ぷの
2025-02-02 10:31:04
8156文字
Public レイチュリ
 

レイチュリワンウィーク - 神様・賽は投げられた

恋愛相談を🪙に持ちかける🦚の話。

「相談があるんだ」
 アベンチュリンは人に相談というものをほとんどしない。こう話しかけるのは、相手から自分の欲しい答えを引き出すための口火だ。
 そういうやり口をよく心得ているトパーズは、面倒だと思ったのを隠さず、手を振ってすげなく追い払おうとした。しっしっ。終業後にアポを取ってトパーズのオフィスまで足を運ぶ用件だ、面倒事に決まってる。
「待ってくれ、真剣なんだ」
 言葉の通り、アベンチュリンは至極真面目な顔をしている。そうすると顔が整っているのがよくわかる。トパーズの趣味じゃあないけれど。
 デスクを挟んで向かい合う二人の間に流れる空気がいつもと違うのを感じ取って、カブが不思議そうに二人を交互に見ている。
「まずはこれを受け取って欲しい」
 アベンチュリンは取り出した携帯端末を手早く操作すると、くるりと向きを返してトパーズの前に滑らせた。信用ポイントの振り込み画面だ。振り込み先はトパーズの口座、金額は未入力。
「なんのつもりか知らないけど、バカじゃないの?」
 端末を押し返し、トパーズは腕組みして椅子にふんぞり返った。
「私より年上で先輩の君に僭越ではございますが、人にものを頼む態度を教えて差し上げましょうか」
「それだよ」
 ピッ!と人差し指を立ててトパーズの目線を引いたアベンチュリンは、トントンと返された自身の端末の画面を叩いた。
「信用ポイントを受け取らないのはどうして?」
「貰ういわれがないでしょ」
「相談料の前払いだよ」
「大事な相談だからいくらでも払うって?」
 すう、と息を吸い込んだトパーズは、さっきよりも強く大きな声で同じ台詞を繰り返した。
「バッカじゃないの?」
 しかし、アベンチュリンは涼しい顔をしている。トパーズは早くもうんざりしてきた。私、今日は珍しく定時で上がるつもりでいたんですけど。今すぐ帰りたいんですけど。トパーズの心情を察したカブがキュウと悲しげに鳴いた。
「君たちは性別も年齢も生まれも育ちもまるで違うけど、こういうときの反応がとても似てる。そんなトパーズに相談に乗ってほしい」
 アベンチュリンから、話を聞いてもらうまで引き下がらないという強い意思を感じる。トパーズは追い返すのを諦めて、手土産だと渡されたカフェラテを手に取った。
「しょうがないな、これの分くらいは聞いてあげる。二十分だけね」
 熱々のカフェラテを一口飲む。甘い香りで脳がほぐれる。疲れた頭はちょうどキャラメルフレーバーの気分だった。アベンチュリンはこういうところを外さない。
「ありがとう。相談というのはね……僕、どうやら好きな人がいるみたいなんだけど」
 なんと、恋愛相談だ。あのアベンチュリンが。顔の良さと嘘で仕事は上手くこなすのに、人付き合いはてんでヘタクソで、恋どころか『人として好き』に分けるのもおぼつかないアベンチュリンが。
 トパーズの気乗りしない気持ちはスッと腰を上げて敬礼して席を外した。面白くなってきた。半分閉じていた目が開いて、姿勢が前のめりになる。
「告白しようと思うんだ」
 驚きのステップアップである。恋愛初心者にしては素晴らしい勇気と決断だ。ただ、告白するほど膨らんだにしてはどうも気持ちの解像度が低い。「どうやら」「みたい」「だけど」とは前途多難なにおいがする。大丈夫かな、段差で躓いて派手に転んで大怪我しそう。
「ねえねえ、まずはどういう経緯で気持ちを自覚したか話してみてよ」
 トパーズの好奇心に促されて、うーんと悩ましげに唸ったアベンチュリンはポツポツと話し始めた。


 最初に意識したのは、何度めかの命に関わる大怪我をして意識を取り戻した後、集中治療室から一般病棟に移った日のことだった。その時の主治医だった先生が、アベンチュリンの病室を訪ねてこう言った。
「これまでの記録を読んだが、君には自殺願望でもあるのか?」
 アベンチュリンが十の石心になってから数年。すでに何度か集中治療室に担ぎ込まれ、その度になんとか生還していた。担当医から、もう勘弁してくれと嘆かれたり、二度と顔を見せるなと憤慨されたり、関わりたくないとばかりに無言で対応されたりしてきた。こんなふうに精神の問題に切り込んで来た人は初めてだった。
 ちなみにこのときは、太ももをざっくり切って大量出血したのだった。縫合が難しい傷で、止血と輸血が間に合わなければ危なかった。自殺願望だなんて言われるような怪我じゃない。自分を銃で撃ち抜いたり、高所から飛び立ったのならともかく。
「ないよ。望んで痛い目に合う趣味はないし、生きてやりたいこともある」
 そこで相手は、アベンチュリンが十の石心であることを思い出したらしい。宝石の名は、使令から与えられた力を示しているだけではない。その力で果たさなければならない強い野望を抱えている証でもある。石心たちの野心はカンパニーを利する。担当医ならば、つまらない怪我で絶対に死なせるなと上から命じられたはずだ。
 それでもなぜか疑わしそうなので、アベンチュリンはひとつ提案した。
「僕は今すぐ仕事がしたい。君は僕の治療が仕事だ。それなら、付きっきりで見張っててよ。手間が省けていいよね」
「僕は君の専属ではない。退院も外出も認めない」
「ええ……
「立ち上がって三歩歩いてみろ、傷口が開いてまた死にかけたいならな」
「車椅子で」
「その車椅子に乗せるのは誰だ? 乗り降りどころか排泄も一人でできない体で、たかが仕事のためにうろうろしようとは恐れ入る」
「わーお、辛辣」
 その医師、数々の偉業を成し遂げていて技術開発部の顧問でもある自称凡人のベリタス・レイシオは、一枚の紙をアベンチュリンに差し出した。技術開発部が作った新薬を使用するための同意書だった。費用と重要事項は口頭で示された。
 ペンを渡されて、間を置かずに同意書に名前を書き入れて返した。どんな仕組みでどんな危険があるかはほとんど聞き流した。何も迷うことはない。傷の治りが早くなる、その一点が重要だ。良いタイミングで彼を采配してくれた神様に心の中で感謝の祈りを捧げた。
「君を驚異のスピードで回復させてみせよう」
 紙を几帳面に折り畳んで白衣のポケットに入れ、レイシオは不敵に断言した。その姿がアベンチュリンにはやたら眩しく見えた。


「ね、カッコいいだろ」
「うーん」
 ちょっとわからないかな。そもそも状況が特殊すぎる。人はそうそう生死の境を彷徨わない。
 死にかけて生還したとき、命を救った相手に心が傾くのはある。それで恋に落ちたというなら、チョロいとは思うけども、わからないでもない。
 しかし、レイシオは初っ端から毒舌。冷や水を浴びせた上に治験だ。そこが良いと言われても同意しかねる。紙の書類だなんて、証拠を消されないように備えてるじゃないの。トパーズなら、迷わず紙を破り捨てて担当を替えてもらう。
「どこが良かったの?」
「話が早いところ。それから、僕の意向を考えうる一番の手段で叶えようとしてくれたことかな」
 よくもまあ好意的に受け取ったものである。
「あ、そう。それで、続きは?」
 それからしばらくして、レイシオは戦略的パートナーになった。これはトパーズも知るところである。主にアベンチュリンと組んで仕事をしている。
 とにかく知識が豊富で、簡単な質問に言葉の濁流で返される。打てば響くとはこの事かとアベンチュリンは新しい仕事仲間に夢中になった。
「わからないなあ。めんどくさいじゃない、簡潔に答えてくれたらいいのに」
「答えは簡潔だよ。派生していろんな話を聞かせてくれるんだ」
「ふーん、馬が合うんだね」
 めんどくさいと顔に書いたままのトパーズのコメントに、アベンチュリンは嬉しそうにはにかんだ。頭の中の回想シーンに気を取られてトパーズの方など見ていない。ああ、なるほど。これは恋をしている顔だ。しかも、ふわふわと楽しい時期。
 仕事の合間に雑談をするようになり、勧められた本を読むようになり、仕入れた知識が仕事に活用できるようになった。勉強が楽しくて、世界が広がって、今まで味わったことがない伸び伸びとした気分だ。そんな話を聞きながら、トパーズも仕事のためになるのはちょっと羨ましい気がしてしまった。濁流にのまれるのはまっぴらごめんだが。
「先生と生徒みたいだね」
「そうかも。大学の講義の聴講に誘われたけど、時間が合わなくてさ」
 関係の進捗が亀の歩みだと皮肉ったつもりが、アベンチュリンは少しずつでも前進していると喜んでいる。まあ、前向きに受け取れるのはいいことだ。人間関係では後ろ向きな思考のアベンチュリンだから、この変化は悪くない。
「それで好きかもしれないと思ったわけね」
「そう。まだ確信がないのは、恋をしたことがないから」
 恋という単語を口に乗せたアベンチュリンは、くすぐったそうに目を細めた。カフェラテのお供にはちょっと甘さが強い。そんな顔を見せる人だとは思ってなかった。
「僕自身この先に何を求めてるのかよくわからない。だから、このまえ食事に誘ってみたんだ」
「いい展開だね」
 そういうのを待ってた、とトパーズはにっこり笑った。
「でも断られた」
「嘘でしょ」
 まさかのビターな展開なんだろうか。でも、アベンチュリンは思い出し笑いをしている。もったいぶらないでと、トパーズはデスクを指先でコツコツ叩いた。


 断られて、食い下がるか引き下がるかを迷うくらいに、アベンチュリンはレイシオと一緒に食事がしてみたかった。引き際が悪いのはらしくないと思う。けれど、かなり成功率が高いと踏んでいたのもあって、そう簡単には諦められなかった。
 一緒にいて楽しいと感じてるのは自分だけじゃない。この数ヶ月なるべくレイシオと過ごして手応えを得ていた。勘違いだったとは思えない。
 仕事では適切な距離を保っているけれど、プライベートで大学の研究室に遊びに行くと快く迎えてくれる。貴重な紙の本を貸してくれたこともあった。二人きりでいても気詰まりになることはない。沈黙もまた心地よく、うっかり横で居眠りしたときだって、迷惑そうじゃなかった。テーブルに突っ伏したアベンチュリンにブランケットを掛けて、ついでに頭をひと撫でしてくれた。
 人との距離が近い人間が相手なら勘違いなんてしない。だが、ベリタス・レイシオだ。こんなの、懐に入れてくれたと思うだろう。アベンチュリンが受けている優しさは万人に与えられるものとは違うと思ったって、おかしくないはずだ。
 食事の誘いに失敗した悲しさは、きっと顔に出ていた。アベンチュリンを正面から見られないということは、レイシオは罪悪感を持っているようだ。
「参考までに、理由を聞いても?」
「君が未成年だからだ」
 ん? アベンチュリンはぱちぱちとまばたきをして首を傾げた。
「ディナーの席でワインを飲もうと言っていたが、君はまだその年齢ではないだろう。分別のある大人として、承諾できない」
 確かに、そう言って誘った。予約したときに店のオーナーからとっておきのヴィンテージワインがあると勧められたのだ。きっと気に入ってくれると思って、喜んで押さえておいた。
「あのね教授、予約したお店はピアポイントにあるんだ。君の基準に照らしてどうかはわからないけど、ピアポイントの法律では僕は成人してる。カルテに書かれてた生年月日を覚えてるかい?」
 逸らされていた顔が帰ってきて、小さく首を傾げた。可愛らしい仕草もレイシオがするとどこか優雅だ。
「誕生日を過ぎたのか」
「そうだよ。まだ数ヶ月しか経ってないけど、立派な成人だ。食事のついでにお祝いしてくれてもいいんだよ」
 おどけて言うと、レイシオはふっと笑った。
 念のため、その場でカンパニーの登録情報を見せた。といっても、高級幹部のプロフィールにはしれっと嘘が混ぜられていることが多い。アベンチュリンもいくつか嘘をついている。例えば生年月日は嘘だけど、年齢は本当だ。
 不都合な事柄は権力で隠せる。戦略投資部と組んだのをきっかけに彼も相応の権力を手に入れたはずだけど、気軽に権力を使うなんて思いもよらないのかもしれない。年齢を信じてくれてよかった。
「それでは改めて。僕とディナーはいかが? 珍しいヴィンテージワインをぜひご馳走したいんだ」
「喜んでいただこう」
 二つ返事の快諾を取り付けて、アベンチュリンはにっこり微笑んだ。


「清廉なところ、いいよね」
 隙あらば褒める。病はなかなか進行しているらしい。
「いいところだね」
 気持ちのこもらない相槌で同意したトパーズに、アベンチュリンは手をつけていない自分の分のコーヒーを差し出した。時間延長の要請だ。時計に目をやると、すでに十五分経過。カブは話が始まってすぐに次元の穴を開けてどこかに行ってしまった。
 ありがたくコーヒーを受け取って、空になったカップを脇に避けた。二杯目はブラック。甘くないものが欲しくなっていたからちょうどいい。
「ぬるくなってるから、プラス十分ね」
「オーケー、交渉成立。というわけで、ディナーへの誘いは成功した」
 アベンチュリンは遠くを見るような目をして、思い出の夜を味わっているようだ。
「一度断ったお詫びを兼ねてか、成人祝いのプレゼントを用意してくれてた。それに、その席で初めて素顔を見せてくれたんだ。レイシオってとびきり顔が綺麗だよね。びっくりした」
 ふんふんと聞いていたトパーズは、後半であんぐりと口を開けた。こっちがびっくりだよ、ここまでの話がずっと石膏頭相手だったことに!
 トパーズはアベンチュリン繋がりでたまにレイシオと顔を合わせる。今でこそ石膏頭を拝むことの方が少なくなったけれど、最初の頃は常に冷たく厳つい無表情と対峙していた。
 そういえば、いつの間にか素顔でいることが増えた気がする。アベンチュリンが隣にいるときに限り。なんとわかりやすい心情の変化か。
「それはよかったね……
「食事のあと朝まで一緒にいて、これはいけると思ったんだよね。君もそう思うだろ?」
 その追加攻撃で、トパーズは飲みかけのコーヒーを吹きそうになってむせた。待って、よちよち歩きの亀はどこに行った。展開が早すぎる。
「ああー、えっと……寝たの?」
「うん」
 簡潔な問いに、簡潔な答え。勢いでつい聞いたけど、知りたくなかった。そういうことは正直に言わなくていい。トパーズは一応アベンチュリンより年下のうら若き乙女なのだ。
 いけるもいけないもない。これはおそらく、すでに完全に手中に収めている。あの男がつい最近まで未成年だと思っていた相手に軽率に手を出すとは思えない。仮に間違って手を出したとしても、後から責任を取ると言い出すに違いない。
 そう、責任を取るはずだ。アベンチュリンはのほほんと片思いを楽しんでいるようだけど、きっと想定以上に事態は進行している。
 これはジェイドに共有すべき。ちょっとごめんねと断って、取り急ぎメッセージを送った。「うちの問題児が厄介な男を恋人にしようとしています」、以上。すぐ端末に通知が届いた。一システム時間後に打ち合わせの予定が追加された合図だった。久しぶりの定時退社を返して、コーヒー二杯じゃ割に合わない。
 向こうから飛び込んできた案件とはいえ、好奇心で藪をつついたのはトパーズだ。泣き言を冷めてきたコーヒーと一緒にぐいっと飲んで、潔く諦めた。
 続いての問題は、この恋する男の背を押すか押さないかである。
 傍観者としては、面白いから押す一択だ。まとまったら絶対にイチャイチャしだすだろうから、からかうネタとして使ってやろうと思う。
 同僚としては、悩ましい。トパーズはこう見えてアベンチュリンのことを人として気に入っているので、応援したい気持ちはある。けれど、両手を上げて賛成とはいかない。アベンチュリンが恋にうつつを抜かして、本分を忘れたなまくらになっては困るのだ。
 恋が実っても、万が一破れても、アベンチュリンのメンタルがどう転ぶか読めない。切り分けて上手くやりそうでもあるし、重度の依存に陥りそうでもある。軽薄そうに振る舞っていても、人一倍情が深いことが言葉の端々から見える。アベンチュリン本人にはその自覚が足りないけれど。
 レイシオには頑丈な芯が通っていて嘘がないから、きっとアベンチュリンとの相性は悪くない。問題は、アベンチュリンが心を開けるかどうかと、レイシオがそれを待てるかどうか。たぶん待てないし、待たない。これから関係は一気に動くだろう。
 アベンチュリンが言うようにレイシオとトパーズが似ているのだとしたら、だいたい想像がつく。準備が整って獲物を狩ると決めたら、全力で仕留めにいく。もうその牙はアベンチュリンの喉笛に肉薄しているはず。
「どうやって告白するつもり?」
「また食事に誘おうと思ってる。それで朝になったら」
「夜の内にしなさい」
「そう? じゃあホテルの部屋で」
「食事のテーブルでしなさい」
「なんだい、指定が細かいな」
「これは重要なアドバイスだから。きっと私に感謝することになる」
 何かを予感させる場をセッティングして会うなら、アベンチュリンが告白する前に向こうからお出しされる可能性が高い。まだ自分の気持ちもふわふわで、人よりちょっと好かれてる程度だと思っているアベンチュリンには、寝耳に水だろう。
 毛を逆立てて飛び上がって逃げ出さないよう、支援しておこう。告白の成否はどちらでもいい。とにかくこれから起こりうる面倒事を回避するのだ。口数は多いくせに言葉足らずな男たちが、誤解を生まず拗らせず、収まるところに収まるように。
 トパーズはアベンチュリンの顔の前で人差し指を立てて、催眠をかけるように言い聞かせた。
「いい、大切なのは不退転の覚悟だよ。何が起こっても途中で降りないこと。目を逸らさない、席を立たない、はぐらかさない、曖昧にしない、後日回収するなら期限を切る。きっちり結果を出すの。仕事では得意でしょ」
「告白ってそこまでおおごと……? なんだか怖くなってきたな」
「恋は戦争だよ。ルビコン川を渡るんだよね?」
 不安の表れかアベンチュリンが手の中でダイスを弄び始めたので、そう例えた。トパーズの持論ではない。その方が伝わりやすいだろうと思ったのだ。一人で楽しむ片思いから先に進むなら、そこは相手次第で何が起こるかわからない戦場だ。心構えをして、刻々と変わる戦況に翻弄されずに対処してほしい。
……うん。励ましてくれてありがとう」
「おあいにくさま、励ましじゃないよ」
 約束の三十分になった。トパーズはコーヒーをあおって、残りを一息に飲み干した。
「時間だね、ごちそうさま」
 コン、とカップをデスクに置いて立ち上がった。次元の穴からカブがぴょいと飛び出して、クンクンと鼻を鳴らしてトパーズの足元をくるくる回った。私の可愛い子、大好きだよ。このあとちょっと吸わせて。
「私、これから予定があるの。悪いけど帰って」
「君も忙しいね」
 君たちのせいだよ、の文句は飲み込んだ。しっしっと来たときのように手振りで追いやる。アベンチュリンは苦笑して立ち上がった。
「時間をもらって悪かったね。結果の報告はいるかい?」
「ぜひともお願い。ドラマは最後まで見る主義なんだ、どんなにありきたりでもね」
 アベンチュリンはこてんと首を傾げた。その可愛らしい仕草は見せる相手が違う。色々話したせいか、アベンチュリンの対トパーズのガードが下がっている。ここから出たら気を引き締めてほしい。せっかくの恋なんだから、反対させないで。
「ありきたりって、つまり王道だろう?」
「ふーん、君にしては気の利いた言い回し。そう、何度繰り返し見ても色褪せないってこと」
 トパーズは腰に手を当てて微笑んだ。本日最後のこの言葉だけは、彼の友人として送る本心だ。
「ハッピーエンドは特にね」