 天馬くんは、宮廷魔法使いになりたいのかい?
#司
もちろんだ! 魔法使いならば皆が憧れる存在ではないか!
#類
いや、案外本気で目指す人はそういないものだよ。普通の人が大臣になりたいと言うようなものさ
……
スター、か
……
奇遇だね。僕も、実は
……
宮廷機械技師を目指していてね
#司
ほう。素晴らしい夢ではないか!
#類
フフ、ありがとう。同じ宮廷付きを目指す者同士、僕達は共通点があるわけだ
……
……
わかった。君の魔法の特訓を引き受けよう
#司
! いいのか⁉︎
#類
ああ。だけど、僕の特訓は生半可なものではないよ。中途半端な覚悟なら
……
#司
――
それならば心配ご無用‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎
オレは、どんな無茶ぶりだろうと神代の期待に一二〇〇〇パーセント応えられる自信がある!
#類
これはまた、確証のない数字だねえ
#司
ハーッハッハッハ! 断言しよう!
――
オレとするマジカルショーは楽しいぞ!
#類
……
そうかい。楽しみにしているよ。これからよろしく、天馬くん
#司
司でいい! よろしく頼む!
#類
なら僕も、類でいいよ。早速明日から猛特訓といこうか
#司
――
ああ!
*翌日
*ミクデミー 調合室
#司
調合室なんて入るのはじめてだ
……
#類
魔法薬学は扱いが難しい学問だからね。触れるだけでも危険な薬物がそこかしこにあるから、実習授業以外では立ち入りを禁止されているんだ
#司
な、なんだと⁉︎ では勝手に侵入するのは不味いんじゃ
……
#類
不味いねぇ
#司
る、類
――
‼︎
#類
まあまあ、バレなきゃ大丈夫さ。それにほら、特訓の内容は周囲に秘密にしておきたいじゃないか
#司
そ、それはたしかにそうだが
……
#類
あ、そこの小瓶に入った粉末、触れると息の根が止まるから気をつけて
#司
洒落にならんのだが⁉︎⁉︎⁉︎
#類
フフッ
――
さて、ここで改めて司くんの今の魔法技量を確認しようか
前にも言った通り、全ての魔法は五大元素魔法から派生されるというのが通説だ。五大元素とは
――
#司
火(ヒート)、風(ブレス)、水(フロー)、大地(グロウ)、金属(メタル)のことだな!
#類
その通り。これらは相生・相剋関係にあるので、人によって得手不得手が現れやすい
たしか昨日、風魔法は苦手と言っていたね。一般的に風と相性が悪いのは、大地魔法と金属魔法。
……
ひょっとすると司くんも、そのどちらかは比較的扱いやすいのではないかな?
#司
なるほど
……
大地と金属か
……
#類
魔法学園に入学していて、ましてやコーシャスともあれば、魔力はそれなりにあるんだろう? 何か、得意とは言わずとも、これまでに使ったことのある魔法は?
#司
……
笑わないと約束できるか?
#類
? それは、もちろん
#司
ううむ
……
では披露する。オレが唯一使える魔法
……
それが、こいつだ
#類
……
これは、うさぎのぬいぐるみ?
#司
ウサちゃんだ
#類
ウサちゃん
#司
百聞は一見に如かずか
……
。まあ、見ていてくれ
――
ウサちゃん、類に『ご挨拶しよう』
#うさぎのぬいぐるみ
――
ウサちゃんデス。ヨロシクネ、類クン!
#類
……
驚いた
へえ
……
無機物に命を与える魔法か
……
#司
そんな大層なものではないが、この魔法だけは何故か幼い頃から自然と使えるんだ
#類
これを? 無詠唱で?
興味深いな
……
。生活魔法の枠に収まらない複雑な魔法だ。その上どの属性にも当てはまらない。無機物に命を与えるという意味では、たとえば大地魔法のゴーレムに近いものは感じるね
だけど、ゴーレムは大地に流れる生命力で動く傀儡であって生きているわけではない
……
……
ちょっとこのぬいぐるみ、解体してみてもいいかい?
#司
か、解体⁉︎ 駄目に決まっているだろう‼︎
#類
フフフ。冗談はさておき、正直見直したよ。これだけでも魔法の才は十二分にあるといえる
#司
ほ、本当か⁉︎
#類
ああ。呪文があれば、君ならもっと上位の魔法も扱えるかもしれないね
#司
呪文
……
呪文か
……
#類
君も知っている通り、呪文には魔法使いの魔力の回路を整える効果がある。文字列そのものに意味はないから、呪文自体はなんだっていいのだけれど
……
強いていえば、使い手の気分が上がるワードが望ましいね
僕の場合は
――
『アルキミア・メンシス』
#司
それはどういう意味なんだ?
#類
『月の錬金術』だよ
#司
ほう。月に何か思い入れでもあるのか?
#類
……
まあ、僕のことはいいじゃないか。いまは司くんの呪文、だろう?
#司
ううむ
……
それもそうだ。実は既にいくつか候補はあるのだが、どれもしっくりこなくてな
#類
へえ
……
その候補とやらを聞いてもいいかい?
#司
ああ。その名も、『ショウガヤ・キー』だ!
#類
ああ、たしかイースト地方の郷土料理だったかな
#司
好物なんだ。我が天馬家では、祝い事がある日によく食卓に並んでいてな
だが、できればもう少しカッコいい呪文の方がいいかと
……
#類
フフ。好きなものを呪文にするのは良いことだと思うけれど
……
迷いがあるのならやめておいた方がいいかもしれないね
どちらにせよ、いますぐには決めずとも考えておくといいよ
#司
わかった。
……
ところで、さっきから類は何をしているんだ?
#類
うん? ああ、調合だよ
#司
ほう。類ほどの魔法使いともなると魔法薬学にも精通しているのか。やはり素晴らしい才能だな!
#類
いいや? 見様見真似さ
#司
な、なに
――
⁉︎
#類
だって、好奇心には抗えないじゃないか
#司
抗え! 全力で! ていうか待て待て待て、なんか変なケムリがあがってないか⁉︎ 類! 類
――
‼︎
#スピーカー
『
――
危険物質を検知、危険物質を検知、爆発の危険性があります。教職員はただちに調合室へ
――
』
#司
ば、ばばば爆発⁉︎ まずい、先生が来てしまう! バレたら懲罰必至
……
!
逃げるぞ、類
――
‼︎
#類
うわっ、とと、そんな走らなくても空間転移魔法で
――
……
……
いや、たまにはこういうのもいいか
*ミクデミー 中庭
#司
はあっ、はあっ
……
ひどいめにあった
……
#類
フフフッ、楽しい逃避行だったね
#司
どこがだ!
……
まったく。先生に追いかけられたのなんて十七年生きてきて生まれてはじめてだ
……
#類
……
■回想
#???
類くん、変だよ
おかしいよ
……
■回想終わり
#類
…………
#司
――
よし! それでは改めて特訓の続きをするぞ!
まずは可能性のある大地魔法からだ‼︎
#類
……
!
(案外、彼なら
……
ひょっとすると僕のことも
……
)
……
#司
類? どうした、ぼんやりして
#類
……
なんでもないよ。さ、続きをしようか
#司
ああ!
*夜
*パッションハート学生寮
#咲希
――
あ、いらっしゃい! お兄ちゃん!
#司
咲希! 今日も元気そうで何よりだ!
#咲希
えへへ。最近すっごく調子がいいんだ〜
お兄ちゃんもなんだかご機嫌?
#司
フッフッフ
……
実は、こっそり魔法の特訓を始めたのだ!
#咲希
えー! 魔法の特訓ー⁉︎
#司
ああ。再来月のワンダーフェスタに向けてな!
#咲希
そっか〜
……
お兄ちゃん、昔からスターになるのが夢だったもんね
それじゃ、当日はいっちゃん達と一緒に応援に行っちゃお〜っと! おいしいお弁当、作って持って行くから!
#司
さ、咲希の手作り弁当だと
……
!
涙が出るほど嬉しいが、無理だけはするんじゃないぞ。医者には退院と通学の許可を得ているが、病が完治したというわけではないのだからな
#咲希
わかってまーす
……
えへへっ、でもまたお兄ちゃんと同じ学校に通えるの、ホントにうれしいんだよ。いっちゃん達も一緒だし! とーやくんもいるし!
#司
まったく
……
#司
(しかし、咲希のあんなにはしゃいだ顔を見るのは何年ぶりだろうか)
(長い闘病生活のせいで、幼馴染の一歌達とも離れての療養
……
さぞ寂しい思いをさせてしまったに違いない)
(せめて、今まで離れ離れだった分も。ワンダーフェスタで、思いきり咲希達が羽を伸ばせるように
――
)
#司
オレも、精進せねばな
*数日後
*森
#司
(
――
と、決意を新たにしたものの
……
)
#司
な、何故だ
……
驚くほどまっっったく上達できん
……
#類
いやあ、一筋縄ではいかないだろうと思ってはいたけれど
……
まさかこれほどまでとは
本当に、箒にも乗れないんだねえ
#司
ぐうぅ
……
#司
(あれから数日、類に言われるまま特訓に特訓を重ねてはいるが、上達の兆しは一向に感じられない)
(まずは生活魔法を難なく扱えるようになることが目標だというのに、杖で火をおこそうとしても煙が出るだけ。箒で空を飛ぶなんて以ての外だ)
(こんな調子でワンダーフェスタに間に合うのだろうか
……
)
#司そもそも、この特訓方法に間違いはないのか?
#類
というと?
#司
ここ数日、したことといえば
――
『虹色蛙を捕まえる』とか、『黄金魚のヒレを煎じて飲む』だとか、魔法とは直接関係のない内容ばかりじゃないか
#類
ふむ。
……
まあたしかに、そう思われてしまうのも仕方がないね
でもこれは、司くんにとって必要なことなんだよ
#司
何がどう必要なことなのか、説明を要求する!
#類
そうだねえ
……
司くんは、魔法の原理を知っているかい?
魔法使いの素質がある人間には多かれ少なかれの魔力が体内に流れている。魔法は、その魔力の流れをうまくキャッチして自身の体と回路を繋げ、外へと出力することで生まれる奇跡だ
ところが司くんの場合、何故か魔力を自分でキャッチすることができていない。どういうわけか、司くん自身ではなく、司くんが望んだ別の『何か』と魔力の回路が繋がってしまうみたいだ
君にも覚えがあるだろう?
#司
!
■うさぎのぬいぐるみ フラッシュバック
#司
……
つまり、オレ自身が持つ魔力そのものと、魔法の出力装置である体を繋ぐ回路が上手く噛み合えば、オレにも魔法が
……
#類
その通りだよ。そこで登場するのが、虹色蛙と黄金魚というわけさ
虹色魚の鱗は、触れるとたちまち眠っていた魔力が活性化すると言われていてね。一方、黄金魚のヒレにはマギアサーキットを膨張させる物質が多く含有しているから、アクティベート状態の魔力が流れやすくなって、司くんの体とも回路を繋げやすくなるだろうと
……
#司
マギ
……
アク
……
ぬあああっ、わけがわからん
……
!
#類
……
だと思ったから敢えて説明は省略していたけれど、要はこれまでにした行動もまったく意味のないものではなかったということさ
#司
むう
……
なあ、類。もっと手っ取り早く魔法が使えるようになる方法は無いのか?
#類
司くん
……
……
魔法だって体が資本だよ。無茶をすればその分反動がくる
ゆっくり覚えていけばいいじゃないか。時間はいくらでもあるのだから
#司
しかし、それではワンダーフェスタに間に合わんではないか!
#類
間に合わなくてもまた次があるだろう?
#司
今年のワンダーフェスタは一度きりだ!
#類
……
わからないな。今年にこだわる必要もないだろう
僕達、まだ中等部六年生だよ。今無茶をして将来を棒に振るつもりかい?
#司
……
……
類には、わからんだろうな
#類
え
……
#司
(今は調子がよくても、いつまた咲希が調子を崩してしまうかわからない)
(オレは、常に妹を勇気づけられる兄でいたいのに
――
)
(このままでは、心配をかけてしまうばかりだ)
#類
……
それ、本気で言っているのかい?
#司
……
え?
#類
話を聞いていれば、君は自分の目的のことばかり。僕の気持ちは二の次じゃないか
#司
それは
……
……
……
だがオレは、どうしても
……
#類
……
見損なったよ。僕はとんだ見込み違いをしていたようだ
#司
どういう意味だ?
#類
つまり君は、宮廷魔法使いにさえなれれば他はどうでもいいんだね
#司
なっ、そんなことは
――
#類
……
悪いけど、君の自己満足には付き合いきれない。僕はここで降りさせてもらうよ
#司
っ
……
おい、類!
――
……
*数日後
*ミクデミー コーシャスハートクラス
#司
――
むううう
……
いったい何だと言うんだ
……
#司
(あれから数日。類とは一度も顔を合わせていない)
(類の言葉の意味を問いただしたくて、何度かパッションクラスに顔を出したりもしてみたが)
(間が悪いのか、わざとそうしているのか
……
決まって類は教室から姿を消していた)
#司
……
……
ええい、考えていても仕方がない! オレはスターになる男! こんなところで挫けている場合ではなーい!
#司
(オレ一人でも魔法の特訓はできる! 状況が、類と出会う前に戻っただけだ)
(
……
)
(
…………
秘密の特訓
……
結構、楽しかったんだがな
……
)
#司
はあ
……
……
ん? なんだこれは。ポスター?
ふむ。ポテトスターに新たなカフェができたのか
……
。ちょうどいい。気分転換に寄ってみよう
*学園都市 観光エリア〔ポテトスター〕
#司
随分と賑わっているな
……
#司
(観光エリアでは、学園都市の関門
――
ターミナルが近いのもあって、特に週末は学園内外の人という人が集まるため、地上は息もできないほど混雑する)
#司
わぶっ、すみません、
……
っとと!
……
はあ。せめて箒にさえ乗れれば、空を移動できるんだが
……
むぎゅう
#司
(ひ、人の波で潰れる
……
!)
(駄目だ、これでは移動もままならん
……
! 一旦路地裏に避難を
……
)
#司
ぬ?
カフェ『ミーティア』
……
ふむ、こんなところにもカフェがあったのか。なかなか綺麗な外装ではないか。中は暗くてよく見えんが
……
営業はしているようだな
#司
(案外、穴場のカフェなのかもしれないな)
(フッ、スターになる男ならばやはり、流行りの一歩先を行かねば!)
#司
お邪魔します‼︎
#司
(ふむ
……
少々薄暗いが、隅までしっかりと掃除が行き届いているな)
(しかしなかなか店員が現れん
……
営業中ではなかったのだろうか)
#司
すみませーん! どなたかいませんかー!
……
ん? 今庭の方に人影が
……
‼︎‼︎‼︎
#司
(窓から庭を覗いて、オレは目を見開いた。
――
よく見知った顔がそこにあったからだ)
#司
あれは、類
……
と、少年
……
?
#司
(何をしているのだろうか
……
)
(少年は
……
見ない顔だな。学園の生徒ではないようだ)
#少年
――
わあ、すごいです、神代さん!
#類
よかった。目が見えない君でも操作がしやすいように、指で触れるところをでこぼこさせてみたんだ。君の声帯にも反応するように作っているけれど、作動が不安定な時はここのでこぼこスイッチで起動を止められるからね
#少年
ありがとうございます
……
!
#類
これを応用して今後は指で読める文字を作ってみようと思っているよ
#少年
それって、僕でも本を読めるようになるってことですか
……
⁉︎
#類
フフッ。そうなる日も近いかもしれないね
――
……
――
!
#司
‼︎
#司
(類と目が合ってしまった!)
(慌てて身を隠したが、徐々に足音が近づいてくる
……
)
#類
……
盗み聞きとは、趣味が悪いね
#司
類
……
#類
……
――
……
君と話すことは何もないよ
失礼する
#司
……
行ってしまった
……
#少年
――
そこに誰かいるんですか?
#司
ハッ! すまない、怪しい者ではないんだ!
#少年
……
もしかして、お客様ですか?
#司
え?
#少年
ごめんなさい! すぐお茶のご用意しますね!
……
えっと、ロボくん、お湯を沸かしてくれるかい?
#ロボット
承知シマシタ
#司
(少年が声を掛けると、ロボくんと呼ばれた機械はギギギと音を立てて動き出した)
#少年
えっと、僕、生まれつき両目の視力がほとんどなくて。でも、どうしてもカフェを経営してみたくて
――
それで、神代さんって方にお願いしてお仕事をお手伝いしてくれるロボくんを作ってもらったんです
#司
(類が
……
?)
#少年
すごいんですよ! ロボくん、本当になんでも出来ちゃうんです! 魔法も使えない、目も見えない僕が毎日たのしく過ごせているのは神代さんのおかげです
#司
……
そうか
……
(
……
良い、笑顔だな
……
)
……
(思えば
……
オレは、結果にばかり囚われて、本当の目的を見失ってしまっていたかもしれない)
(オレがスターを目指す理由を
……
)
#司
…………
……
友達ひとり笑顔に出来ないで、何がスターだ
*翌日
*ミクデミー パッションハートクラス
#司
類‼︎‼︎‼︎
#類
……
また君か
何度来たって無駄だよ。僕は君とは手を組まない
#司
っせめて、話だけでも聞いてくれないか
……
‼︎
#類
……
手短にしてくれないか。こう見えても、それなりに忙しい身でね
#司
……
!
――
すまなかった‼︎ もう一度オレにチャンスがほしい‼︎‼︎‼︎
#類
……
、え?
*ミクデミー 校舎裏
#類
――
君は僕に、チャンスをくれと言ったね
だからこれは、ラストチャンスだ。君にはこれから、箒で空を飛んでもらう
#司
……
ごくり
#類
この装置には僕の魔力が込められている。今からこれを君の箒に取り付けて、僕の重力魔法で君の体ごと浮力を上げる
でも、浮かせるだけだ。司くんは自分で風魔法による上昇気流を作り出し、少しでも空高く、長く、滞空時間を伸ばすんだ
#司
……
もしオレが上手くブレスを扱えなかったら?
#類
もれなく地面に真っ逆さまだ。命の保証は、できないね
#司
……
#類
でも、君が望んでいるのはそういうことだよ。再来月のワンダーフェスタにどうしても間に合わせたいとなると
……
多少の無茶は免れない
#司
そうか。わかった
#類
っ
……
……
取り返しのつかない怪我をしてしまうかも
#司
構わん!
#類
……
司くん
……
#司
それでも、オレは
最後まで
――
類を信じる‼︎
#類
……
!
僕を
……
?
#司
お前の言う通りだと、気づいたんだ。オレは、結果ばかりを気にして焦っていた。本当の目的さえ忘れて
……
#類
……
本当の目的
……
#司
――
どうしても、オレの魔法で笑顔にしたい子がいるんだ。だから、力を貸してくれ、類
……
! オレには、お前しかいない!
#類
……
…………
そうかい
なら、この子を連れていくといい
#司
これは
……
! うさぎのぬいぐるみ
……
⁉︎
#類
守るものがあるとき、人は強くなれるからね
――
……
いくよ
――
『アルキミア・メンシス』
*空
#司
……
!
と、飛べた
……
!
――
……
#司
(
――
なんと、綺麗な光景だろう)
(この世界はこんなにも美しかっただろうか)
#司
空が、近い
……
#司
(手を伸ばせば星に手が届きそうだ
……
)
#司
…………
#うさぎのぬいぐるみ
司クン
#司
!
#司
(うさぎのぬいぐるみが、オレを振り返る)
(無機質なその表情が、笑っているような気がして
――
)
(うれしそうな、気がして)
(やっぱり、オレは
――
……
)
*地上
#司
……
見たか! 飛べたぞ! お前のおかげだ! 類!
#類
うんうん。見事な飛行だったよ
#司
これが
……
これが、記念すべきオレのスターへの第一歩だな!
#類
……
そういえば聞いていなかったね。どうして司くんは宮廷魔法使いを目指しているんだい?
#司
だってすごいだろう
#類
……
#司
まあ聞け。スターが杖一本振るうだけで、星は舞い、花は歌い、獣達は踊る。それを見た人達はどんどん笑顔になっていく
オレは、そういう魔法使いになりたいんだ
#類
……
素敵な夢だね
……
ねえ、司くん
……
#司
ぬおっ、どうした急に手を握って
#類
……
まずは先に、謝らせてほしい
君の人となりを、先入観で決めつけて
……
この手を一度は離してしまったこと
#司
類
……
#類
決めたよ
#司
む?
#類
僕が君を、世界一
……
いや、宇宙一の魔法使いにする
#司
へ
……
――
な、なにぃ⁉︎⁉︎
たしかに類がいてくれたら百万どころか百億馬力だが!
#類
……
……
僕の夢は、宮廷機械技師になって、魔法と科学の垣根をなくし
……
人と魔法使いが手を取り合う世界を作ることなんだ
僕も、笑顔にしたい子達がいてね
宮廷付きは、国王とも対等に渡り合える存在だ。僕はこの国そのものの在り方や常識を変えて、生きやすい世の中を作りたいんだよ
そういう意味では、僕達の夢は根本的な部分が合致しているというわけだ
#司
……
つまり、利害の一致、ということか?
#類
言い換えればそうとも言えるけれど、どちらかというと
……
僕と君。二人いれば一二〇〇〇パーセント、どんな壁でも乗り越えられそうな気がしてこないかい?
#司
――
……
!
ということは、またオレと
……
むぐっ
#類
フフ。そこから先は、改めて
……
僕に言わせてほしい
司くん。僕と共に、手を組んではくれないかな
そして
……
一緒に、笑顔の絶えない明るい未来を作っていこう
#司
〜〜もちろんだ!
ではまずは、来る再来月、ワンダーフェスタで
……
トップを取ろうではないか!
#類
ああ!
……
…………
……
、
……
ところで司くん?
……
先ほどから少し、距離が近くないかい?
#司
ん? 何を言う! 先ほどは熱く手を握り合った仲ではないか!
#類
そうなんだけれどね? これは友人の距離を超えているというか
……
#司
……
?
む、類よ、何やら顔が赤いようだが。ハッ、もしや熱があるのでは
――
#類
……
『アルキミア・メンシス』
#司
のわー‼︎⁉︎
な、何も魔法で弾き飛ばさんでもいいだろう〜
……
!
#類
……
、
……
フフッ、
……
あはは!
――
ねえ。君の呪文、『リーゾス・プリマ・ステラ』がいいんじゃないかな
#司
リ、リーゾス
……
? どういう意味だ?
#類
……
笑顔の一番星、さ
#司
!
――
気に入った! 早速詠唱の練習をするぞ、類!
#類
フフッ
……
これから楽しくなりそうだね
――
#司
(こうして、正式に手を組みパートナーとなったオレ達だが)
(のちに世界を揺さぶり常識を覆す二人の大魔法使いとなることは
――
)
(いまはまだ、知るよしもない)
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