sub.「ぼくたちの失敗」
#令悪いちさんのお題より
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「さいあくだ
……」
ほんとうに、最悪だ。
一郎の寝床になってしまっている、本まみれのロフト。
取りこんだばかりのシーツの山の中で、メフィストは途方にくれていた。
このままシーツに埋まっているいるわけにもいかない。
「どう、しよ」
せめてシルクハットがあれば
……と思っても、手遅れだ。
今日は事務作業と家事をすませるだけのつもりで、正装の準備をしていなかった。
一応業務時間ではあるので、エプロンの下はカッターシャツと、定番の黒のスラックスだ。
杖を取り出せればいいのだけれど、いまのメフィストでは魔力が微弱すぎてそれも叶わない。
からだの変化に、魔力が影響されてしまっている。
「あくまくん、そろそろ帰ってきちゃう
……」
つぶやいたとたん、ふよんっと黒くて長いモノがシーツの波から顔をだしてゆれている。
メフィストの不安を体現したようにゆれるそれ。
ねこのしっぽ。
――のようなモノじゃない。ほんものだ。
なんならふさふさした毛並のほんものの猫みみまで、メフィストのまるい頭にくっついている。
「どうしよ、これ」
理由はうっすらとわかっていた。分かっているから、こまっている。
このまま隠れていたってしょうがない。
幸い掃除はすでに終わってるし、急ぎの書類はない。まさに、頭をかかえている状態だ。
「ぅぅ
……」
さんかくの耳にゆびでふれると、ちゃんと感覚まである。
千年王国研究所に来る前に生えていたら、そもそもここに来ていなかったのに。
見なくても分かる。ふさふさの耳は、しっぽと同じ黒い色をしているのだろう。
――心当たりは、あった。
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ほんの、三日まえのことだ。
それは北鎌倉の山々に面した場所にある、古びた神社からの依頼だった。
先週、この地域を襲った暴風のせいで、祠が壊れてしまったのだと。
『当家は、いまでこそ術者を輩出しておりませんが、三百年前からあの祠を代々お護りしておりまして
……』
年かさの住職が、ちからの無い目で拝殿の右に視線をむける。
壊れたという祠はすでに修復されたのか、見ただけでは分からなかった。
『祠に
……本来ならここにあるはずの石が、ないのです』
無残にも崩れてしまった祠。
問題はそこで護られていたはずの石が、何者かによって奪われてしまったことだ。
『三日以内に、なんとかして頂きたい。もし奪ったものが悪意であの石を傷つけでもしたら、
その場が”ケガレて”しまう。普通の人間の精神では耐えられないでしょう。そうなっては、ただではすまない』
『
――先に確認しておきたい。鎌倉の管轄は、蘆屋家だろ? そちらに連絡はしていないのか?』
『まだ
……まだ、なにも起こっていません。とにかく石を回収していただければ
……っ』
とにかく回収してくれ、の一点張りでそれ以上聞きだすことは叶わなかった。
国内で起こる事件のうち、悪魔や呪術絡みのモノは全体の三割を占めていると言われている。
その中でも千年王国研究所は、悪魔関係に特化した機関として知られているはずだ。
石の所在を割り出すことは、一郎ならば可能だ。
ただし封じることとなったら、それ相応の術者が必要だろう。
一郎が名前をあげた蘆屋家は、現存している陰陽師の血統の中でも『裏御三家』と呼ばれ、この地域を担当している。
そこに連絡をいれていないという事は、この件をあくまで『個人の研究所に頼んだ案件』として済ませたいのだ。
『とは言ってもなぁ
……やっぱり、なつやくんに連絡しておく?』
『
……それしかないだろ。情報が少なすぎる。餅は餅屋だ』
『あのとき蘆屋さんちのお姫さま、保護してよかっただろ~?』
蘆屋家には、ちいさな童女の姿をした三つ子の式神がいる。幼い見た目をしているが、齢五百年は超えている古龍だ。
そのうちの一人がなぜか神調布のラーメン屋のまえでうずくまっていたのを、以前メフィストたちが保護したことがあるのだ。
あの時は、ここで引き渡せばいいという一郎に、おれが研究所までおんぶしていくからいいだろ、と少し言い争ってしまった。
ひとさまの家の式神だ。この町でなにかあってはいけないだろう。
結局メフィストが童女を背にのせようとしたところで、一郎はまるで荷物のように横に抱えて、さくさくと運んでいったのだ。
こら! 持ち方
……! と、口に出したくなったが、運んでくれるだけでも一郎にとって最大の譲歩だ。
研究所で話をきけば、おなかをすかせて動けなくなっていたらしい。
なぜ神調布に? と思ったが、追求はしなかった。見てくれは童女だが、ヒトならざるイキモノだ。こちらの常識は当てはまらない。
『ホットケーキしかないけど
……』と言うと、『それがいい!』と鈴の音のような声でねだられ、バニラアイスまでのせてしまったのを覚えている。
そのちいさなお姫さまのお目付け役をしていたのが、当時まだ高校生だった『なつやくん』だ。
肩書きとしては祓魔師候補生だったが、だいじな式神のお姫さまを任されているあたり、優秀なことがうかがえた。
中学までは剣道部の助っ人に駆り出されまくっていた、芦屋家自慢の竜騎士候補だ。
千年王国研究所の扉を叩くなり、こちらが恐縮するほどガクガクとあたまを下げた制服姿の祓魔師候補は、
『いや! わらわ、おかわりするの! まだ帰らない』
と、五枚目のホットケーキをメフィストにリクエストした自分の姫に、まっしろを通り越して青白い顔色になってしまっていた。
『お腹、すいてるんでしょう? うちはかまいませんよ』
『いえ、あの、でも』
『これから悪魔くんのぶんも焼くし、本当にうちはかまわないので』
まだまだお腹をきゅう
……っと鳴らしている姿はかわいそうだった。子どものように見えて、実体は古龍だ。エネルギーの量が違う。
ただ待たせているだけなのもなぁ
……と、けっきょく一郎と姫さま、なつやくんの分まで焼いてしまった。
最初ガチガチに遠慮していた高校生は、メフィストのホットケーキをまえに盛大に鳴ってしまった腹の音にまっかになりながらも、食べ盛りのくいっぷりを見せてくれたのだ。
聞けば、都内で起きた怪異の後処理に見習いとして駆り出され、昼食もまだだったらしい。うちではありえない、勤務状況だ。
『俺までお世話になっちゃって
……なんと言ったらいいか』
そうして九十度にビシっと頭をさげたなつやくんは、後日お姫さま直筆の『なんでもします券』三枚を、研究所に届けにきてくれた。
名門家の古龍が保証する、正真正銘の『なんでも券』だ。
その一枚目を、メフィストたちはここで切ることにしたのだ。
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「
……ほんとうに、その節は申し訳ありませんでした
……っ」
「なつやくん、相変わらずだなぁ」
直角に腰を折ったなつやくんは、連絡をいれたところすぐにこの寺院にやってきてくれた。
内密に、と言ってあるので祓魔師の制服でなく、きょうはラフな格好をしている。
オフホワイトのやわらかそうなニットが、人懐っこい印象のなつやくんに良く似合っている。
見た目だけでは暗闇に刃をふるうような凄腕の祓魔師には見えないだろう。
お姫さまは、きょうは他の姉妹といっしょにおとなしく留守番をしているらしい。
それでも何があるかわからないので、なつやくんの時間制限は夕方の五時までだ。
「この寺の石なら、登録されてるので分かりますよ」
「そうなの? 助かる!」
蘆屋家の祓魔師がそろいで持っている数珠。
管轄内にある寺院の魔具や、特定呪物に至るまで
……その全データが術式で編みこまれているらしい。
『星をよみ、自然をよむ』と平安時代から重宝されてきた、蘆屋家の顧客データでもある。
便利だが、蘆屋の血統でなければ読み取りすら不可能だ。
「ほら、あのときお姫さま保護してよかった、だったろ? 悪魔くん」
「
――きみのホットケーキをあれだけ食べたんだ。これぐらい役に立ってもらわないと困る」
「北に三キロ進むと、沼があります、石は確実にそこなんですが
……うわ、沼の水に瘴気がこぼれ出しちゃってる
……これ以上の追跡は
……すみません」
「場所が分かっただけで充分だって! な? 悪魔くん」
行方不明の石の場所は、すぐに特定ができた。
何なら犯人も、判明してしまった。
「微量ですが、あの家の魔力痕がありました
……これ、たぶんあそこの寺にいる猫の仕業だ。ちっちゃい石だし、遊んじゃったのかなぁ」
いちばん末の孫が可愛がっている猫の仕業だという。
もともと寺の敷地内にすみついていた猫で、小学生のお孫さんがちいさなころから餌をあげたり構っていたらしい。
くだんの嵐の日もその子が、こっそり自分の部屋に猫をまねき、雨風からまもっていた、と。
ここまで判明すれば、あとは沼から見つけ出すだけだった。
いったん寺院に戻り、一郎と準備をすすめながら、依頼者に石のありかを報告したのだけれど
――、
『よりによって
……どうしてあの石を
……っ』
『だから猫なんか構わせるなと言っただろ? おまえ、ちゃんと見てたのか』
『あなたがそれを言うんですか? わたしと”あなた”の子でしょう?』
口を開くことすらしていなかった息子夫婦が、不安をぶつけるように言い争いを始めてしまったのだ。
とげとげしい両親の声を聞きながら、ちいさな身体を堅くする子どもはずっとうつむいていた。
それにしたって、この場でいう事じゃない。さすがにメフィストが口を挟もうとした、そのときだ。
「
――石がみつかれば、問題ない。それでいいな?」
不躾な口調だが、場を支配する響きがあった。
そうだ。依頼された内容はそれ以上でも以下でもない。
一郎はなお、強い視線をよこす。
「っええ、うちは、それで
……とにかく”何も起きない”うちにお願いします」
「最初の約束はたがえない。”何も無い”うちは、千年王国研究所の案件として処理する。
――メフィスト、今日中に終わらせるぞ。かならず」
一郎の呟きに、ちいさくなっていた子がぱっと顔をあげる。
メフィストも杖をにぎる手に、ぎゅっと力をこめた。
・
・
・
――沼の異変は、メフィストでもわかった。
息苦しさと、妙な圧力。
よどんだ空気が、湿気のように肌にまとわりつく。
そう深くもないはずの沼の底は、どろっとした黒に浸食されていた。
「だめだ
……封印、解けかかってます。ここの段階まできちゃうと、メフィスト3世さんの魔力はつかえません。
刺激すればするほど”取りこまれる”どうします? 範囲はそれほどでもないですし、いっそ沼ごと封印しましょうか?」
「いや
……」
なつやはそう申し出てくれたが、一郎は首をふっていた。
だから泥まみれの石が見つかるまで、彼もいっしょになって探してくれたのだ。
迷子のお姫さまを保護したあとも、なつやとは何度か現場をともにしているので、一郎の性分はとっくに知られている。
なつや曰く、
『
――うちの姫、メフィスト3世さんのホットケーキ、本当にいっさい遠慮なく、どんどん、どんどん食い尽くしちゃったでしょ? オレ、あのときが一番怖かったです』
あの時の一郎さんに比べたら、どの現場も怖くなくなっちゃって
……と、ひそめた声で教えてくれたことがある。
一郎は誤解されやすい。
次世代の祓魔師の中心となるだろうなつやの言葉は、メフィストにとってうれしいものだった。
――そしてとうとう、石はみつかったのだ。
「
……やっぱりな」
「???」
髪にも顔にもくっつく泥をぬぐいもせず、一郎の口の端がニヤリとあがる。
防御魔法が付与された手袋ごしに見えた石は、ヒビだらけだ。
「
――みろ、これだけヒビが入っているのに、泥がいっさい這入り込んでいない。瘴気が分厚い膜になっている。つまり【池に投げ込まれる前】から、この石は壊れていたんだ」
「じゃあ、あのねこ、最初から
……?」
「そうだ。ひび割れ、汚染がはじまった石から、じぶんの家族を護ろうとしてこんな場所まで運んできたんだろうな。見ただろ、爪がすべて折れていた。
石を遊び使おうとして
……じゃない。石を遠ざけようとして、ボロボロになったんだ。依頼者家族には、君から説明してやってくれ」
一郎の顔にはもう笑みはなかったが、口調が早い。満足のいく結果だったのだろう。
メフィストも、ぐっと詰めていた息を吐きだす。猫は、あの子にとって家族で
……守り神だったのだ。
もうあの子は、白い顔でうつむくことはないだろう。
「あくまくん」
「メフィスト、ひっぱってくれ」
「あくまくん!」
「くそ
……っ足が抜けない」
冷え込んできた沼のすみで、泥まみれの一郎は抜けなくなった足と苦戦していたが、この不器用な悪魔くんがメフィストは誇らしかった。
すきだな、と思う。
面倒くさがりのように見えて、大事なことをこぼさない。
ただただ封印しただけじゃ、この結末にはたどり着けない。
ちいさな『もしかして』を惜しまない一郎が、すきだ。
不器用でわかりにくい、一万年にひとりだなんて、自分でそのまま説明しちゃう天才で、
痛みをしっているメフィストの悪魔くん。
メフィストはただの従兄弟で、まだ父のようにはいかない未成熟な悪魔だ。
それでも、一郎が守ろうとするひとつひとつをこぼしたくない。
なんでもない顔で、泥まみれの手で猫の潔白を証明しちゃうような一郎がすきだ。
あくまくんでも。
そうじゃなくても。
――こういうとき、気づかないふりができなくなる。
恋なんだと思う。隠さなくちゃいけない、恋だ。
悪魔の欲にさらしていい人間じゃない。すき、のきもちはメフィストだけの一方的な秘密だ。
それなのに。
・
・
・
「どう、しよ」
抱えていた手のしたで、ふわふわの耳がひくっと動く。
この手触りを、メフィストはしっている。
石をとりもどした、あとだ。
泥まみれのふたりは、何だかんだと風呂をかりたばかりか、寺の離れに泊めてもらってしまった。
お孫さんから『さわる? ふわふわなんだよ』と、潔白を証明した黒猫を撫でる権利までもらって。
子どもの膝の上にいた猫は、じぶんの小さなご主人様がニコニコしているのを確認するように見上げ、おとなしくしていた。
かしこい猫だ。メフィストがとまどっていると、自分から膝にのってくる。
かわいいな、と素直におもった。
一郎は『僕はいい』とそっけなく首をふっていたが、メフィストが猫を撫でているあいだ、じぃっとその様子をみていた。
『いい』と断ってしまった手前、いまさら触りたいと言えないのだろう。
こうなってしまうとメフィストが何を言っても逆効果だ。
じっと見てくる一郎はちょっとかわいくて、触れないのが少しかわいそうだった。
黒い毛並がつやつやしていて、だけどさわるとふんわりしていて、あたたかい。
おとなしく身体をあずけてくるのも、すごくかわいかった。
――悪魔くんも、この猫にさわれたらいいのに。
たしかに、メフィストはそう思った。
(
……だ、から
……??)
(これ
……ねこのお礼?)
メフィストたちに恩を返したいと願った猫と、
メフィストの『気質』が上手く作用してしまったのだろうか。
番外の悪魔、誘惑の象徴
……そう呼ばれるメフィストフェレスは、じぶんを呼びだした者に弱い。
現在メフィスト3世であるじぶんを召喚できるのは、一郎だけ。
願いをかなえたいと本能でのぞんでしまう対象は、一郎だけなのだ。
その性質とあの神域にいた猫の波長が、合ってしまったのだろう。
でも、だからって
――、
「おれにネコ耳ついて、どうすんの
……っ」
「
――ねこが、なんだって?」
「っあくまくん!!」
しまった。
考えごとに没頭していて、一郎が帰ってきたことに気づかなかった。
ねこの耳なんだから、そこは足音なり過敏になってほしい。
これじゃほんとうに、ただただ耳が生えちゃっただけだ。
「あっ」
思ったより近くにいた一郎は、メフィストを隠していたシーツを簡単にはいでしまう。
いっしゅんだった。
ひくっとふるえた耳を目にした一郎が、分かりやすく固まっている。
あたりまえだ。
なにか。なにか言わなくちゃいけないのに。
「
――メフィストこれはどういうことだ」
「ぁ、」
口調が早い。一郎もまだ混乱している。
くにっと耳をつままれて、思わずびくっと身がすくんだ。
くに、くにぃっ
「~~~ぁ、くまくん、それやだ
……っ」
「っ」
声がかすれる。ぷるっと全身がふるえた。
耳のふちをつままれ、一郎のゆびが、無遠慮にちいさな穴に這入り込んでくる。
「ゃ、だぁ」
やだ。もう一度くり返したら一郎はやっと手を離してくれた。
だけどメフィストを逃すつもりはないらしく、気づけば身体をシーツにくるまれたまま、膝にのっけられてしまう。
食い入るような視線に、からだがじわっと汗ばむ。ひくんっと甘えるように跳ねた腰に、気づかないでほしい。
まぶたが熱い。向かい合わせの体勢のせいで、視線すらにげることができない。
「
……かってに触って悪かった」
ぶんぶんと、それには必死に首をふった。
過剰反応なのは、メフィストだ。
(
――みみ、さわられただけなのに)
おなかのしたがズキズキする。吐く息があつい。
耳としっぽが生えただけじゃない。ふれる肌がぜんぶ、敏感になってしまってる。
「
――いつから、こんな」
「おれもさっき、気づいて
……」
「
……あれか
……あの黒猫の
……いや、魔障のたぐいじゃないな、これは
……」
ぶつぶつと呟きながら、無意識なのか一郎の手がふたたび耳にのびる。
「っ」
「痛くしない。やさしくなら、いいか?」
言葉のとおりに、かさついた指先がそっとふれてくる。
息をつめたのに、「ぅ~~」とこぼれてしまった声に、一郎の手がぱっと離れそうになる。
いやだ。
もっとなでてほしい。
あくまくんの、すきにしてほしい。
「あくま、くん」
ドクドクと心臓が跳ねる。
どうしよう。どうしたら。
うまく口が動いてくれない。制御できないしっぽが、強請るように一郎の腕にまきついてる。
たどたどしい誘惑だ。まぶたがじわっと熱をおびる。
こころまで、身体に引っぱられてしまってる。
「
――……ねこの、お礼だと、おもう」
「お礼
……?」
「あくまくん、おれがねこ触ってるの、じっと見てたでしょ?」
「
……これが、お礼だっていうのか」
「っあくまくん、ねこのこと見てた。だけど断わっちゃったでしょ? だから
……っ」
だからきっと、おれに耳がついちゃってるんだ。
そうじゃなかったら、説明がつかない。メフィストだって混乱している。
「あ、ぅ
……っさわっちゃ、」
ねこのみみを触るのはやめてくれたのに。
なぜか一郎はメフィストの耳の方にさわってきて、『あつい。まっかだ』などと口早につぶやいている。
窮屈に黒のスラックスから飛びだすしっぽにも興味があるようで、無言でズボンのチャックを下されしまう。
「~~~~~っ」
「そのしっぽも
……ほんものなんだな」
節くればった指が、ぐりぐりと敏感な付け根をなでまわしてくる。泣きそうだ。
中途半端に脱がされた下着のなかは、ゆるく反応しちゃってる。
メフィストのしっぽの付け根をいじくりながら、食い入るような一郎の視線がますますつよくなった。
「みちゃ、やだ
……ぁ」
やだ、あくまくん。
やだ、って。
声がかすれてる。ぎゅうってしっぽは巻きついてるし、一郎にくっつけた腰がひく、ひくってはねてる。
ぴるぴると頭のうえで反応している耳だってばればれだ。
「ぅ~~~~~」
なにをしてもビクビクとからだをふるわせるメフィストを、一郎は慎重に観察してるみたいだ。
じぶんの悪魔に、ねこの耳なんて生えてしまっているのだ。
心配されている。
心配させてしまってる。
(や、だ)
見ないでほしい。離れてほしい。
じゃないと、だめなことをねだってしまいそうだった。
「
……黒猫のお礼か
……」
「???」
「つまり、”お礼”となる行為を一通り行えば、この状態は解ける
……のか?」
あたまの上の耳からしっぽまで、まっすぐ視線が這う。
そうだ。こんな状態のままじゃ一郎だって困る。
「ぱぱに、いう?」
「
……それはこの状態の君を、ここから出すってことか?」
困ったことがあれば大人を頼ること。助けを呼ぶことも、大事な役割のひとつだと。
自分たちで解決できないことをそのままにしておくことこそ、恥ずべき、やってはならないことなのだと。
研究所を立ち上げるとき、保護者ふたりから散々言われてきた。
「
……これは僕がなんとかする。きみを巻きこんだのは、僕だ」
「???」
ちがう。巻きこまれたのは一郎だ。
ちがうのに。
「なん、で」
「嫌だったら引っ掻いてもいい。きみが嫌な事だけはしたくない」
「あっ」
ずるっとズボンを膝まで下され、思わずぎゅうぎゅうしがみついてしまう。
すりよせた太ももの間で、濡れてる下着がくちゅんっと性器にはりついて、ぴんく色が透けてしまっていた。
ふるふると首をふっても、すこしも拒絶になっていない。
こんなときですら、いやなことしたくない、なんていってくる。
いやなはずないのに。
(すき)
(すき、あくまくん、すき)
いやじゃない。もっとさわってほしい。
爪なんて、たてられるワケがない。
「メフィスト、」
「~~~~~っ」
性急に名まえを呼ばれる。
あくまくんに、
いちろうにされてイヤなことなんてない。
「
……ここも、いいか?」
さわっていいか? って。
固いてのひらでおなかのしたをゆるく撫でられて、じぃんっとしっぽの付け根があまく痺れる。
メフィストの、恥ずかしくなってしまっているところに、性急に汗ばんだ手がのびていった。
ぶわっとしっぽがふくらんで、侵入をゆるすように膝がゆるんだのを、一郎は見逃してくれない。
「
…っ♡」
ちゅっ
くちゅっ、くちゅぅぅ
あくまくん、って。
ひっしになまえを呼んだら、くちのなかに舌をねじこまれて、なかを舐めまわされてしまう。
「♡
……ぅ、ん
…ん、んぅ」
にゃあ、と鳴くかわりに、
いっぱいなまえをよびたいのに。
メフィストばかりがご褒美をもらってしまってる。
口づけられながらいちろうの腹のしたに手をのばしたら、いちろうも興奮していてすごくうれしかった。
うれしい。きもちい。
すき。うれしい。
ちいさな手のしたで、いちろうの欲がドクドクと膨れあがる。
(あくま、くん)
あくまくんにも、
これがご褒美になったらいいのに。
そう思いながらすでにご褒美状態のちいさな悪魔は、
ゆうわくの名にふさわしく、未成熟なからだを目のまえの男に、ひらくのだった。
・
・
・
(※いちくん視点につづきます)
【R-18】みたことない魔物と、
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